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第54話

 4ー13 テオ  俺は、ストレージバッグ1つ持って軽装で家を出ると、そのまま背を向けた。  なんか、胸が痛い。  幼い頃に過ごした懐かしい我が家に少しでも戻れたことは、俺にとては、幸福なことだった。  すべては、マイルズたちのおかげだ。  どこかに落ち着いたら、きっとマイルズたちには、手紙を書こう。  俺が村の外を目指して歩き出すと同時に声が聞こえた。  「どこに行くつもりだ?ティル」  はい?  俺は、ぎょっとして恐々後ろを振り向いた。  そこには、テオの姿があった。  テオは、黒い髪を逆立たせて、怒りに満ちた瞳をして俺を見詰めていた。  「テオ」  俺は、テオの名を呼びながら身構えていた。  テオは、俺にゆっくりと歩み寄ってきた。  緊迫した空気が俺たちを包み込んでいた。  「テオ、すまないが」  「俺は」  テオが俺を見詰めたまま呟いた。  「もう、魔王の許しなく、お前を抱くことはできない」  なんですと?  俺は、テオのいきなりの告白に耳をそばだてた。  「テオ?」  「魔族は、自分より高位のものが番紋を刻んだ者を許しなく抱くことはできない」  「マジで?」  高位の者に番紋を刻まれた相手は、その番紋を刻んだ者より下位のものから守られる。  それが、魔族の掟なのだといいう。  つまり、俺は、魔族の最高位である魔王によって番紋を刻まれているので、もう、魔王以外の魔族からは、手を出されることはない、ということなのか?  俺は、テオにそれを確かめることができなかった。  テオは、かなり俺に執着していたからな。  なんか、申し訳ないような気もする。  俺は、まったく悪くないけどな!  テオは、そっと俺の頬へと手を伸ばして触れた。  冷たい指先に触れられて、俺は、背筋を震わせた。  テオは、指先で俺の唇をたどった。  「もう、お前を許可なく抱くことは許されない。けど、それでも、お前が 俺の唯一の番であることに変わりはない」  テオの微量な魔力を感じて、俺は、吐息を漏らした。  テオは。  月明かりの下で、銀色に輝く涙を流していた。  「テオ・・」  「俺は、お前のためだけに生きる」  テオは、俺の髪に唇を落とした。  「俺は、お前のための盾であり、お前の剣だ。俺に命じるがいい、ティル。俺は、お前の望むことならなんだって叶えるだろう。それが例え、魔族全体の意思に反することであろうとも、な」  なんですと?  俺は、そっとテオの濡れた頬を拭った。  テオは、静かに目を閉じた。  テオは、本気だ。  本気で、俺と共に逃げようとしてくれている。  そのために、命を落とすことになろうとも。  

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