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第76話
6ー7 望んでません!
サティ様は、しばらくアストレイとひそひそと話し込んでいた。
時々、ちらっとこちらを伺う様子がなんか嫌な感じだった。
俺は、隣に腰かけた勇者様を振り返った。
勇者様は、なんか落ち込んだ様子で昼食のシチューをつついていたが、俺と目があうと顔をあげて不満げに口を開いた。
「いいっすよね、ティルは」
「何?その言い方」
俺は、むっとして勇者様を冷たい目で見つめていた。
勇者様は、すねた感じで俺を上目使いに見上げていた。
何?
この人、俺に嫉妬してるのか?
俺は、さらにムカついていた。
あんた、奥様のこと好きなんじゃないのかよ!
「ティルは、いいっすよね。モテモテで」
はい?
俺は、じっと勇者様を睨み付けた。
「どういうことだ?」
「どうって」
勇者様が、ふてくされた様に口を尖らせた。
「魔王様にあんなに愛されていて、しかもテオとか愛人もいっぱいいるし、さらには、アカネからも好かれているし、この上サティ様にまでなんて、羨ましすぎるっす」
なんですと?
俺は、はぁっとため息をついた。
そのうちの1つでも俺が自分から選んだものがあるかよ!
「俺は、選ぶ権利なしかよ?」
ぼそっと呟いた俺の言葉に、勇者様があれっ?っていう顔をした。
「でも、そうなっているのは・・今のあんたがあるのは、 あんたがそれを望んだからじゃないんすか?」
俺が望んだから?
「望んでるわけがないだろうが!」
俺は、思わず声を荒げた。
サティ様が怯えるような目で俺を見つめるのがわかった。
俺は、黙って立ち上がると食堂の外へと歩きだした。
俺は、1人で魔王城の外へと歩いた。
俺は、祭りに浮かれている街の中をあてもなく歩いた。
なんだよ!
俺が望んでこうなっているわけがあるかよ!
俺は、この年になるまで真面目に冒険者やってきた。
薬草集めしかしてなかったとはいえ、荒くれどもの世界で生きてきたんだ。
まあ、恋愛は、する機会がなかったし、かといって娼婦を買うこともなかったけど、別に男が好きとかじゃなかった。
なのに。
この年になって。
まずは、テオに。
そして、ガイに。
男なのに子を孕むほどに愛されて。
そんなこと、俺が望んだわけがないだろうが!
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