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第90話

 7ー8 勇者の春  最終的には、マイルズたちもいろいろあったけど、俺がそれを受け入れていることを知ると納得してくれた。  そうして、俺たちは、サナたちの婚姻の儀式に立ち会った。  マイルズは、儀式中、ずっと泣き通していた。  そんなマイルズに俺は、ずっと付き添っていた。  「まさか、末っ子のサナが1番に嫁ぐとはな」  ケインとカイが少し不満げに、だが、心の底から嬉しそうに笑いあっていた。  式は、滞りなく進んでいった。  式の最後には、新郎新婦からの『花送り』の祝いがある。  『花送り』とは、婚姻を結んだ2人が次に婚姻する者たちへと花を贈るという儀式だ。  それにサナとミミル先生は、俺とサティを選ぶ予定だった。  だけど。  大きな青いラミアの花束を抱えた2人は、皆の期待を裏切り俺たちではなく、奥様と勇者様の前に立ち止まった。  「おめでとう、アカネ、アニタス。次は、あなたたちに愛の女神の祝福がありますように」  ミミル先生にそう言われた時、奥様は、きょとんとしていた。  まあ、仕方がないか。  なにしろ、奥様は、異世界人だしな。  それに、この2人は、まだ恋人同士ですらないし。  戸惑った末に、奥様は、ミミル先生たちに花束を押し返した。  「ミミル、私たち、これを受けとることはできないわ」  奥様がそう言ったとき、急に勇者様が奥様の前に跪くと奥様を真摯な眼差しで見上げた。  「アカネ、自分は、勇者なんかやってても、ほんとにつまらない人間なんすけど、どうか、これからの俺の一生は、俺と一緒にいて欲しいっす。俺の伴侶に なってください!」  うん。  それは、なかなかの見物だった。  勇者様にプロポーズされた奥様は、ゆっくりと変化していった。  最初は、仄かに。  そして、最終的には、真っ赤に頬を染めて、そして、奥様は、ぶんぶんと力強く何度も頷いた。  歓声があがる。  俺たちは、みな、笑顔だった。  奥様は、ラキアの花束を受け取り、次の花嫁となることが決まった。  勇者様はというと、男泣きに泣いていた。  まあ、やっと勇者様にも春が来たということだった。  

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