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第89話
7ー7 婚姻の儀
楽しい時は、あっという間に過ぎていく。
1ヶ月続いた『雪花の祭り』は、気がつくと今日で最終日となっていた。
今日は、予定が盛り沢山だ。
まずは、サナとミミル先生の結婚の儀があった。
結婚の儀は、『カエルのギルド』に王都の教会から愛の女神に使える神官長をお招きして執り行われた。
それなりに着飾って見違えるサナと、異世界の美しい白いドレスを身に纏ったミミル先生が現れると、俺たちは、歓声をあげた。
ミミル先生と愛を誓い合うサナの姿を俺は、感慨深く見つめていた。
あの小さかったサナがなぁ。
俺の隣では、サナの父であるマイルズが号泣していた。
マイルズとその息子たちは、徴兵され国境の前線に出ていたが、特別に帰郷することを許されて戻ってきていた。
村に戻ってきた彼らの驚きようといったら!
「ここは、本当にカナンの村なのか?」
そう、彼らは、最初にきいた。
無理もない。
もう、以前のカナンの村の面影はほとんど残ってはいないからな。
何もなかったあのカナンの村が今では王都と肩を並べるほどの都になっていた。
「これは、まあ・・」
マイルズは、感極まって涙を流していた。
「これが、あの我々の村なのか?」
マイルズは、涙を拭うと、出迎えた俺たちに微笑んだ。
「もう、大丈夫なんだな?飢えている者は、もういないんだな」
俺とマイルズは、しばらく無言で見つめあった。
久方振りの再会だ。
「マイルズ」
俺が名を呼ぶとマイルズが頷いた。
「ティル、立派になって」
マイルズたちは、俺が今や、魔王城の核となり、魔王たちの愛を一身に受けていることを知ると、目を丸くして驚いていた。
「なんとまあ、お前が魔王の番とな」
マイルズは、驚きを隠すこともなく俺の肩をばんばんと叩いた。
「お前の家族が増えたことを喜ぼうじゃないか、ティル」
「ありがとう、マイルズ」
俺は、年老いて以前より少しだけ小さくなった父を抱き締めた。
「ありがとう、マイルズ」
マイルズとその息子であるケインとカイは、俺が臨月であることを知ると心底驚いていた。
「マジか?」
「俺たちの大切なティルを孕ませた奴を殴ってやる!」
ケインが物騒なことを言い出したので、俺は、慌ててしまった。
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