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第88話
7ー6 愛と運命
奥様は、言った。
『私には、もっと崇高な愛がある』
俺は、祭りの最終日に行われるサティ様と俺の婚約発表の時の衣装の仮縫いのために半裸で部屋の中央にたっていた。
俺を囲んでてきぱきとたち働いている魔王城のお針子さんたちがさざ波のように低く笑っているのを見つめていた。
奥様は、真剣な表情で俺の手をとった。
『ティル。私には、使命があるのよ』
奥様は、俺に向かって力説した。
『それは、この世界にBLを普及させることよ!』
なんのことやら。
俺は、部屋の真ん中に立ったまま苦笑した。
奥様は、また、おかしなことを言い出した。
そんなことよりも、俺は、咳払いをした。
「ミミル先生は、どう思います?」
俺は、部屋のすみでソファに腰かけているミミル先生にきいた。
ミミル先生は、手にしている『スマホ』から目をあげると俺に微笑んだ。
「その衣装、素敵ね、ティル。すごい刺繍がきれい」
「エルフの里の方たちが俺の婚礼のためにわざわざ刺繍してくれたものらしいです」
俺は、申し訳ないような気がしていた。
こんな形だけの婚姻のために、こんなにも手の込んだ美しい刺繍を施してもらってすみません。
「そうなのね」
ミミル先生は、ほぅっとため息をついた。
「私とサナの婚礼のためにアカネがプレゼントしてくれたドレスも素敵なのよ」
「そうなんですね」
俺は、幸せそうなミミル先生を微笑ましく見つめていた。
うん。
サナとミミル先生ににも幸せになって欲しい。
「異世界の花嫁衣装の美しいことったら」
ミミル先生は、うっとりとした眼差しで天を仰いだ。
「ほんと、この世界の婚礼にもこのドレスを取り入れるべきだわね」
「それより、ほんとに例の計画、実行できるんでしょうか?」
俺は、ミミル先生に相談した。
「不必要に勇者様にダメージを与えちゃいませんかね?」
「大丈夫でしょ」
ミミル先生は、事も無げに言った。
「アカネが変なのはもともとなんだし、勇者様は、そんなアカネが好きなんだから」
「そうでしょうか」
俺は、ため息をついた。
奥様は、俺に宣言したのだ。
『私は、BLをこの世界の愛をまだ知らない乙女たちに普及させるのよ』
奥様は、言った。
『BLこそは、新しい乙女の嗜み、よ!』
びーえる?
俺がびーえるって何、ってきくと、奥様は真剣な表情で俺の手を握りしめた。
『あなたは、まだ、それを知らなくってもいいのよ、ティル。心のままに生きなさい!』
心のままにに?
俺は、なんか厭な感じがして奥様から少しだけ後ろへ下がった。
何を、俺が心のままに生きて、びーえるなんだ?
『いいかしら、ティル』
奥様がぐっと拳を握りしめた。
『BLとは、愛。そして、運命、よ』
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