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第92話

 7ー10 戻らせて!  目覚めよ  その声は、そう俺に囁いていた。  目覚めよ、『聖王』よ  俺は、徐々に意識が甦っていくのを感じていた。  「んっ・・」  俺がゆっくりと目を開くと、そこには、あの藍色の瞳の大男がいた。  「気がついたのか?『聖王』よ」  「ふっ・・」  俺は、頭を振った。  ここは、どこだ?  俺は、辺りを見回した。  そこは、魔王城の俺の部屋のベッドの上だった。  でも。  何かが違っている。  俺は、ベッドから起き上がると、立ち上がり窓辺へと歩いて行くと外を見た。  何も変わらない世界だった。  そう。  ただ、何かが違う。  魔王城の前に広がるカナンの村の景色に俺は、はっと気づいた。  この世界は、変化する前のカナンの村だった。  魔族が入り込んで村は、賑やかにはなていたが、なんだかちょっとだけ違う。  俺は、村の端っこに建っていた筈の奥様の屋敷が見えないことに気づいた。  そうか!  この世界には、奥様がいないんだ!  俺は、ふとめまいを感じていた。  ふらつく俺を大男が抱き止めた。  「無理をするな、まだ、転移のショックが癒えてはいないのだ」  その藍色の瞳、漆黒の色の髪を持つ大男は、シロア・グレイウスと名乗った。  「私は、この世界の魔王だ」  マジですか?  まるで、ガイとは正反対の外見のシロアに俺は、なぜか、奥様のことを思い出していた。  奥様と同じ、黒髪に黒っぽい瞳のシロアは、もしかしたら奥様となにか関係があるのだろうか。  「あんたは、『渡り人』であるアカネ・ナカガワを知っているか?」  シロアは、頭を振った。  「何者だ?その『渡り人』とは」  うん?  俺は、驚いていた。  この世界は、まるでもとの世界とそっくりともいえるぐらい似ているのに、『渡り人』がいないようだった。  「なんで、俺をこの世界に連れてきたんだ?はやく、もとの世界に帰してくれ!」  俺は、大男に詰め寄った。  大男は、不機嫌そうに俺に告げた。  「お前は、もう、こちらの世界のものだ。もとの世界には、帰れない」  ちょっと待ってください!  俺は、大男に声を荒げた。  「いい加減なことをいうな!はやく俺をもとに戻せ!」  

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