100 / 110

第100話

 8ー5 別れ  テオは、恐る恐るルーミアとエリエルに触れると2人を抱き上げた。  子供たちもテオを受け入れていた。  ガイが、俺に告げた。  「もう、時間がない。急いで戻らなくては、扉が閉じてしまう」  ガイは、俺を抱き寄せると囁いた。  「一緒に帰ろう、ティル」  帰る?  俺は、一瞬躊躇してしまった。  あれほど帰りたいと思っていたのに。  俺の脳裏をシロアの面影がよぎる。  シロアは、今日は、たまたま領地の見回りで城をあけていた。  「ちょっと、待って」  俺は、2人に言った。  「こっちで世話になってる人にお礼を言いたいんだ」  俺は、シロアに一目会ってから帰りたかった。  だけど、ガイは、きっぱりと答えた。  「だめだ、ティル。もう時間がない」  テオも子供たちを抱いたまま俺を振り向いた。  「2つの世界をつなぐ扉が出現しているのは、たったの7分だけなんだ」  「急ぐんだ、ティル」  ガイが、俺を促した。  俺は、急いで文机にむかってペンをとった。  一言でいい。  シロアに何かを残したかった。  でも。  俺には、なんと書けばいいのか、わからなかった。  シロアと暮らした日々がぶわっと思い出された。  シロアにこちらの世界につれてこられてから、ずっと不安だった俺のそばにいて俺を支えてくれた。  子供たちが産まれ、俺は、この子たちを守らなくてはと、気をはっていた。  そんな俺を守ってくれたは、彼だった。  胸がいっぱいで。  俺は、シロアに何を言えばいいのかわからなかった。  「いそげ!ティル、もう時間がない!」  ガイが俺を抱き上げると、そのまま扉へと向かって歩きだした。  俺は、はっとして、後ろを振り向いた。  「レクルス!」  俺は、レクルスへと手を伸ばした。  「レクルスが!」  「ティル!もう、時間がないんだ!」  俺は、レクルスをもう一度呼んだ。  だが、レクルスは、俺の手を取らなかった。  「シロアお父様は?」  レクルスは、俺たちを涙を溜めた青い瞳で見上げた。  「僕たちがいなくなったらシロアお父様が一人ぼっちになっちゃうよ?」  「レクルス!」  俺は、レクルスを呼んだ。  「こっちへ!」  「ティル!時間がない!」  ガイが俺を抱き締めて光の扉へと歩きだした。  それでも俺は、必死にレクルスへと手を伸ばして叫んだ。  「レクルス!」  俺たちが扉を抜けると、すぐに扉は消滅した。    

ともだちにシェアしよう!