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第101話

 8ー6 きっと再び  壁に手を伸ばして触れた。  冷たくて硬い。  俺は、ガイの手を振りきると、さっきまで扉があった場所に座り込んだ。  「レクルスが!」  俺は、壁を殴った。  「まだ、レクルスが残ってるのに!」  「ティル!」  ガイが俺の手を掴んで止めようとしたけど、かまわず俺は、壁を殴り続けた。  「レクルスが!俺の子供が!」  俺は、壁を殴り続けた。  手がひどく痛み血が滲んでいた。  それでも、俺は、壁を殴り続けた。   「ティル!」  ガイが俺を背後から抱き締めた。  「もうやめろ!」  「でも、レクルスが」  俺は、涙を流しながら後ろを振り返った。  「レクルスが」  流れる俺の涙を指先で拭うと、ガイは、俺を固く抱き締めた。  俺は、ガイに抱かれて泣いていた。  ガイは、何も言わずに俺を抱き締めていてくれた。  俺は、ガイの胸にしがみついて号泣していた。  そんな俺を見ていた奥様がぽつりと呟いた。  「時空を越える魔法は、禁忌の術だけど、2度と使えないわけじゃないし。また、発動の条件があえば使えるから」  「だけど、次に条件があうのは50年後だけどね」  ミミル先生がため息をついた。  50年。  魔族や、若者にとっては、ありうる時間だが、俺には、そんな時間はない。  俺は、おっさんだ。  あと何年生きられるのかもわからないのだ。  俺には、そんな時間はない。  シロアは、もう、時空間の転移はできないと俺には話していた。  つまり、俺は、もう、2度とレクルスに会うことができないということだ。  レクルスは、年の割にしっかりとした 子だけれど、それでもきっと1人残されて不安なのに違いない。  シロアがいるとはいえ、きっと、1人で泣いていることだろう。  俺は、後悔にさいなまれていた。  なぜ、俺は、あのときレクルスの手をとらえられなかったのか。  レクルスを。  もう一度、抱き締めてやりたい。  俺は、ガイの腕に抱かれて泣き続けた。  泣いて、泣いて。  そして、いつしか、ガイの腕の中で眠りに落ちていった。    そこは、いつか訪れたことのある場所だった。  広い広い草原の中にすっくとたっている一本の大木の根元。  あのとき、俺を導いた美しい男が立ってて俺に微笑んだ。  「もうすぐ、2つの世界は、この神木によって繋がります。あなたが神木の王をこの世界に産み落としたから」  クロネは、俺に告げた。  「きっと、再び、かの方たちに出会える時はきます」

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