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第4話 おまけ*
ー sideソラ(20歳)ー
「どうしよう、これ……」
聞くべきか、聞かざるべきか。それが問題だ。
僕の目の前にあるのは段ボールに入った本。
綺麗な印刷ではあるけれど、本屋さんで普通に売っている本とは違う。
表紙には裸の男二人が、組んず解れずしているイラストが。ぱらりと開くと小説形式で、喘ぎ声と擬音の羅列。内容は怖くて読めないが、明らかにこれはアレだ。
ど、同人誌ってヤツ…………!!!!
それも、びっ、びーえるってやつなのでは……?
その本が大量に祐樹の荷物の中から出てきたのだ。
二人は成人し、このたび二人でルームシェアをすることになった。祐樹はその日、どうしても出ないといけないゼミがあり、有給を取っていた僕は一人で自分の引っ越しの荷物を片付けていたのだが、祐樹の荷物が入った段ボールが混ざっているのに気が付かず開けてしまったのだ。
そこに入っていたのがこのBL本である。
は、初めて見た……!
存在は知っていたが、見るのは初めてだ。偏見だけどBL本は女の子が読むものだと思っていた。それが祐樹の荷物から出てきたことにひどく驚いてしまった。
祐樹もこういうのに興味があるんだ……。
思えば僕たちの関係も小説にすればBLだ。祐樹がこういう本に興味があるのも分かる気がする。
祐樹はこれを読んでどうしたんだろう。アダルト本を読んで抜く男の人のように、これを読んで祐樹も自分を慰めたりしたんだろうか。
……想像してなんとなくムカついた。
エロ本読むくらいなら本物を食べれば良いんじゃない? (マリーアントワネット調)
そう、僕は多分、BL本に嫉妬…してるのだ。
このまま段ボールを閉じ、何もなかったことにしようかとも思ったけど。
祐樹に見つけちゃったことを知らせて、この本は何? 本の登場人物より実物の僕の方がいいよね? と責めてみるのも楽しいかもしれない。
その流れでベッドに雪崩れ込むのも吝かではないと思うくらいには、僕にだって人並みの性欲はあるのだ。
ーーまさかその本が僕と祐樹をモデルにした小説だということ、盛り上がった祐樹に本の内容と同じように尿道責めと結腸責めをされることを、この時の僕はまだ知らない。
そして別の段ボールには……。
□◆□◆□◆□◆□
ー sideユウキ(21歳)ー
「これはいったいどういうことかなあ、祐樹くん?」
昨夜はゼミの新歓コンパで呑んで遅くに帰った。予定は前々から言っていたので、家に帰ると空良は先に眠っていた。軽くまぶたにキスを落として空良の体温でポカポカになったベッドに入り込み、温かさと酒酔いでそのまま風呂にも入らずに寝てしまった。空良って体温が高いんだよ。抱きしめて寝ると気持ちよくてどんなに疲れていてもすぐ眠れるんだ。
成人を迎えた俺たちは、空良の職場と俺の大学のちょうど真ん中あたりで部屋を借りてルームシェアをはじめた。個別の部屋が欲しいと言っていた空良の双子の弟妹の願いを叶えるため、空良が家を出て一部屋空けて、というのは建前で、二人で一緒に住みたかったからだ。
社会人と大学生はやはり生活の時間が合わずにすれ違い気味で、週末しか一緒にいられなかったのが、ルームシェアすることによってほぼ毎日空良の顔が見られるようになった。親を気にしてなかなか出来なかったセックスもし放題だ。
それから一年。一緒に暮らしはじめてからは毎日が幸せだった。料理が壊滅的に苦手な空良のために俺が食事を作り、食器洗いと洗濯は空良がした。掃除と買い物はローテーションで、苦手なところを補い合い、俺たちは上手くいっていた。
そう、昨日までは。
俺は今、ベッドに座る空良の足元で正座をさせられている。
発端は机の上に置いたままの携帯電話だった。先に起きた空良が、たまたま目に入った俺の携帯にちょうどタイミング良く誰かからのラインが届いた。そこには昨日一緒に呑んだゼミの女の子からのメッセージが入っていたのだ。
『昨日は楽しかったね♡ またデートしてね♡♡♡』
カラフルなハートマークがたくさん付いた文章に、可愛らしいパンダとハートと『大好き』の文字が入ったスタンプ。それを見た空良がベッドですやすや寝ていた俺を叩き起こして正座をさせたという次第です。
「デートって何? 昨日はゼミの新歓コンパにみんなで行ったんじゃなかったっけ。みんなでっていうのは嘘だったの? どういうことか詳しく説明してくれる?」
地を這うような低い声が空良から聞こえてきた。空良は手に持っていたスマホをポイッと俺の膝に投げ落とした。
怒ってる。すっげー怒ってる!!
実際、祐樹は昨日の昼間、ある理由があってメッセージを送ってきた彼女と二人きりで会っていたのだ。夜はその子も交えたゼミのメンバーとの呑み会だった。
「祐樹にも大学の付き合いっていうのがあるのは分かるよ。だから僕も呑み会に女の子がいてもさ、文句言わずに送り出してるでしょ? でもさあ、デートって何? デートってことは祐樹くんはこのメッセ送ってきた女の子と二人っきりで会ったってことだよね? それもこんなスタンプ送られてさあ」
「これは……」
それだけ言って俺は口を閉ざした。
俺は最近、家庭教師のアルバイトをするようになり、空良は新人も入って仕事が忙しく、さっと触れるだけで濃厚なエッチがご無沙汰だった所にこのメッセージだ。空良は相当おかんむりのようだ。俺の名前を『くん』付けで呼ぶところが空良の怒りボルテージが最大MAXであることを示している。
理由を言いたいけれど、今は言えない訳がある。
それに、何もなかったとはいえ二人きりで会っていたのは事実。
どうしようか迷ってぎゅっと下唇を噛んで黙っていると、空良が上を向いて大きなため息をついた。
「……黙ってるってことは浮気したってことでいいんだね? 僕さあ、何でも出来る祐樹とは違って、料理も出来ないし掃除も洗濯も上手じゃないし、エッチだってそんなに上手じゃない。女の子みたいにおっぱいもないし柔らかくもないし。役立たずだね。祐樹に飽きられちゃっても仕方ないよね」
パタパタっと空良の瞳から涙が落ちてベッドのシーツに水滴が吸い込まれていく。
ヤバい、空良を泣かせてしまった!
「違う! う、浮気なんてしてない! 行きたい店があったんだけど場所が分からなくて場所を知ってる彼女に案内してもらっただけだよ!」
「……じゃ、何でそれがデートってことになってるの? 彼女にデートだって思われるようなことしたんじゃない?」
空良が濡れた瞳で俺の顔を睨みつけた。
彼女とは本当に何もなかった。ただ店に連れて行ってもらっただけだ。それなのにどうしてデートだなんて書いて送ってきたんだろう。彼女も俺が付き合っている人がいることを知っているはずなのに。
まさか俺たちを別れさせようとわざと送ってきたのでは? そう思うとムカムカしてきた。ひとまず彼女のことは明日大学で文句を言うとして、今は空良の機嫌を取らないと。
せっかく店に行って大事なものを用意したのに。
渡す前にケンカなんてしたくない。
こういう時は『分からせセックス』だな、うん。どれだけ俺が空良のことが大好きか、久しぶりにじっくりと教え込まないと。今までだってそうしてきたつもりだけど、空良は自己肯定感が低くてすぐに俺が自分に相応しくないと思う傾向がある。
俺には空良だけなのに。空良がいればそれだけでいいのに。何度そう言っても分かってくれない。
俺は空良の腕を掴んで力任せにベッドに押し倒して、口に舌を強引に差し込んだ。
「あ! ちょっ…! ンう……」
最初は抵抗していた空良も、歯列をなぞって上顎を舐めて舌を絡み合わせて唾液を吸い上げ、どんどん口付けを深くしていくと、身体から力が抜けていった。顔がトロンとしてきた所でシャツを弄り胸の尖りへと手を伸ばす。俺がずっと開発し続けていた空良の乳首はきれいな桜色で、ピンと上を向いている。
「っつ、んんう……、んっ……」
キスを交わしながら乳首を指の腹で押し潰したりつまんでくりくりと動かすと、鼻から抜ける空良の甘い喘ぎ声が聞こえてきた。口の端から飲みきれなかった唾液が垂れて涙と混じって顎に流れる。犬のように吐く息と、涙に濡れたまつ毛に赤い目元が扇状的で下半身がずくりとうずいた。空良の足と足の間に膝を割り入れると、空良のズボンも大きくテントを張っている。
俺はとにかく空良の機嫌を直そうと、誠心誠意あやまり倒した。
「ごめん……。二人っきりは駄目だったよね。そのことはあやまる。他にも誰か一緒に連れて行くべきだった。彼女に勘違いさせることなんて何もしてない。デートだって向こうが勝手に思っているだけ。俺がこんなことするの、空良にだけだって知ってるよね? 勃つのだってそう。ほら、触ってみて」
空良の手を取って俺の下半身へと誘い、固くなっているのを確認させる。
「ほら、勃ってるだろ」
「うん……。すご……かたぃ…ああンっ」
乳首を口に咥えると、空良の身体が小さく跳ねた。優しく乳輪を口に含んで甘噛みし舌で先端を嬲る。反対側も指でつまんで捻りながら引っ張ると、空良は嬌声を上げながらイヤイヤをするように首を振った。
「あン、もうっ……ダメ…だって……。やっ…ゆう、き……。ごまかそう…ってして…ない? ぁあんっ……」
開発の甲斐あって少しキツめに乳首を苛むだけで空良の身体はすぐにグズグズとなってしまう。その隙に手早くズボンのボタンとチャックを外し、下着と一緒にさっと脱がせた。この辺りは自分の器用さを褒めてあげたい。
空良の勃ち上がった綺麗なピンク色のペニスがふるりと揺れる。先端からは先走りが出て、ぬらぬらと濡れている。膝裏を持ち上げて赤ちゃんのおむつを替えるような格好にさせると、見られるのが恥ずかしいのか、ぎゅっと目を閉じた。もう何度もこういうことをしているのに、空良はいつも恥ずかしそうに顔を赤らめる。その羞恥心が可愛い。嫉妬した顔も泣き顔も、ちょっと怒った顔も全てが愛しい。俺の空良。
「ごめんね。本当にごめん。俺が好きなのは空良だけ。好き。大好き」
幾度も俺のものを受け入れて、縦に割れた後孔がヒクヒクと俺を誘っている。この中はすでに俺のものと同じ形になっている。それを満足げに眺めてから唾液をたくさん付けた舌でぴしゃぴしゃとわざと音が鳴るようにじっくりと時間をかけて舐める。太ももに汗が流れるのがまた堪らない。ふちを広げるようにして尖らせた舌を中に差し込むと、すでに中はぐじゅぐじゅと柔らかく蠢いていた。
「やぁ、、あ、ああ……。だめ……汚い…からぁ…!!」
「どこが? 汚くなんかないよ。空良のここもどこもかしこもピンク色で、すっごくかわいい……」
舐めている時にサイドボードから取り出しておいたローションの蓋を開け、さっと指に垂らして二本を後孔に突っ込んだ。最近ご無沙汰気味だったので少し固いが、すっと二本の指が簡単に入るほどにはまだ柔らかい。全部俺が柔らかくしたものだ。勝手知ったる空良の中なので、すぐに前立腺の場所を見つけて指で挟みこみように押さえると、痙攣したように身体を震わせて、空良のペニスから白濁液が飛んだ。
*
「や、ああ、ああっ、あ、ああ……」
何度目か数えられないくらい空良を揺すぶって自分の楔を刺した。
すでに空良のペニスからは透明な液しか出てこなくなっている。中イキしながら俺に縋りついて哭く様は嗜虐心をそそられた。今は空良が楽なようにうつ伏せにさせて上から抱え込むように抱きしめている、いわゆる寝バックの状態で中に入っている。
「あ、あ、ああ、あああ、もう、あ、やあ、んああああーーーー!」
前立腺を潰すように出口近くで何度かピストンを繰り返すと、甘い声が大きくなってまたイったようだ。くったりとベッドに顔をつけて倒れ込んだ空良の身体から自分のペニスをゆっくりと引き抜くと、空良の中からとろりと俺の注ぎ込んだものが溢れ出した。
それを見ると再び中に液体を注ぎ込みたくなり、空良の身体をくるりとひっくり返して片足だけを俺の肩に乗せて再び中に固いままのペニスを突っ込んだ。
「や、やぁ! もうむりっ! やめっ、あ、やあああぁぁ…………!」
そして空良が意識を失ってからもずっと空良の中を蹂躙し尽くした。今日は土曜日。大学もないし会社も休みだ。これだけグジュグジュに蕩けさせて、あとは美味しいものでも作れば空良の機嫌も直るだろう。空良の大好きなパエリアとハンバーグでも作ろう。
夕方になってようやく目を覚ました空良に、作った空良の好物ばかりの食事をベッドまで運んであ〜んで食べさせたり、飲み物を汲んだりしてあげているとようやく空良の機嫌が戻ったのか笑顔を見せてくれた。もちろんメッセージはさくっと削除した。
一週間後、俺は浮気を疑われた彼女に教えてもらった店まで一人で行き、できたものを受け取った。空良へのバースデープレゼントだ。
この店は可愛らしいアクセサリーが売っていると女の子に大人気だった。この店の場所が分からなくて案内してもらったせいで、空良とケンカになりかけた。彼女は冗談でデートと書いただけだと言っていたが、前々からの俺への態度から察するに、あわよくばと思っていたのだろうと想像に難くない。申し訳ないが俺には空良だけなので、ラインはブロックさせてもらった。
空良はそのふんわりと温かい人柄の通り、春の季節に誕生日を迎える。俺は冬生まれだから、実は数ヶ月だけ空良の方がおにいさんだ。
温かい春の日差しの中、紙袋に入れたプレゼントを大事に抱える。この中身はお揃いの指輪だ。俺は空良にプロポーズするつもりでそれを用意した。サプライズなので店に行ったことは話したが、それ以上の詳しい話ができなくて空良を泣かせてしまった。
すでに一緒に暮らしているのだからプロポーズなんて必要ないとは思うけど、どうしてもハッキリと自分には空良だけだということを知ってほしかった。きっと空良は喜んで指輪を受け取ってくれるだろう。そしていつものように花の蕾が開くように笑ってくれるだろう。
俺はスキップしながら帰り道を歩いた。
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