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二人きりの駅。

  「阿川……?」 「おい、いるんだろ……!?」  誰もいない駅のホームに1人取り残されるとそこで急に不安になった。辺りは真っ暗で、静かな駅が余計に不気味に感じさせた。そして、暗闇の中で鈴虫の音だけが虚しく響いた。普通に考えたら1人でこんな所にいるだけでも怖い。俺は怖いのが昔から苦手だったから、こんなシチュエーションは精神的にも耐えきれなかった。さっきまでウザい奴と思っていたあいつが、急に居なくなると心細く感じてきた。  一人でこんなところにいるなんて。阿川の奴、どこに行った…――?  ベンチから起き上がると急に居なくなったアイツを探しに、しらみ潰しに駅の中を探し歩いた。  阿川の野郎どこに行った……?  クソッ……。 腹が空いてしょうがない……。  あの時、素直に貰えば良かった……。  ったく、調子が狂うな……。  階段を上がって1人渡り廊下を歩いた。誰もいない駅の廊下はなんだか薄気味悪かった。改札口を見ても、駅員の姿は誰一人もいない。ただ改札口の向こう側は真っ暗だった。一瞬、阿川が改札口を出てどこかに行ったんじゃないかと不意に考えた。でも外は闇だ。こんな真夜中にどこかに行こうとしても無理だ。なにせここは田舎だ。都会でもないし、きらびやかなネオンの明かりさえもない。見た感じじゃ、電柱の明かりさえも近くにはなかった。  おかしい。やっぱり阿川は、まだ中にいるかも知れない。だとすればトイレか…――?  俺はそう思うと駅の中のトイレへと向かった。もしかしたらいるかも。そんな曖昧な思いつきだった。中に入るとトイレには明かりだけがついていた。だけど中はシンと静まり返り、人のいる気配もない。  なんだか不気味だ…。阿川の野郎…――。  誰もいないトイレの中で、水滴がポチャンと落ちる鈍い音がした。水の音が余計に辺りを不気味に感じさせた。そして、不意に外から風が吹くと戸がキィッと軋む音をたてながらバタンと少し開いた。その瞬間、恐怖の余りにそこから逃げるように走り出した。  どこに行ったら良いのかもわからず、誰もいない駅の中を無我夢中で走った。そして慌てたまま、さっきいた場所に戻ろうと階段を探した。するといきなり、誰もいないはずなのに何処からか女性の声が聞こえてきた――。  信一、 彼女と結婚するんだって?  それはおめでたいね。で、いつ結婚するの?  そう。じゃあ、結婚の報告する時は、母さんに一言連絡ちょうだいね。  母さん心配してたのよ。貴方って昔から、気難しい性格だから。それに釣り合う彼女がみつかればってね。だからね、母さん――。

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