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二人きりの駅。
突然、暗闇の中から母親の声が聞こえてきた。それは、いつかの電話での会話だった。 何故こんな時に、それが聞こえてくるんだろう。俺は恐怖心から逃げるようにそこから必死で走った。すると今度はどこからともなく、彼女の声が暗闇の中から聞こえてきた――。
あのね、信一さんお話があるの。
私、貴方には相応しくないわ。
もう別れましょ。その方がお互いのためよ。
私ほかに好きな人がいるの。
ええ、そうよ。だから貴方とはもう付き合えない。私、憲二さんが好きなの。憲二さんは貴方よりも優しいわ。真面目でしっかりしてて貴方よりも大切にしてくれる。もう曖昧な関係とかウンザリなの。女の幸せは貴方にはわからないわ。
そう、じゃあ、これで終わりね。
きっと私、二度と貴方には会わない気がするわ。
さよなら信一さん。
何故だ……! 暗闇の中から、今度は別れた彼女の声が聞こえてきた。
そんなばかな! 何故、響子の声が……!
や、やめろ! やめてくれ……!
こんなこと俺に思い出させるな…――!
くっ、くそぉっ!!
もう何が何だかわからずに、逃げるように廊下を突っ走った。そして、階段をみつけると一気に上へとかけ上がった。するとそこで今度は誰かの会話が聞こえた。
はじめして、新人の阿川慶介です。どうぞみなさん宜しくお願いします!
今日から入った新人だ! みんな仲良くしろよ!
凄いな阿川。新人なのに成績優秀じゃないか。売り上げ成績も伸びてるし、君は我社の期待の新人だよ。全くどこかの誰かさんとは違って、よく頑張ってるじゃないか。阿川君、きみには私も期待しているよ。
――なんだ葛城、この報告書は!? お前はまともに仕事も出来ないのか!? こんな報告書はダメだ! 今日中にやり直せ! ホントお前はろくに仕事が出来ないな! 今から阿川にでも手伝ってもらえ!
新人に抜かれて悔しくないのか!? 阿川はお前よりも優秀で頑張ってるぞ! 2年も過ぎたのにまだ新人気取りならこんな仕事今すぐ辞めらどうだ!? 言っておくがお前がいなくても代わりはいくらだっているんだぞ!!
――ねぇ、ちょっと聞きましたか? 眼鏡をかけてる大人しそうな人です。葛城さんですよ、ここのところ売り上げ成績が伸びてないらしいですよ。ほら、課長にいつも怒られてる人です。
ああ、そうだよな。あれじゃ、売り上げ成績も伸びないでしょ? 葛城と違って新人の阿川は、入った時から優秀だから課長も一目おいてるみたいらしいよ。なんかこのままだと、葛城よりも先に阿川の方が出世しそうだよな。
ホントだよ、まったくどっちが先輩なのか分からねーよな。葛城の奴、阿川の事ライバル視してるみたいだぜ? ま、どんなに頑張っても阿川には到底かなわないだろ?
バーカ、お前それ言い過ぎだろ。聞こえるだろ~? 本人いるんだからさー。あはははははっ。俺はあの歳で窓際族になるのだけはゴメンだぜ。
『うわぁああああああああっっ!!』
暗闇の中から会社の同僚達の声が聞こえてくると、俺は叫びながら走った。自分の脳裏に辛い記憶が一瞬で甦った。それは凄く最低な気分だった。出来れば、このまま思い出したくもない記憶だ――。
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