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二人きりの駅。
「自分、葛城さんに嫌われてたのは知ってましたよ。でも、やっぱり本人に直接言われるとキツいですね…――」
「ッ……!」
「確かに葛城さんって性格キツいし、真面目で難しい人ですけど、俺はそんな葛城さんが先輩で良かったなって思います。ここに入って来た頃は俺なんてまだ全然未熟で右も左もわからなくて、葛城さんの足ばっかり引っ張ってたけど、俺に色々と教えてくれたのはそんな貴方でした…――!」
「あっ、阿川……!?」
「だから俺、葛城さんみたいに仕事が出来る男になりたいってずっと思ったし、葛城さんの事を尊敬してました! 貴方の足引っ張らないようにってガムシャラに仕事頑張ってたら、なんかいつの間にか立場が逆転しちゃったって言うか、なんかそんな変な流れになっちゃったみたいで……。てか、そうなっちゃったんですよね。そしたらいつの間にか、売り上げ成績も葛城さんよりも伸びて来て、それが目立ったって言うか、その省で逆に葛城さんが戸田課長に怒られるようになって……。その、自分でも上手く言えないですけど葛城さんには本当迷惑かけたなって自覚してます」
「っ…!」
「こんな後輩がいたら確かに嫌ですよね。貴方に嫌われて当然だと思います」
「そっ、そんなことは……!」
「――でも、それでも俺は貴方に一人の男として認めて欲しかったんです。仕事が出来る男だって一人前の男だって貴方に……!」
「あがっ……」
面と向かって話してくると真剣な眼差しで俺の事をアイツはみてきた。その射抜くような強い眼差しは、反らせなかった。
「俺にとって葛城さんが目標でしたから……!」
「あっ、阿川…――!?」
「葛城さんの売り上げ成績が伸び縮んだのも俺のせいですよね!? 俺が葛城さんの分まで頑張っちゃうような要領が悪い男ですみません! 俺バカだから貴方の気持ちまで考えずにやってました……! それで、葛城さんがずっと苦しんで嫌な思いをして…――!」
阿川はそう言って話すと地面に頭を下げで土下座をした。いつもはヘラヘラしているような男が、この時ばかりはカッコ良く見えた。そんなアイツの真剣な話を前に俺は動揺しながらも魅入られた。
「違うんだ阿川。俺の方こそ下らない嫉妬でお前の事をずっと妬んでいた。こんなヤツがお前の先輩だなって失望しただろ…――!? 本当の俺はこんな奴なんだ。お前の前では偉そうにして何でもできた奴にみえても、中身はこんな奴なんだよ! 妬むくらいなら、お前よりも頑張んなきゃいけないのに、俺はそんな事さえ見失っていた……! 謝るのは俺の方なんだ! 阿川、お前に迷惑ばかりかけてすまなかった! 今まで散々八つ当たりしてコキつかって、酷いことをした事をどうか許して欲しい…――! お前に何度か仕事を手伝ってもらった時、本当は有難うと言いたかった。でも、そんな簡単なことさえ言えないくらい俺はダメな奴になって……! 本当に…本当にっ……本当にすまなかっ…ううっ――!」
両手を地面について頭を下げると逆に彼の前で土下座をして謝った。そして、大声を出して泣いた。誰もいない真夜中の駅に1人の男の悲しみの声と懺悔の声が響いた。阿川は泣き伏せる俺を見て何も言えずに黙って口を閉ざしていた。
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