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その時、彼は――(葛城side)
階段のドアを開け放つと、上の階から一気に階段を下へとかけ降りた。一階へと到着すると、その時には既に顔から汗が滲み出ていた。そして、息を切らしたまま非常口の扉を開けてエントランスへと出た。1階は人影がまばらだった。中央で立ち止まると、辺りを見渡して彼の姿を探した。
「クソッ、阿川の野郎…――!」
葛城は彼の姿を必死で探した。戸田課長に彼を必ず連れ戻すと言った以上、その意志は固かった。右手に握ったままの彼の出した退職届けをフと見つめると様々な思いが混み上がった。そして、彼が自分の目の前から黙って姿を消すことに激しい憤りを感じた。
「クソッ…!! 俺の前から勝手に消えるなんて絶対に許さないからなっ!!」
そう言って怒りで感情を昂らせると、出入口付近にいた受付嬢に咄嗟に話しかけた。
「キミ、ここに箱を持った男が通らなかったか!?」
「ええ、見ましたよ。確か黒髪で背が高い方ですよね? たった今そこから外に出て行きました。両手に箱を待っていたから、もしかしてここをお辞めになる方でしょうか――?」
受付嬢はそう言って不思議そうに答えると、回転扉の方を指指した。
「そこから外に出て行きましたよ?」
「すまん、ありがとう! 助かる…――!」
慌てた様子で一言礼を伝えると急いで扉に向かって走って行った。そして、回転扉をくぐるとビルの外へと飛び出した。外に出ると必死で周りを見渡すした。するとそこで目が止まった。遠くの方に阿川の姿があった。彼は背中を向けたまま前を歩いていた。その後ろ姿はどこか淋しそうだった。彼の姿を見つけると自然に走り出した。そして、無我夢中で声をかけた。
『阿川っつ!!』
その瞬間、彼は後ろを振り向いた。その表情は驚いている様子だった。そして泣きそうな顔をしていた。葛城はそこで阿川を引き留めると、彼の出した退職届けをぎゅっと握り締めた。そして、息を切らしながら駆け寄って話しかけた――。
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