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その時、彼は――(葛城side)

  「わかった。事情はどうあれだ。葛城、お前が責任をもって阿川を連れ戻せ――! あいつはうちにとって有望な人材なのは確かだ! 彼に辞められるのはうちとしても困る! だからなんとしても阿川を説得して連れ戻せ、いいな!?」  戸田課長は一言話すと椅子から立ち上がって、下にしゃがんだ。そして、土下座したままの葛城に、彼が出した退職届けを手渡したのだった。その言葉の重みを理解すると震えた手でその退職届けを受け取った。 「有り難うございます…――! 課長感謝します! 阿川は自分が責任をもって必ず連れ戻します――!」 「ああ、葛城! どうか頼んだぞ!?」 「はっ、はい……!!」  戸田課長はそう言って葛城に全てを任すと、彼の肩を力強く叩いた。阿川が出した退職届けを受け取ると葛城は直ぐに立ち上がった。そして、そのまま慌てて課長室を飛び出した。彼の中では、まだ阿川は居ると直感的に感じていた。急いで部屋から飛び出すと、真っ先にエレベーターに向かった。  急いでボタンを押したがなかなか来なかった。一秒でも惜しくなるとエレベーターが来るのをやめて非常階段へと向かった。

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