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生まれも育ちも 14

翌日、広瀬は東城の家にいた。 その日は東城から遅くなると連絡をもらっていて、いつもなら自分のアパートに帰るところなのだが、最近は、ごちそうにひかれてこっちに来てしまう。 食欲には勝てないってことだな、と前に東城に言われた。俺が誘ってもこないのに、ご飯には釣られるってどうなんだ、とも言っていたような気がする。それについては特に反論はしなかった。 リビングの机にきれいな絵の一筆箋がおいてあった。 石田さんから直接広瀬宛にだった。この前の出張のお土産のお礼だった。そして、冷蔵庫の中身の簡単な解説。好きな食べ物があれば教えて欲しいという質問。きれいで丁寧な字だった。 東城が帰ってきたのは深夜をまわっていた。 広瀬はとっくにベッドに入っていた。彼はできるだけ音を立てないようにしていたが、広瀬はぼんやり目をさました。東城が、広瀬の邪魔をしないようにそっとベッドに入ってきたので、手を伸ばして彼の髪をなでる。少しまだ濡れていた。 「起こしたか?ごめんな」低い声で東城が言った。 「ん」 東城は広瀬の手をとり、指に唇をあてる。 「今日、岩居のおばから電話があった」 「ああ、例の産婦人科の?」 「うん。誉められたよ。石田さんからお前の九州土産の話きいたらしい。石田さん、すごくうれしがってすぐに岩居のおばに話したらしいんだ。石田さんをよろこばせてくれてありがとうって言われた」 東城は、唇を広瀬の指から手の甲にうつし、なんどもかるく触れながら腕に、うなじに移動させた。唇にもふれられたのは覚えているが、その先は眠ってしまった。ぐっすりと深く静かに。

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