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1.ほんの気まぐれ

今日も終始ご機嫌だった魔塔主であるテオドールは、弟子のレイヴンに自身の部屋まで送らせようという魂胆で 思いきり酒場で飲みまくっていた。 嫌な予感があったレイヴンは、最初から次の日を休日にしておいたのだが。 そんな勘だけ当たってしまって。それも溜息にしかならない。 テオドールに肩を貸しながら、何度も訪れている彼の自室までやってきたのだが。 自分より身長もあり、身体を無駄に鍛えているテオドールは重たい荷物と一緒だ。 それでも見捨てると後で面倒なので、仕方なく自室まで送り届けようと引きずりながら何とか辿り着く。 魔法で飛べれば楽なのかもしれないが、魔塔付近は侵入者防止の魔法で厳重に守られているため、 わざわざ階段を最上階まで登るしかなかった。 テオドールの自室には魔法道具が適当に転がっている。 何度片付けても散らかすので、半ば諦めて普段遣いしそうなものだけは転がすことを許可しているのだが。 師匠の自室掃除も弟子の仕事だ、と押し付けてくる横暴なところも面倒臭い。 生活家具もあるにはあるが最低限しか置いておらず、食物もなく酒ばかりで料理などしている気配は微塵もない。 仕事がなければ街に繰り出し、酒場に入り浸るか、誰かを捕まえて一晩を過ごすか、はたまたギャンブルか。 自堕落そのものな生活を送っている。 魔塔主といえば国を支える一強であるにも関わらず、テオドールは魔法使いらしさの欠片も品位もない。 それなのに、規格外な魔力で敵を圧倒する実力者なため周りも文句が言えないのだ。 唯一文句を言っているのは、テオドールの幼馴染の騎士団長とこの弟子くらいのものである。 この国の陛下ですらも、この野獣を扱いきれていないのが実情なのだ。 「あぁーー。重い!師匠、もう俺帰りますよ?あぁ…疲れた……早く休みたい……」 「ぁー?ねみぃ…ベッドまで連れてってくれよー。あぁぁ…気持ちわる……」 テオドールが吐きそうなモーションを取ったので、慌てて水を汲みにいき、適当なコップに水を入れて素早く戻る。 床に転がしたテオドールの顔の近くに水を飲め、とコップを無理矢理に突きつけた。 「冷てぇなー?飲ませてくれよー」 「はぁ?起きて飲めばいいでしょ、もう」 ぐいぐいとコップの押し付け合いをしていると、結局水はレイヴンにかかってしまい。 髪と着ていたローブを濡らしてしまった。 「ちょっ…!何するんですか!あー…面倒……」 濡れた黒髪を掻き上げて、テオドールをまた床に転がすと。仕方なく着ていたローブを脱ぐ。 テオドールをほったらかしにして、ローブとにらめっこをしている姿は、見上げて妙だ。 レイヴンは黙っていれば美形も相まって綺麗なものなのだが、テオドールに対しては容赦がなく可愛げの欠片もない。 ツンツンしているところも、子どものような言い分も、テオドールにとっては可愛いものなのだが……。 ローブの下に着ていた薄い白のシャツの濡れ具合を確かめようとしたところで、寝転んだままのテオドールがレイヴンに ちょっかいを出そうと手を伸ばす。 「ちょっと!いきなり触らないでくださいよ!」 「濡れてるか確かめてやってんだろー?…ってか、相変わらず筋肉ねぇな」 無遠慮にペタペタと触ってくる手が擽ったくて、コップを慌てて遠ざけて置くと、 テオドールの手を乱暴に振り払う。 「もう、大人しくしてて下さいよ!ローブ乾かしたら帰りますから」 「つれねぇなぁ。最近仕事が忙しくて、引っ掛ける暇もねぇし。抜いてねぇからご無沙汰なんだよなァ? レイちゃん、身体貸してくんねぇ?」 「はぁ!?何だよ身体って…俺で性欲処理しようとしないでくださいよ!寝ぼけてんのも大概にしろっての」 「1人ですんのも飽きたんだって。別に減るもんじゃねぇし、たまにはいいだろ」 「頭まで酔ってんのかこのおっさんは……殴ってやろうか…」 訳の分からないことを連発するテオドールに対して溜息をつく。何が悲しくて付き合わなくてはいけないのか。 普段より荒い口調でレイヴンがテオドールを睨む。しかしそれくらいでは全く動じないとテオドールはまるでレイヴンの出方を伺っているように、食えない表情で見遣るばかりだ。 「普段よりは飲んでるけどよー?お前1人くらいは、どうこう出来るくらいの余力はあるぜ?」 テオドールはニヤリと不気味な笑みを浮かべると、グッと起き上がり、呆気にとられたレイヴンの腕をひとくくりにして、無理矢理床へと押し倒す。そして起き上がれないように足と身体の間の関節部に膝を入れて体重で押さえつけた。

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