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196.当てが外れた師匠と優しく励ます弟子

   テオドールはレイヴンと離れていて寂しくなった師匠を演じながら、レイヴンの手を取って軽く握る。  警戒していないレイヴンは、テオドールの言葉を静かに待っているようだ。 「俺もレイヴンのことをたくさん褒めてやるから。レイヴンも俺にご褒美をくれないか?」 「ご褒美ですか? 俺ができそうなことであれば。テオは上に立つものとして、いつも俺たちを導いてくれていますから。導き方が多少乱暴でも、尊敬すべき魔塔主様ですよ」  レイヴンが優しく微笑みかけてくれると、テオドールもさすがに少し罪悪感が湧く気もするが全部嘘ではないと心の中で呟く。  ここは一気に畳みかけて、優しくしてもらうに限るだろうと更に言葉を続けていく。   「ありがとな。俺もレイヴンが補佐官だからこそ安心できるってもんだ。それに……レイヴンが俺を褒めながらキスしてくれたら元気が出そうだ」 「俺のことを頼りにしてくれるのは嬉しいんですが……キス?」 「ああ。ダメか?」  テオドールはあくまで弱っている風を装って、レイヴンに強請るような視線を向ける。  普段のレイヴンなら突っぱねてくるはずだが、どうやらテオドールが本当に弱気だと思ったらしい。  レイヴンはテオドールから視線を外して逡巡したあと、分かりましたと言ってきた。 「仕方ありませんね。俺だって……いえ、今はテオを励まさないと」  レイヴンは頷いてからカップのコーヒーを手に取ってグッと飲み干すと、テオドールの方へ改めて身体を向けてきた。  テオドールが握った手の上に、レイヴンは優しく手を重ねてくる。 「テオ、俺があなたの側で力になります。だから、背負い過ぎないでください。俺にもあなたの重荷を背負わせて欲しいんです」  レイヴンが真剣に励ましているせいなのか、テオドールは完全に毒気を抜かれてしまった。  テオドールを見つめる黒の瞳に捉えられると、逃さない圧迫感ではなくふわりと包み込まれるような気がする。  レイヴンは左手をテオドールの頬に添えて、優しいキスを唇へ落としてきた。 「テオは凄いです。不可能を可能にしてしまう実力を持っています。でも、それはテオが真摯に魔法と向き合っているからですよね。誰も知らなくても、俺は知ってるんですから。安心してくださいね」  レイヴンが微笑みながら、細い指でテオドールの頬を撫でる。  労わるような動きはテオドールが思っていた展開とは全く違うものだが、たまにはこういうのも悪くないと自然と口元が笑む。  ただ、真面目に褒められると妙に気恥ずかしいとも思う。    レイヴンはテオドールの僅かな表情の変化にもすぐ気づいたのか、クスっと笑って更にちゅっと啄むように口付けてくる。  このままだと、レイヴンの真っ直ぐな優しさにテオドールの方が押し負けそうだとそっと苦笑する。  いつもの如くレイヴンをぎゃあぎゃあ言わせてから押し倒した方が分かりやすかったのだろう。  だが、こうも生真面目にこられるとテオドールも正直やりづらい。 「参ったな……レイちゃんには敵わねぇ。俺が悪かった」 「え? 何がですか?」  レイヴンがきょとんとした顔でテオドールをじっと見つめてくる。  本当は激しく可愛がりたかったはずなのに、こんな純粋に励まされてしまうといくらテオドールでも無下にはできない。 「いや、コッチの話だ。レイ、もう少し頼む」 「よく分かりませんが……分かりました。テオがそういうなら」  テオドールからレイヴンへ顔を近づけると、レイヴンもテオドールを引き寄せるように彼の首へ両手を回してきた。  テオドールの鼻先を掠めるように、時々触れてくる柔らかい唇が擽ったい。  レイヴンも気恥ずかしそうにしながら、テオドールのためにキスを続けてくれるようだ。

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