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263.懐かしい顔
ウルガーとの旅は順調で、道中魔物に襲われることもなかった。
港町リオスカールまで辿り着くまでは、アレーシュの領土内だ。
アレーシュの魔物は王国騎士団と魔法使いたちで時々討伐していることもあって、危険な魔物が出たという報告はない。
レイヴンたちが魔族と戦い、何とか勝利できたというのもあるのかもしれない。
歩き続けて一週間ほど経ったころ、村で物資を調達しているとふいに声をかけられた。
この声はと思って振り返ると、フードをかぶっていても美しいグリーンの瞳とブロンドの三つ編みが目に飛び込んできた。
「レイヴンさん、ウルガーさん。お久しぶりですね」
「レクシェルさん、お久しぶりです」
「俺の名前まで、覚えてくださってたんですか!」
「勿論です。良かった、お二人にお会いできて」
レクシェルと会うのはレイヴンが精霊魔法の特訓をしにいった時以来だ。
その後もいつもアレーシュ王国のこととレイヴンのことを気にしていたとレイヴンも聞いていたのだが……まさかこの村で会えるとはと内心驚いていた。
「俺たちにわざわざ会いに来てくれたんですか?」
「ええ。お時間があれば少しお話させてください」
「レクシェルさんなら大歓迎ですよ! じゃあ、あの酒場で。まだ昼過ぎですけどあの酒場はやってるはずです」
あからさまにウルガーが嬉しそうなのがレイヴンにとっても面白いことだが、レクシェルが話したいことがあるというのは気になっていた。
たぶん、レイヴンたちが立ち寄りそうな村はこの辺りだろうと思って待っていてくれたのだろうが……一体何の話なのだろう?
ウルガーが一足先に酒場がやっているかどうかを確認しにいったが、どうやら大丈夫だったらしく手招きしているのが見えた。
「やってるみたいですね。行きましょう」
「ええ。それにしても……レイヴンさん、なんだか雰囲気が大人っぽくなりましたね。髪の毛のせいかしら?」
「確かに……髪を少し伸ばしたせいかもしれませんね。色々気遣ってくださっているというのに、俺がふがいなくて連絡もできずにすみませんでした」
「いいえ。レイヴンさんも大変だったはずですもの……これも落ち着いてからお話しましょうか」
レイヴンは微笑するレクシェルになんとか笑顔を返し、ウルガーの待つ酒場へと向かう。
+++
酒場では酒は頼まずに、果物を絞った飲み物を注文する。苦味と酸味の合わさった果物がこの村の名物らしい。
ウルガーとレクシェルも同じものを注文し、レイヴンたちとレクシェルで向かい合わせに座ることにした。
「それで、お話とは?」
レイヴンが早速切り出すと、レクシェルも頷いて話し始める。
「アレーシュのことは心配しなくてもいいということと、それからレイヴンさん。今祝福を受けている精霊王はシルフィード様とウンディーネ様のお二人ですか?」
「はい、そうです」
「シルフィード様に、レイヴンさんにサラマンダー様と話してみるように伝えて欲しいと頼まれまして。先日突然のことだったので、里長がちょうど留守の時でしたからご連絡手段がなかったのです」
「なるほど。レイヴンは確か耳飾りを通じて会話できると言っていたけど、それはあくまでクレインさんとだけか」
確かにレイヴンと父であるクレインとは、いつでも会話できる耳飾りがある。
他のエルフと連絡が取れるのは、陛下に渡した魔道具だけだ。
「すぐに連絡をさしあげたのですが、お二人が旅立たれたあとだったので。王から話を聞いて、たぶんこちらに立ち寄るのではないかと思いお待ちしてました」
「しかし、なんで急にサラマンダー様とお話を……」
「内容は私たちにも分からないのです。シルフィード様も内容は知らず、伝言を頼まれたとおっしゃっていました」
「なんにせよ、話してみれば分かるってことだな。レイヴン、サラマンダー様と話す方法は分かるのか?」
ウルガーに問われたが、レイヴンは確実に会える場所を知っている訳じゃない。
でも、エルフのレクシェルだったら知っているのだろうか?
レイヴンが言う前にレクシェルが頷く。
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