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262.師匠と弟子はどう見える?

   レイヴンは、ウルガーがテオと俺のことをどう見てるんだろうとふと疑問に思う。  前にテオドールのことをウルガーに相談したこともあり、迷惑かけたこともたくさんあった。  だが、思い切って聞いてみるのも悪くないかと思い切って話しかける。 「ウルガー、ちょっと聞いてもいい?」 「なんだよ、改まって」 「あのさ……ウルガーから見て、俺と師匠ってどう見えてる?」  レイヴンがいきなり問いを投げかけると、ウルガーは逆にぽかんとした顔でレイヴンを見てくる。  一瞬の沈黙の後、ウルガーがニヤリと人の悪そうな笑みを向けてきた。 「今更すぎる質問だけど、どういう答えをお望みかな?」 「何、その変な口調。別に……思ったまま言ってくれていいよ。恥ずかしいところを散々見せてきたから」  レイヴンはウルガーに聞いたことを若干後悔し始めたが、言ってしまったものは仕方ない。  レイヴンは静かにウルガーの返答を待ってみる。  ウルガーはそうだな……と思案してから、ぽつりぽつりと話し始めた。 「最初はさ、テオドール様が我慢できずにノリでやったなと思ったんだけど……あの人、最初からマジだったんだって後から気づいた。ほら、レイヴンは恋愛ダメダメだろ?」 「ダメダメというか……経験がないから、恋愛のことを知らなかっただけだよ」 「そういうところも含めてさ、可愛くて仕方なかったんだろうなって。あの人にしては我慢してたんだろうな」  あの調子で我慢してたって……テオドールはどんな目で自分を見てたいたのだろうか?  レイヴンは一旦思案してみるが、冷静になると怖いかもしれないと思った。  レイヴンの微妙な表情に気づいたのか、ウルガーがぷっと吹き出す。 「でもさ、レイヴンも最初から懐いてたよな。だからいい師弟関係は築けてたんだろうけど、何せ年齢差があるからどうなんだろうとは思ってたかな」 「そう言われると……でも、師匠は師匠だって思ってたから、最初は好きとか嫌いとかじゃなかったはずなんだよな」 「だーけーどー? 今は、側にいなくて泣いちゃうほど好きってことだろ?」  ウルガーにニヤニヤされながら言われると、レイヴンもすごく腹が立ってくる。  レイヴン自身、テオドールが好きだと分かり切っているからだ。  自身の気持ちを自覚してからは諦めているため、結局何も言い返せない。 「恋愛的な意味で好きかもって思ったきっかけはよく分からないけど、途中からさ。常に側にいてくれないと嫌だって思うようになって。夜遊びも厳しく禁止し始めたんだよ」 「わー。束縛系ー」 「それを言うなら、師匠の方が……」 「あと、それそれ。別に俺の前でも名前で呼べばいいのに。二人でいる時はお互い名前で呼び合ってるんだろ?」  ウルガーの指摘は正しい。  敢えて外では名前で呼ばないと決めているから呼ばないんだけど……この前取り乱した時にはテオって叫び続けてたらしいし、外では呼ばないっていうのも意味がないのかもしれないな。 「一応、人前では名前を呼ばないって自分の中で決めてたんだけどな」 「二人の間で呼び合うのが特別感があっていいのーとかだったら、俺から指摘するようなことでもないしいいけどな」  ウルガーは爽やかに笑って流してくれたから、今まで通りでもいいのかなと思った。  レイヴンも笑って返すと、ウルガーは少しほっとした表情を浮かべた。 「良かった。少しは元気が出てきたみたいだな」 「正直言うとさ。俺、ずっと引きずってる。あの人がいなくなってから辛くてさ。でも……自分で探しに行くと決めたら、少し吹っ切れた。必ず見つけて一発ぶんなぐってやらないとね」  レイヴンの言葉を聞きながら、ウルガーも少し眉を潜めたけどすぐにカラリと笑って悪戯っぽい表情で片目を瞑って見せた。  どんな時もウルガーは空気を読んで、場を明るくするように努めてくれる。   「おー……さっすが鬼嫁。その時は俺も加勢する。二人がかりならテオドール様に一撃ぐらいは入れられるだろ」 「鬼嫁って……うん。その時は協力よろしく」 「任せとけ! っていうか、これも前に言った気がするけど。テオドール様はレイヴンに弱いんだから、レイヴンが本気で怒ったら降参するかもな」 「そうかもしれない」  旅立つ前はアレーシュのためにと緊張感をもって使命を果たさないと意気込んでいた。  だけど、それだけじゃなくって……ほんの少しだけ。  自分のワガママを優先させてもいいかなと、レイヴンは思っていた。  テオドールの目撃情報はきっと嘘じゃないと信じているからこそ、その地で確かめなければいけないのだから。

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