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261.旅の始まり
レイヴンも急いだつもりだったが、門の前には同じく軽装姿のウルガーがいた。
本来は騎士の鎧を着こむべきだと思うが、やはり目立つ格好はしない方がいいという判断だろうか。
見れば大きな肩掛けの布袋を背負ってることが分かるし、うまいこと隠してあるのだろう。
「お待たせ。随分大きな荷物を持ってるけど……」
「思ったより早かったな? そっちは説明だってロクにできてなかったと思ったのに。ああ、この布袋の中に全部もらった装備を詰め込んだんだよ。あと、俺の鎧とかさ」
レイヴンは改めて補佐官代理のパフィトが綿密に準備をしてくれていたことをウルガーへ伝える。
勿論、聖女やディートリッヒの協力の件もだ。
ウルガーはレイヴンの話を聞くうちに納得したのか、なるほどねと言いながら首筋を手のひらでさすった。
「団長と聖女様が組んでるなら問題ないか。それに、クゥルテとアビィじゃ過剰戦力なんじゃ……」
「いや、王国の守りを固めるのが当たり前なのに今ただでさえ師匠が不在なんだから。備えは十分すぎるくらいでちょうどいいんだよ」
「俺はレイヴンと二人で遠出するっていうのがなんか新鮮なんだよな。レイヴンは確か国外に出たことないんだよな」
「ないよ。師匠も国が今の状態になってからは出てないんじゃないかな?」
レイヴンの記憶ではなので、もしかしたらテオドールはレイヴンが気づかないうちに王命で国外へとかはあるかもしれない。
だが、騎士団は別だ。色々と仕事があるだろう。
「そうだな。俺もこの距離の遠出は初めてだ。隣国くらいなら派遣されてとか警護で行ったことあるがな」
「そうなんだ。さすがアレーシュ王国騎士団の副団長さんだ」
「今回も俺に任せてくれれば問題ないって。というか、レイヴンに何かあったら俺が何されるか分かんないし全力で守らせてもらいますよ姫」
「……誰が姫だよ」
ウルガーとはレイヴンも軽口を叩ける仲だし、道中が長くても問題ないはずだ。
最近国同士が激しい戦争状態という話は聞いていないし、道中気を付けるとしたら魔物たちの存在だろう。
アレーシュでは時々討伐隊が出向いて討伐しているため、強い魔物が出ることはめったにない。
ただ、他の国はどうなのか分からない。
「アスシオ様から預かった地図によると……アレーシュの領土を出るまでに一週間程度、ギルディアに行かないといけないから……まずは船に乗るための港町リオスカールだな」
「了解。リオスカールまではどれくらい?」
「順調だったら、更に三日追加ってところかな。馬でもいいんだが、馬の世話をするのがな。馬宿が確実にある街ばかりとは限らないし……」
「そうだな。時間はかかっても徒歩が確実だ。なるべく早く歩くつもりだから、行こう」
レイヴンとウルガーは顔を見合わせて頷くと、慣れ親しんだアレーシュの城下町を出て二人で舗装された道を歩き始めた。
長い間外出したのは、エルフの里へ行ったときくらいだ。
レイヴンの一番の遠出もエルフの里だ。
「そういえば、一つ聞きたいことがあったんだった」
「何?」
「レイヴンのお父さんのクレインさんがいる里ってさ。いつも通称のエルフの里って呼ばれてるけど……里に名前とかあったりする?」
「ああ、名前は親しいものの間だけでひっそりと語り継ぐものなんだって。でも、ウルガーは里に招かれてるから教えても大丈夫かな」
レイヴンが考えていたことを先読みするようにウルガーがエルフの里のことを聞いてきたのは驚いたが、旅はまだまだ長いんだし折角だから色々話すのも悪くない。
「リスフィル。それがエルフの里の名前。他の人に言ったの初めてかもしれない」
「え? テオドール様は知ってるんじゃないの?」
「特に聞かれなかったし、興味ないんじゃないかな。師匠にも聞かれたら答えるけど」
「ふぅん。あの人の拘 るところって未だに謎だよな。レイヴンのこと、全部独り占めにしたいっていう感じなのにな」
ウルガーから客観的に言われると、レイヴンは恥ずかしくなってしまう。
確かにテオドールからは、俺のモノだと何度も言われていたから余計に思い出して恥ずかしくなってきてしまった。
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