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260.頼れる後輩
本来はしっかりと指示を出すべきだが、パフィトは随分前からこんな日が来るだろうと準備をしてくれていたらしい。
魔塔主と代理が不在でも、有事の際の魔法使いたちの動きなどの詳細を記した書類を見せてくれた。
パフィトらしく丁寧にまとめられており、レイヴンから言うことは何もないほど申し分なかった。
有事の際に先頭に立って指揮をするのはディートリッヒであり、王国騎士団で近衛の任についているクゥルテが副団長としてウルガーの代わりに補佐につく。
陛下の周りはレイヴンの父であるエルフの里長クレインとエルフたちが守りを固め、側に聖女と先の戦いで神殿に引き取られた合成獣 の女の子であるアビサリスことアビィも加わるらしい。
「いつの間にここまで……」
「僕だけの力では、全て準備するのは不可能でした。騎士団と聖女様たちが協力してくださったおかげです。皆、レイヴン様のことを思ってらっしゃいます」
「そうか……それなのに、俺と来たら。目の前のことだけに捕らわれてしまって……」
テオドールがいなくなってからは、魔塔主の仕事と自身の魔法の特訓の繰り返しだった。
レイヴンは周りの人たちのありがたさにもっと気づくべきだったと後悔する。
本当に今更なことばかりだ。
「不出来な先輩で申し訳ない。パフィト、君は俺みたいにならずに今のまま素直な君でいて欲しいな」
「そんなこと……! 僕はレイヴン様にずっとあこがれていました。貴方の姿を目で追う日々で、心から尊敬しています」
パフィトにキラキラとした目で言われると照れてしまう。
前々から何度も伝えていてくれたけど、いつ聞いても気恥ずかしい。
「パフィト……ありがとう。留守を頼む」
「はい! 行ってらっしゃいませ!」
後のことはパフィトに任せ、レイヴンは心を切り替えることにした。
まず、自室へ戻り旅支度を整える。
回復薬などはある程度持っていくが、きっと行く先々でも手に入れることができるはずだ。
装備についても用意したと聞いているため、レイヴンが持っていくものは普段身に着けている装飾品系だ。
離れた場所でも精霊様の力が届く限り、いつでもクレインと会話することのできる金の一枚葉の耳飾りやウンディーネ……レイヴンの母を召喚することが可能な銀の指輪。
「……テオのも持っていかないと」
そして、テオドールに買ってもらった蔦と葉が描かれた銀のブレスレット。
魔石はレイヴンに内緒の効果だと言っていたが、レイヴンが危なくなった時にテオドールが目の前に来て助けてくれた。
今は……呼んでも特に応答はない。
あと、テオドールがレイヴンにはめて置いていった蔦と葉と鷲が描かれた銀のブレスレットも一緒に持っている。
この二つのブレスレットは大きさが違うが、何となく一緒にしていたくてブレスレットに紐を通して首から下げていた。
旅に出る時はローブはフード付きの羽織るものに変更し、中は紐で結っている白シャツと黒のパンツ、そして歩きやすい茶のブーツだ。
あまりあからさまに魔法使いだと分からない方がいいらしいし、旅人風の服装に切り替えておく。
ただ、魔法使いは装備で魔力 の節約をしたりするのでローブは魔力 に関わる効果が付属で付いている。
「他の装備は見てから変更できるだろうし、そろそろ行こう」
テオドールを見つけるまで帰らない。
王命はもちろんだが、見つけてたくさん文句を言ってやらないと気が済まない。
「もちろん、それだけじゃないけど……まずはもやもやを全部ぶつけてスッキリするところからだ」
必ず戻るって言ってたくせに、待たせすぎだとレイヴンは心の中で毒づく。
ウルガーも一発入れてくれるらしいし、レイヴンは何発でもぶつけてやろうと決意する。
「……行ってきます。今度はテオと一緒に帰ってくる。必ず」
テオドールに拾われてから今まで過ごしてきた自室を後にして、レイヴンはウルガーとの合流場所へ向かう。
場所は城下町から外へ向かう門の前だ。
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