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268.ドワーフの隠れ里

   シルフィードが触れた場所から揺らぎはどんどん広がり、結界全体を揺るがす頃になって結界の中から慌てた誰かが走って近づいてくるのが分かる。 「ふふ。うまくいったみたい」 「俺にはよく見えなかったですけど、シルフィード様がきっかけを作ってくださったということなんですよね」 「そうだよ、騎士君。そろそろ使いの子が来るんじゃないかな?」  シルフィードがクスクスと笑うと、結界が少し開かれて中から小柄なドワーフが飛び出してきた。  そして、ふわふわと浮いているシルフィードを見ると驚いてぺこぺこと頭を下げる。 「まさか精霊王様がいらっしゃるなんて! いらっしゃいませ、ドワーフの隠れ里へ」 「うん。歓迎ありがとう。慌てさせちゃってごめんね。今日は、僕の可愛い子たちと一緒なんだ。一人は僕が祝福を与えた子で、もう一人は大事な子の友だち」  レイヴンたちはシルフィードに紹介を受けると慌てて側へ歩み寄る。  目の前にいるドワーフの前で、レイヴンたちも頭を下げた。 「初めまして。俺は、レイヴン・アトランテ。シルフィード様に祝福をいただいたハーフエルフです」 「俺はウルガー・ボーネマン。レイヴンと一緒に旅をしている者です」 「へえ、ハーフエルフとは珍しい。シルフィード様の紹介ならば、人間でも歓迎する。あたいはドワーフのグリムベルガ。グリとでも呼んでおくれ」  グリはレイヴンよりも身長が低いが、髪を一つに縛っていて活発的な印象を受ける。  服も動きやすそうな緑の長めのシャツと黄色のパンツといった感じだ。 「すみませんがグリさん、今日はお願いがあって寄らせていただきました。里長様に許可をいただきたいのですが……」 「僕からも頼むよ。サラマンダーを召喚したいんだ。この子はまだ、サラマンダーの祝福を受けていないから聖なる炎の前に行きたいんだ」 「そういうことならば、中へどうぞ。里長にシルフィード様が来たと伝えてくるんで待っててください。すぐに結界を閉じちまいたいもんで」  そういうと、グリはしゃかしゃかと動きながら、すっと結界を閉じてしまった。  ウルガーも慌てて入ったからいいが、グリがあまり周りを見ていなかったためもう少しでウルガーだけ結界の外で待つ羽目になるところだった。 「ビビったー! 確かに俺はついでみたいなもんだけどさ。俺だけ長い時間外で待つのも退屈だって」 「だね。でも、シルフィード様に来ていただけて良かったです」 「ここならそれなりの時間いられるからね。この前みたいに魔族のところだと力も使うしそんなに長くこっちにはいられないけど」  レイヴンたちで話を続けていると、グリが走って戻ってきた。  どうやら里長に話が通ったようだ。 「聖なる炎は鍛冶場にありますんで。我々の作業場へどうぞ」 「ありがとうございます」  レイヴンはお礼を言って、グリの後に続く。  ドワーフの隠れ里はエルフとはまた違う雰囲気で、家も自然なもので作られているが石造りのものが多い。  綺麗に磨かれている石の家やゴツゴツと尖った岩の家もあり、個性豊かな感じだ。   「ノームは元気にしてるかな」 「たまに来て下さるときは、大抵我らの手伝いをしてくださった後に休憩と言ってお昼寝していらっしゃるんで」 「あー……ノームはのんびりしてるから。やっぱり寝てるんだね」  ノームは地の精霊王で、レイヴンも会ったことはない。  めったに姿を現さないようだが、ドワーフは地のノームと炎のサラマンダーと仲良しらしい。 「しっかし、器用だよな。武器づくりも素晴らしいって聞いてるから、自分の剣が欲しくなるよな」 「発注してくだされば受付はしますんで。ただ、作るかどうかは職人の気分次第なもんで」 「気分次第じゃ、ウルガーが頑張れば作ってもらえるかもね」  さっきからウルガーがきょろきょろと落ち着かない感じだが、いつもの観察をしているのだろう。  ウルガーはふざけているように見えて、抜かりない性格だ。

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