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269.鍛冶場

   グリの案内で、レイヴンたちは里の中でも目立っている大きな建物の前までやってきた。  がっしりとした石造りの建物の上には煙突がついていて、そこからもくもくと煙が出ている。  曲線型だが、石と石がしっかりと組み合わさってできた建物だ。  「ここが作業場です。ちっと暑いと思うんで、脱げるもんがあれば脱いだ方がいい」  グリの言う通りに、レイヴンとウルガーはマントやローブを脱いで中へ入る。  入り口をくぐった瞬間、熱風が身体を通り抜けていく。 「あー……こりゃ確かにあっついわ」 「この中で作業するのは大変でしょうね」  レイヴンとウルガーが素直な感想を述べると、グリはハハと楽し気に笑い飛ばした。 「あたいらは生まれた時から慣れちまってるからね。作業場にいるもんはみんな同じさ」 「僕はここまで暑いのは苦手だから、申し訳ないけど風を(まと)わせてもらうよ」  シルフィードはそう言って、自らの身体の周りに風を纏わせていく。  適度な温度を保つためなのだろう。  ウルガーがうらやましそうな顔をしていて、レイヴンも笑ってしまった。 「親方ー! お客人をお連れしました!」 「おう! グリは相変わらず声がでけぇな! 今、手ぇ離せねぇからすまんがコッチに来てくれや」  グリが叫ぶと、奥から更に大声が返ってくる。  この暑さの中で、ドワーフたちはみんなカンカンと音を立てながら武器を作っているのだが……一番奥にとても大きな(かま)のようなものが見える。  レイヴンたちよりは小さな身体だが、周りのドワーフより一回り大きな身体をした人物がどうやら里長らしい。  横顔からも白い立派な髭が見えるし、見た目はおじさまという感じだ。  赤い袖のない長めのシャツと黒のパンツを身に着けていて、一人だけ服装が違う。  窯に剣らしきものを突っ込んで、様子を見ているみたいだ。 「あれが聖なる炎だね。ドワーフの隠れ里で永遠に消えないと言われている炎なんだよ」  シルフィードが指さした大きな(かま)の奥に燃え盛る大きな炎が覗いていた。  まるで生き物みたいに、ごおごおと音を立てて里長の手前まで炎が飛び出ていた。 「……っし。いい具合だ。マグ、コイツを頼む」  里長が声をかけると、更に奥から屈強な男性が現れる。  彼は上半身に何も身に着けず、筋肉隆々で褐色の肌だ。  見た目も茶の短髪で、ドワーフというより人間に近い感じで結構若い感じがする。 「で、お客人。待たせたな。シルフィード様も来てくれるとは嬉しいじゃねぇか」 「僕は付き添いだけどね」 「ほーん? こっちの細いのはハーフエルフか。しかし、シルフィード様の祝福を受けてるってならすげぇじゃねぇか。で、コッチの兄ちゃんは……」  里長はいきなりウルガーの腕を取って、ぺたぺたと触り始めた。  何を確かめてるんだろう? 「なかなかいい身体つきだ。筋肉は少ないが、悪くない。特徴はねぇが、万能に戦える剣士ってところか」 「え? 触っただけで分かるんですか」 「まぁな。魔力(マナ)がねぇってのもあるけどよ。お上品な感じから察するに騎士さんだな」 「えぇ……俺、まだ何も名乗ってもいないのにすごいっすね」  ウルガーは騎士であることを敢えて隠していたのに、里長は一発で当ててしまった。  レイヴンたちが驚いていると、黙々と作業をしていたマグと言われていたお兄さんがこっちを見上げてきた。 「親父、この方たちに案内。しなくていいのか?」 「おー、いけねぇ。シルフィード様も暑さは苦手だしな。今、作業もひと段落したところだ。そっちのハーフエルフの兄ちゃん、名前は?」 「レイヴン・アトランテです」 「で。そっちの騎士の兄ちゃんは?」 「ウルガー・ボーネマンです。一応旅人ってことにしてるんでここだけの話にしといてくださいよ」  レイヴンたちが自己紹介すると、里長はガハハと豪快に笑い飛ばしてドンと胸を叩いた。 「わしはドワーフの隠れ里の長でもあり、ここを取り仕切ってる親方でもあるブロンダルスミスだ。スミスってのはドワーフの里長が代々引き継ぐ名前だから、ブロでもなんでも好きに呼んでくれや」 「ブロさん、よろしくお願いします。この度は快く受け入れてくださりありがとうございます」  レイヴンが丁寧にお礼を言うと、いいってことよ! とブロにバシバシと足を叩かれた。  思っているより一撃が痛い気がすると、レイヴンは苦笑いを浮かべていた。

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