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270.希望

   ドワーフの隠れ里の長であるブロに許可をもらい、一緒に聖なる炎へ近づく。  シルフィードは本当に暑いのが苦手らしく、レイヴンたちより一歩離れたところで見守ることになった。  この炎の前でサラマンダーに願いを飛ばすと姿を現してくれるらしいが……レイヴンが呼んでも来てくれるのかは分からない。 「若いの、男は度胸だ。サラマンダー様は心身共に強い者が大好きなお方だ。思い切って呼べば答えてくれるに決まってらぁ」 「親父はまた無茶を言う……」  側にいたマグがため息をつく。マグは親父と呼んでいるが、ブロが父親なのだろうか?  レイヴンの疑問が顔に出てしまったのか、ブロが豪快に笑い飛ばした。 「ブハハ! ああ、コイツはせがれだ。美人な人間の母ちゃんとの間にできた子でな。鍛冶の腕もいいから、側においてんだ」 「……どうも」  マグは軽く頭を下げてから、またすぐに作業へ戻ってしまった。  身体が大きいせいかレイヴンは緊張してしまったが、礼儀正しい人のようだ。 「ったく、コイツは愛想がねぇんだ。許してやってくれ。さ、遠慮なくやってくれ」 「遠慮なくって……酒じゃないんだから……」  ウルガーが反射的にツッコミを入れたところで、レイヴンは聖なる炎の前に立ち祈りを捧げる。  レイヴンに用事があると言ってくれていたし、きっと来てくれるはずだが……レイヴンは緊張していた。 「僕もわざわざ出てきたんだから、さっさと話をしてもらわないとね」 「そうですね」  レイヴンは聖なる炎の前で(ひざまず)き、両手を組んで祈りを捧げる。  炎はより大きく燃え上がり、ぶわりと弾けた瞬間に炎と共に炎のような赤を身にまとった人物が現れた。 「なんだ、結局お前も来たのかシルフィード」 「だって、意味深なことを言うから気になって。僕の可愛いレイヴンに妙なことを言わせないつもりでね」  炎のように赤い短髪と切れ長の瞳と、赤の軽鎧に身を包んだ戦士風の服装。  以前にレイヴンも見たサラマンダーの人間の姿だ。 「サラマンダー様、レイヴンです。俺にお話があると伺いました」 「レイヴン、久方ぶりだな。このような形で呼び出してしまいすまないが、お前が気になっていることを話しておこうと思ってな」 「もったいぶらずにちゃんと教えてあげなよ? わざわざ寄り道してまでサラマンダーの話を聞きに来たんだからね」 「……分かっている」  サラマンダーは強い者を好むからこそ、魔族との戦いでもテオドールへ力を貸してくれる形で指輪から召喚に応じた。  ブロも言っていた通り、レイヴンも胸を張っていなければ召喚に答えてもらえなかっただろう。  レイヴンはずっと塞ぎこんでいたから、サラマンダーも姿を現さなかったのかもしれない。 「お前が気にしているテオドールのことだ。あの戦いの後、私も暫くは眠りについていたのだが……一度だけ、指輪から存在を感じることができた」 「と言うと、やっぱりテオドール様は生きてるってことですよね? 良かったな、レイヴン。やっぱりあの人はしぶとい人だって」  ウルガーも背中を叩いて鼓舞してくれる。  レイヴンも信じていたが、改めて聞くと安心する。しかも、サラマンダーが指輪を通じてテオドールを感じたということは間違いなくテオドールが生きているという証拠になる。 「それだけなの? もっと具体的な場所とか分からない?」 「無茶を言うな。あいつはただの人間だ。祝福を授けている訳でもないのだから、たまたま感じることができたというだけのこと」 「その情報が聞けただけでも、俺たちが出向く意味があります。サラマンダー様、わざわざ知らせてくださってありがとうございます」  あの人はどこかで生きている――  だけど、すぐに戻れない事情でもあるのだろうか? 生きてるっていうなら手紙の一つくらい書いたっていいのに……。  レイヴンは心の中でもどかしさを感じる。    最悪の事態として、サラマンダーが一度存在を感じた後にやはり何かあって……ということもありえるが。  その最悪の事態は今まで散々考えてきたことだ。今更どうということはない。 「サラマンダー、テオドールの存在を感じたのはいつ頃?」 「シルフィードに知らせた時だ。すぐに気配は感じなくなったがな」 「つまり……レイヴンが元気になった後だね。じゃあ、きっと大丈夫」  シルフィードがレイヴンに優しく微笑みかける。  レイヴンはそれだけで、これからの旅に意味があると力が湧いてきた。

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