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271.熱い祝福
テオドールの気配が感じられたのは、レイヴンの身体が回復してきてからだということが分かった。
サラマンダーがテオドールへ意識を向けたときに、テオドールがちょうどサラマンダーの指輪を身に着けていたんだろう。
クレインからレイヴンが譲り受けた指輪は魔道具としても優秀なため、身に着けていても無駄にはならないはずだ。
「これでレイヴンとの旅も意味があるってもんだよな。必ずテオドール様を連れて帰らないと」
「だね。無事だの一言も伝えてこない辺りが本当に腹立つけど……無事に王命も果たせそうで良かった」
シルフィードもレイヴンとウルガーのやり取りを聞きながら笑っていたが、そうだ! と急に思い出したように声をあげる。
サラマンダーが、なんだ? と少し嫌そうに言ったので、レイヴンはお互いに気心が知れた仲なのだろうなと逆に想像した。
「レイヴンもこうして前向きに頑張るんだって宣言してる訳だし、サラマンダーも祝福してあげたらどう? 強い者が好きっていうのも分かるけどさ。レイヴンも強い子だよ」
「以前の戦いで十分見せてもらった。テオドールは戦い慣れているのもあるし、人間の癖に魔力 の量が破格だ。アレは別格としても十分に資格はありそうだ」
「え……? 本当ですか?」
レイヴンはシルフィードからのまさかの提案だと思っていたが、サラマンダーにも資格があると思われていたのは意外だった。
急な話に自然と背筋が伸びる。
「良かったじゃねぇか、坊主。サラマンダー様から認められるほど強そうには見えねぇが、シルフィード様は認めてるんだもんな?」
「僕だけじゃないよ。ウンディーネもね。まあ、ウンディーネはレイヴンの母親だから余計にね」
レイヴンはブロにまたバシバシと叩かれていたが、シルフィードがサラッと言った言葉にドワーフたちから驚きの声があがる。
レイヴンの母は、前任のウンディーネから力を引き継いで精霊となった元人間。
そこを話していないと、エルフのハーフなはずが精霊王のハーフみたいなことになるかもしれないとレイヴンも苦笑する。
「へえ! 綺麗な顔をしてるとは思ったけど、あんたすごいじゃないか!」
ここまで案内してくれたグリまでレイヴンのことをバシバシと叩いてきた。
ドワーフの人が喜んでくれるときはバシバシ叩くのが普通なのかな? と、レイヴンは甘んじて行為を受け止めた。
それなりに痛い洗礼だが……悪気はないしむしろ褒めてもらっている感じで何も言えないからだ。
「親父、レイヴンさんが困ってる。今、少し黙って作業しよう」
「ったく、お前はノリが悪いんだってんだ。でもまあ、精霊王様たちの話の邪魔をしちゃいけねぇ。わしらは作業に戻るからゆっくりと話してくんな!」
「ありがとうございます」
マグは気遣いまでできる人物のようだ。ブロと他の皆も鍛冶作業に戻っていく。
残されたレイヴンたちは、サラマンダーの言葉を待つ。
「レイヴン、祝福する前に一つだけ確認しよう。お前は私の力を使ってどうしたい?」
「そうですね……俺は、まだまだ未熟だと思っています。特に魔法以外の戦闘になると皆の足を引っ張ってしまいます。なので、お力をお借りできるのならば戦術の幅を広げたいです」
レイヴンは思うままをそのままサラマンダーに伝える。シルフィードも、真面目な子なんだよ。とにこやかにレイヴンのことを褒めてくれる。
でも……レイヴンはテオドールのように特化した強さはないと思っていた。
だから、正直サラマンダーの祝福を受ける権利があるかどうかは分からない。
「確かに、私の力はシルフィードと比べてもより実践的かもしれないな。いいだろう、強くなりたいというその純粋な気持ちに免じて祝福を与えよう」
サラマンダーはレイヴンの頭上に手をかざすと、熱くみなぎるような力を送ってくれる。
レイヴンはこれが祝福なのだとすぐに理解した。
「……ありがとうございます。これからも精進します」
「シルフィードの言う通り、とても勤勉な性格のようだ。あのテオドールとは大違いだな」
「サラマンダー様、テオドール様はある意味人間離れしている人ですので。あの人は人間じゃないと思っていただいた方がいいと思いますよ」
ウルガーの軽口に、サラマンダーもなるほどなと納得したらしい。
精霊王様にも認められる人外っぷりとは……テオドールは本当におかしな人なのだろうと、レイヴンは自然と笑っていた。
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