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272.更なる祝福
サラマンダーから有益な情報も教えてもらい楽しく会話できたことが名残惜しくもあるが、レイヴンたちは急ぐ身だ。
レイヴン自身ももっと話がしたかったが、用も済んでしまったし出発した方がよさそうだと判断する。
「サラマンダー様、ありがとうございました。早速師匠を追いかけようと思います」
「そうか。ではまたそのうちにゆっくりと会おう」
「レイヴンはいつも忙しそうだね。たまにはゆっくりと休むんだよ」
「シルフィード様も、この度は本当にありがとうございました」
二人の精霊王はにこやかに微笑んでくれる。レイヴンたちはお礼を言って別れようとしたが、急に鍛冶場が騒がしくなり始めた。
「なんだ? みんなわらわらと入り口の方へ飛んでいったな」
「まさか、隠れ里に何か危険が近づいて来てるとか?」
レイヴンとウルガーで顔を見合わせて頷き、何が起きてもいいように心構えと準備をしているとシルフィードがクスクスと楽しそうに笑い始めた。
「いつもは寝てる気がするんだけど、さすがに僕ら二人がいると分かっちゃうか」
「ドワーフの隠れ里を住処 にしているのは私じゃないからな。我らが揃ったのに気づいて目を覚ましたんだろう」
精霊王の二人は楽しそうな雰囲気だったので、レイヴンも危険なことではないのは理解したのだが……サラマンダーの言葉が気になる。
すると、バタバタとブロが笑いながらやってきた。
「今日はすごい一日だな! 若いの、お前は本当に凄いヤツかもしれねぇ。我らの王までおでましたぁ、運がいい。姿が見られるだけでも凄いってのに、起きてらっしゃるなんてな!」
「それって……」
レイヴンが確認する間もなく、ドワーフたちの間からヌッと誰かが姿を現してレイヴンたちの方へ近づいてきた。
長い薄茶の髪をゆるりと一つに束ね、灰色のつなぎのような服を纏った若い男性。
もしかして……? と、レイヴンは男性に対して敬意を込めた視線を向けた。
「あなたは……地の精霊王、ノーム様ではありませんか?」
「正解。炎と風の気配を感じたから目が覚めた」
「ふふ。ノーム、おはよう」
シルフィードは楽しそうに話しかけているが、レイヴンとウルガーは二人で顔を見合わせる。
ただいま、この場は大混乱中だ。
まさか、精霊王が三人も集まってしまうなんて。
レイヴンたちだって驚くくらいだから、ドワーフたちも驚いているのだろう。
「この子はレイヴン。僕と今さっきサラマンダーも祝福を与えた子だよ」
「然り。ノームはどうしてここに?」
「二人がいるのが分かって、気になったから。それに……この子の雰囲気、少し変わってるな」
ノームは屈んでレイヴンの顔をじっくりと眺める。
レイヴンがハーフエルフだということは、見れば一発で分かることだが……それが変わってるということなのだろうか。
「優しい気配がする。ウンディーネの祝福も?」
「もちろん。レイヴンはウンディーネの子だ。と言っても、ウンディーネが人間だった頃のだけど」
「……そっか。寝てる間に見つかったのか」
ノームはめったに人前に姿を現さないとは聞いていたが、精霊王たちと会うことも稀 なのかもしれない。
というか、この状況が珍しすぎるのだろう。
「うわー……俺、おいてきぼりなんですけど……」
「大丈夫。俺もついていけてない」
ウルガーと一緒に顔を見合わせていると、ノームが改めてレイヴンの手を取った。
ほんのりと暖かい手だが、力強さも感じる不思議な手だ。
「レイヴン、オレも祝福する。この里で出会ったのは意味があるはず。この力も役立ててほしい」
「え? でも、俺は……」
「大丈夫。ノームは少し変わってるけど、レイヴンの雰囲気で分かるんだ。君がどんな子なのかって」
「我らを同時に召喚することは難しいかもしれないが、いつかできるようになると信じている」
炎と風の精霊王まで自分のことを後押ししてくれているのに、ここで断るなんて失礼すぎるよなとレイヴンは腹を括 る。
レイヴンはよろしくお願いしますと伝えて目を閉じると、レイヴンの手にじわりと暖かさと力強さが流れ込んできた。
「これで、おしまい。ふわぁ……久々に祝福を送ったから眠い」
「ノームとはめったに会わないから、僕も久々に会えて嬉しかったよ。今度お茶でもしようね」
「気が向いたら。じゃあ、サラマンダーもまた。レイヴン、困った時は呼んで」
「はい。ありがとうございました」
レイヴンがお礼を言って頭を下げると、ノームは集まっていたドワーフたちの頭をなでながら行ってしまった。
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