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273.親方からの餞別
レイヴンは緊張と疲れで力が抜けてしまう。自然とふらっと身体が傾くと、ウルガーが気づいてすぐに支えてくれた。
「大丈夫か? しっかし、理解の向こう側っていうか……すごいな」
「すごいことが起こりすぎてどうしていいのか……」
驚きっぱなしのレイヴンたちを見ながら、シルフィードとサラマンダーも顔を見合わせて微笑む。
「我らにとっても珍しいことだ。ウンディーネも来られたら良かったのだがな」
「仕方ないよ。ここまで暑い区域はウンディーネだと負担が大きい。それに、レイヴンだってこれ以上消耗すると大変だからね。今度こそ僕たちも帰るとしよう」
「そうだな。レイヴン、困ったときはいつでも呼んでくれ」
「はい、お二人ともお気をつけて」
レイヴンとウルガー、ドワーフの皆で精霊王たちを見送ると、自然とレイヴンの召喚が解除されて髪と瞳が元の黒と焦げ茶に戻っていく。
「ほー。ハーフエルフだとその時だけ見た目が変わるのか。黒い髪もツヤツヤでいいじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
レイヴンはグリに褒められたことに、照れながら微笑みを返す。
エルフとは違って、黒でも忌み嫌うということはないようだ。
ウルガーも少し緊張していたようだが、ドワーフたちの反応を見てホッと表情が緩んだのが分かる。
「ウルガーが緊張することじゃないのに……」
「いや、レイヴンは黒髪のことで色々と言われてきただろ? だからついな」
「人間やエルフの迷信はわしらには関係ないことだ。そうだ、いいもん見せてもらった礼をしようと思ったんだった。マグ!」
里長のブロが息子のマグを呼びつけると、マグは分かっていたと言わんばかりに一振りの剣と細工の施されたナイフを持ってくる。
ブロは二つを受け取って、レイヴンたちへ差し出してきた。
「お前さん方にちょうどよさそうなもんだ。騎士の兄ちゃんのはちょいとお上品な剣だが、軽くて丈夫な自慢の剣だ。剣気を乗せれば風の刃も出せる」
「そんな良すぎる剣を俺に?」
「作ってみたが、器用さと平均的な力の分配ができねぇと力を出せないってんで買い手がつかなくてな。お前さんならちょうどよさそうだ」
ブロは元々ウルガーに剣を渡すつもりもあって、ウルガーの身体を触ってみていたのかもしれない。
確かにウルガーの戦い方は派手さはないが、安定していて誰とでも合わせられる器用さも持ち合わせている。
攻守もどちらかが秀でているわけでもないのに、どんな場面でも対応できるのがウルガーの強みだ。
「俺、こんな立派な剣持ったことないけど……受け取った瞬間、しっくりくる感じがした。ありがとうございます」
「気に入ってくれたみたいだな。で、こっちのナイフはお前さんだ。護身用として持っておくといい。そいつは物体だけでなく魔法も切り裂けるナイフで、ノーム様の加護付きだ」
レイヴンに手渡されたナイフは軽くて持ちやすく、レイヴンが鞘から抜いてみると鈍く美しく輝く細工の施されたナイフだった。
ノームの加護付きということは、地の属性ということだ。
「魔力 を込めると、魔法を発動する手間なく魔法の盾が出せるんだとさ。わしらは魔法を使えるもんが少ないんでな。それに、得意な武器は重くて振り回せるハンマーときたもんだ」
「とても素晴らしい品をありがとうございます。鍛冶場へ入れていただいただけでなく、武器までいただいてしまって……」
レイヴンが恐縮していると、またバシバシと足を叩かれた。レイヴンにとってはやはりちょっと痛い歓迎だ。
レイヴンの気持ちは筒抜けだったらしく、マグが親父と言いながら額に手を当てていた。
「精霊王様が三人もいるところを見られるなんざ、長いこと生きていて初めてのことだ。レイヴン、あんたは精霊に愛されてるんだな」
「そうなのでしょうか? だとしたらとても光栄で嬉しいです」
「あとはその硬い口調をなんとかすりゃあ完璧なんだが、まあ仕方ねぇか。旅の邪魔をしちゃいけねえし、本来はもっとゆっくりしていってもらいたいところだが……また旅の帰りにでも寄ってくれ」
「ありがとうございます。師匠を見つけたその時は、ぜひ寄らせてもらいます」
レイヴンとウルガーはドワーフたちにお礼を言って、鍛冶場を後にする。
最初に出会ったグリが、最後まで案内係をしてくれるとのことでレイヴンたちの見送りをしてくれることになった。
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