279 / 291
274.再度、旅立ち
町の出入り口まで送ってもらい、手を振って別れる。
場所も覚えたし、今度来るときはお礼も兼ねて尋ねられたらいいなと思いながら、レイヴンはまた歩き始めた。
「さてと。更に有力な情報も得たし、急いで港町リオスカールを目指しますか!」
「そうだね。精霊力は大分消耗したけど、魔力 は十分あるからな」
「でも、レイヴンはどちらかでも使い切ると危ないんだっけ?」
「どちらかと言うと魔力 切れを起こすと、最悪気を失う可能性があるって感じ。普通は意識がなくなるまでは使わないんだけど……限界突破すると、意識を保てなくなる」
精霊力に関しては脱力感はあるが、レイヴンは魔力 さえあれば戦える。
元々、魔力 だけ感じて生きてきたためだろう。
「成程な。いや、テオドール様も大分無理してただろ? もしかしてと思ったんだよな」
「師匠は魔力 の量が尋常じゃないって言われ続けてきたけど、俺のために魔力 回復薬も譲ってくれたから……最後の移動 で限界突破したのかもしれない」
「だよな。本来はレイヴンの元へ帰る計算だったんだろうけど……何せ異次元へ移動 したんだろ?」
「それも恐らくとしか言えないけどね。そもそも、異次元っていう存在自体が未知のものだから……シルフィード様は理解してらっしゃった感じだったけど……」
テオドールの使ったとっておきの魔法、次元移動 ――
レイヴンの耳に微かに届いた言霊はそう聞こえたが、あれはテオドールが異次元を理解したということだ。
魔法は不可視のものを生み出すけれど、その理論を理解していないと生み出すことは不可能だ。
レイヴンも説明はできないし、異次元についてはテオドールの部屋で調べてみたが理解できる範疇 を越えていた。
「俺は魔法のことはさっぱりだけど、テオドール様が凄い人だってことは分かる。あの人、魔法のことになると別人だもんな」
「普段の態度だけ見てたら、ただの面倒なおっさんにしか見えないからね。異次元に飛んだはずの師匠が目撃されてるということは、異次元からこちらへ戻れた証明になる訳だし」
「ウチの団長とは別の形の化け物だよなー。でも、レイヴンもある意味化け物だけど」
「化け物って言われても嬉しくないし。師匠を見ていると、自分はまだまだだなとしか思えないよ。今は両親のおかげで違う力も使えるようになったっていうだけで」
レイヴンが苦笑すると、ウルガーもそうかあ? と苦笑する。
ウルガーは俺なんて凡人だーって嘆いているが、ウルガーの対応力の高さはある意味天才的だとレイヴンは思っていた。
テオドールやディートリッヒの暴走を止められる数少ない人物でもある。
「ウルガーもブロさんに実力を見抜かれてたし、凄いと思う。俺は、ウルガーになら背中を預けられる」
「レイヴン、お前さんってヤツは……! いいこいいこ」
「……そういうところがなければより良いと思う」
ウルガーの方が身長が高いからと、レイヴンのことを撫でまわすのはおかしな話だとレイヴンは常々不服に思っていた。
ウルガーは昔から、そういうところがある。
妙に過保護というか……接し方はどちらかと言えば男兄弟のような感じだ。
実際レイヴンにとっては兄のような存在でもあるし、昔からずっと頼ってきたのも確かだ。
「なんだよ、急に楽しそうに笑ったりして」
「いや、今度から撫でられた時はお兄ちゃんありがとうって言えばいいかなって」
「急に言われても困るっていうか……」
ウルガーは首の裏の辺りを触る癖がある。
ということは、ウルガーも照れているのかもしれないとレイヴンもクスと笑んだ。
「俺より年上だし、お兄ちゃんで間違いないからいいよね? お兄ちゃん」
「あのなあ……俺のことを困らせるために言うのは違うと思いますよ? 弟くん」
「俺、子どもだから分かんなーい」
レイヴンがなるべく可愛らしい声で伝えると、ウルガーは反撃とばかりにレイヴンの額を弾いてきた。
騎士に弾かれると痛いとレイヴンが何度も言ってるのに、ウルガーはよく突いてくるのだ。
「……っつー」
「レイヴンが元気出るならなんでもいいけどな」
ウルガーがニヤっと笑った顔もある意味子どもっぽいよなと、レイヴンもつられて笑った。
ともだちにシェアしよう!

