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276.結界の謎

   この宿屋の結界を設置したのは誰なのだろうか?  悪しきものは入ることすらできない結界だが、普通の人物に対しては反応しない。 「テオとある意味似ている気はするけど……」  レイヴンが結界をもう一度観察してみたが、やはり少し違う気がした。  結界の主の方がより繊細で、テオドールより大胆だ。  と、色々考えてしまうと結局休めなくなってしまい、レイヴンは自分に対して苦笑いしてしまった。  今日はしっかりと休んで、明日以降にそなえなくてはと心を切り替えることにした。 「……でもやっぱり気になる」  明日の朝一でここの兄弟に聞いてみるのもアリかもしれない。  レイヴンの直感では、この結界もテオドールに繋がっているような気がした。  空振りでも構わないので尋ねてみようと決心する。  ベッドに寝転んで目を瞑ると、少しずつ眠気が襲ってきた。 「テオ……俺、精霊王様たちに認めてもらったんですよ? だから……俺のことも褒めてくださいね」  前にテオドールのことを褒めたことがあったのだが、レイヴンも認めてもらいたいという気持ちは凄く強いと思っていた。  テオドールがいなくなってから、誰とも話す気もおきなくてただ日々やることだけに黙々と取り組んできた。  でも、今は……子どもみたいだと笑われてもいい。褒めてもらいたいと思った。 「そうしたら……少し怒るだけで勘弁してあげます。たぶん」  テオドールと話している時間が当たり前だったから、今もとても話したい気分だ。  夢の中でもいいからと願って、眠りに落ちた。  +++  翌日、ウルガーと合流してから兄妹の元へ向かう。   「おはようございます。よく眠れましたか?」 「おかげさまで。君たち兄妹に聞きたいことがあるんだけどいいかな?」  レイヴンが話しかけると兄のルルドルも少し驚いた表情だったが、お役に立てるのならと頷いてくれた。 「この宿屋には結界が張られているよね? その結界は誰が展開したものか分かる?」 「結界……ですか? それかどうかは分かりませんが、おばあちゃんがこの宿屋には偉い方が泊まったって言っていたような?」 「へえー。偉い方か。それが魔法使いかもしれないってこと?」 「はい。なんでもその方は宿代を持っていなかったけど、お腹を空かせていたのが可愛そうだと思って中へ入れて食事をさせてあげたそうです」  その親切へのお礼として、結界を張って宿屋を守ろうとしたのかもしれない。  しかし、有名な魔法使いがお金を持っていないほど困窮(こんきゅう)しているってどういう状況だったのだろうか?  お金を盗まれてしまったのだろうか? 「それなら、結界があるのも納得できるよな。お金はなくとも立派な魔法使いだったんだろうな」 「はい。私たちもその方のおかげで今までやってこれているのだと思います。この場所は村の中でも奥の方。商売をするには位置的に少し不利だったので」 「それならば、良かった。これからもお二人が仲良く宿を営んでくれることを祈っています」  レイヴンとウルガーで少し多めの宿代を渡して、宿を後にする。  レイヴンが横を見ると、ウルガーも昨日よりはスッキリした顔に見えた。 「レイヴンは考え事をしないですぐに休んだか?」 「少し考え事はしたけど、ウルガーに迷惑をかける訳にはいかないし。休息は大事なことだからね」 「なら、よし。結界のことが気になって眠れないんじゃないかと思ってたけど、ちゃんと休んだみたいだな。えらいえらい」 「また子ども扱いして……」  笑いながら、宿を後にして食料を調達しにいく。  ウルガーは買い出しも早いというのは、前にエルフの里を目指した時にもレイヴンは感じていた。  雑用も得意というか、得意にさせられたみたいなことを言っていた気がする。

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