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277.副団長お得意の交渉術
別々に手分けした方が早いと思ったが、ウルガーが二人分なら対して変わらないと言ったのでレイヴンも一緒に行くことになった。
ウルガーは食品を扱っている数少ない出店へ行って、店主と交渉し始めていた。
「そこをなんとか! ここから先が長いからさ、お金もギリギリなんだよ」
「あんたの事情なんて知らないよ。こっちは商売なんだ」
「じゃあ……」
ウルガーは何やら耳打ちし始めた。店主と何か取引でもするつもりなのだろうか?
爽やかにニカッと笑うウルガーを見ると、店主がはぁとため息をついて頷いた。
「兄さんには負けたよ……こっちの果物と干し肉、ついでにこっちの干した果物たちも買ってくれるならいいよ。その値段で手を打つ」
「いやー、いい買い物した! どうもー」
売れ残っている商品と抱き合わせて多めに買うことで、うまく割引交渉しているらしい。
ウルガーは騎士だが、実は商人の才能もあるのかもしれない。
騎士たちだと食べる量も多いだろうから、自然と交渉術が身に付いたのかもしれないなとレイヴンも妙に納得してしまった。
買った食料はウルガーが背負っている袋へどんどん詰めていく。
レイヴンも持つと言ったのだが、か弱い魔法使い様には持たせられないとかなんとか言われてしまった。
レイヴンは自分だけ手ぶらなのも申し訳ないと思っていたが、レイヴンは側にいるだけでいいとウルガーに毎回止められてしまう。
これは一体どういう意味なんだろうか? と、レイヴンは首を傾げた。
「この村だとこんなものかな。あんまり買いすぎても重たいしな。またリオスカールに着いてから補充しよう」
「そうだね。その割には結構買ってなかった?」
「果物は歩きながらかじるのにちょうどいいかなと思ってさ。干してある食べ物は持ちがいいから多少多くても痛む前に食べきれるはずだ」
「さすがウルガー。食事係も完璧。雑用ならお任せってことか」
ウルガーは胸を張りかけて、雑用って! と、ツッコミまでこなしてくれる。
本当に一緒にいても気楽に話せるいいヤツだとレイヴンも常々思っていた。
場の雰囲気を明るくしながら、それでいてしっかりと周りの空気を読んでくれる。
正直、便利扱いされてしまうのも分かる。
「ウルガーは騎士団で遠征するときもいつもこんな感じ?」
「ここまで遠くに行ったのは数えるくらいしかないけど、団長はあんなだし他の奴らも似たようなもんだからなー。交渉事は俺が担当した方が早くてさ」
「そっか。ウチの師匠はあんなのだからどうにもならないからなー……。最近は補佐官代理が頑張ってくれてたから、俺は楽させてもらってたけど」
「ああ、あのパフィトって子か。あの子はレイヴンのことが好きって顔に書いてあったもんな。そりゃあ、頑張っちゃうよなぁー」
ウルガーとパフィトは面識があったんだったなとレイヴンも微笑する。
ウルガーの前でもパフィトは緊張していたが、ウルガーが気さくに声をかけてくれていたのを覚えている。
「レイヴンはみんなに好かれてるんだから、もっと気楽にしていていいってことだな。だから、肩の力を抜けばいいんだって」
「ウルガーに言われると説得力があるな。肩の力を抜きながら、気を配る天才だもんな」
「そう。この天才様に任せろって」
ウルガーは片目を瞑ってみせるが、全部嘘じゃないのが何とも言えないのだとレイヴンも苦笑する。
買い物も終えたので、ティールン村を出発して港町リオスカールを目指してまた歩き始めた。
「ほら、レイヴン。悪くならないうちに果物食べとけ」
「ありがとう」
ウルガーに渡されたのは赤い果実のアプルだ。比較的収穫しやすい果物で、酸味と甘みがちょうどいい。
リンゴに品種改良を加えたもので、ほぼ一緒だけどこちらの方が持ち運びに優れている。
その割には安価で流通しているのも、利点の一つかもしれない。
お言葉に甘えて一口かじると、爽やかな酸味が口いっぱいに広がる。
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