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278.目指していた第一目的地

   アプルはリンゴよりも小さいけど、味は似ているかもしれない。  歩きながら食べるのには最適な量と言われていて、誰でも気軽に食べられるのと持ちがいい品種なので旅に向いている。 「うん。美味しい」 「お手軽でいいよな。そういえば、アプルと似たリンゴの皮をウサギの形にしてた人がいたよな」 「あー……そういえば。皮をウサギの耳に見立ててた人がいたね。あれでも貴族だから、病気の時はウサギさんにしてもらってたのかもしれないな」 「確かに……いつも貴族ってことを忘れるけど、家を出たとは言えテオドール様って名門の血筋だもんな。教養もあるし所作も本来はできる人だって団長も言ってた」  テオドールは時々貴族のふるまいをするときがあった。おふざけとはいえ、公式の場で求められることがあれば貴族らしく振る舞えるはずだ。  もっとも、本人がそういう堅苦しい場所に自ら出向くことはありえないため見る機会はほぼないだけだ。 「それを言ったら、ディートリッヒ様も同じく名門貴族だ。アレーシュを支える名門貴族の一柱だし」 「団長に気品はないけど、テオドール様より優れているとしたら言葉遣いくらいかな。陛下を敬う気持ちは人一倍だからなーあの人は」 「うん。師匠とは大違い。師匠は陛下に特別措置を与えられていることをいいことに、やりたい放題だからなー」 「アレーシュを変えた人の一人だから、陛下も何も言えないんだろうな。テオドール様は結局うまいことやりきっちゃうし」  テオドールは真面目にやっていないはずなのに、最終的に結果を出すから陛下も今まで口を出すこともなかった。  今回はその人が行方不明になってるっていうんだから、おかしな話だ。 「今頃何してるんだろうな? 帰れない理由についてだけど、俺はお金がなくなったに一票。ギリギリのお金残してどうせギャンブルで当てたお金で帰ろうとしてるんだろうな」 「もし本当にそうだとしたら、文句を言うどころじゃない。それこそなぐる」 「レイヴンもブレないよなぁ。素直じゃないだけでなく本当になぐりそうなんだよな」 「だって、帰れない理由がギャンブルでお金がないなんて。そんな報告できる訳ないし。でも、一番ありえそうだなって」  レイヴンが断言すると、ウルガーも確かにと言いながら笑う。  冗談であってほしいのだが、一番ありそうな理由なのが困る。  レイヴンは嫌な予感を振り払うように首を振る。 「まあまあ。想像だけでも怒ると可愛い顔が台無しですよ?」 「なんだよ、それ。別にあくまでの話だから。本当にそんな理由だったとしたら……その時また考える」 「だな。あくまで冗談だからな。本当にギャンブルのせいだったら……俺もレイヴンと一緒におしおきを考えないとな」  二人で笑いながら色々な話をする。  ウルガーとは、楽しく旅を続けることができた。  +++  途中、野営も挟んで歩き続けているとようやく目指していた町が見えてきた。  アレーシュの国境を越えて、漸く辿り着くことができたらしい。  ここまでの日程はドワーフの隠れ里への寄り道分を足して数日すぎてしまったが、ほぼ予定していた日程通りだ。 「あれが……」 「そうそう。港町リオスカールだ。俺も来たのは初めてだ。団長から話だけは聞いていたんだけど、とても活気のある大きな町だって話だ」 「そうだね。近づいてくるとその大きさが分かる」  レイヴンたちの前には、白塗りの高い壁に囲まれた港町の入り口が見えてきた。  アレーシュの領土内を越えて別の国へ行くことのできる船が停泊してるというだけあって、どこか雰囲気も違う気がする。 「あそこに誰か立ってるけど……」 「旅人でも許可証を持っていないと入ることができないらしい。俺らは陛下から預かっている分があるから大丈夫だ」 「誰でも自由にとはいかないってことか」 「ああ。罪人や密売人の出入りを防ぐためらしい。とはいえ、偽物の許可証も出回ってるって噂だから念のためっていう形なんだろうけど」  ウルガーの言う通り、どこへ行っても抜け道というものは残念ながら存在するものだ。  レイヴンたちは正規のやり方のため、何も恥じることはないのだが……それでも許可証という制度自体は悪人流出の抑制になるはずだ。

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