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288.ボロ小屋
ザイラスと話してからしばらくあと、ギルディアに近づいたということでレイヴンとウルガーは小舟におろされた。
正規の入港ではないからどうしてもザイラスも来る必要があるのだが、海賊に見送られるのも微妙な気分だとレイヴンは内心複雑な気持ちを抱えていた。
陽も落ちた時間帯では灯りだけが頼りになる危険な時間帯だろうが、海賊にとってはこのくらいの時間の方が動きやすいのだろう。
「お前たちのことは、オレが最後まで面倒みてやらないと困るだろう?」
「あなたがいないせいでギルディアに入れないとなれば、この船でここまで来た意味がないので」
「相変わらず冷たい言い方するんだな、この魔法使いさんは。まあいいや、美人は冷たいくらいが魅力的ってね」
レイヴンも普段の自分だったらもう少し冷静に対処できるはずなのだが、どうも感情的になってしまうと心の中では理解していた。
ウルガーにポンと肩を叩かれるのも何回目か分からない。
レイヴンは長く息を吐き出してから、気を取り直して前を見据える。
すると、薄明りの先にぼんやりとだが港らしきものが見えてくる。
船着き場には先に到着したらしい船が到着しているようだ。
だが、普通の船が着く場所に一直線に行っても、小舟で上陸できるような場所は見当たらない。
一体どこを目指すつもりなんだろうか? と、レイヴンは小首を傾げた。
「これ以上港に近づくとギルディアの港の警備に見つかっちまうからな。ちょっとした寄り道みたいなもんだ」
「寄り道……」
ザイラスが海賊に指示を出すと、小舟は進路を変えて遠目に見えていた港から一旦遠ざかっていく。
寄り道とは? とレイヴンは少し疑問に思ったが、ザイラス的には軽口の一種なのかもしれないと納得する。
港を右手に見ながらしばらく漕ぎ進んでいくと、古く痛んだ桟橋が見えてきた。
ザイラスは海賊に命じてその桟橋へ小舟をつけさせると、レイヴンたちへ下りるようにと首を動かして促してくる。
「あの粗末なボロ小屋にいる奴がこのギルディアの港の警備もやってるヤツでな。コイツがまたろくでもねぇクソ野郎ときたもんだ」
「海賊から言われるってどんな人なんだ、一体……」
ウルガーが呆れたように呟くと、ザイラスはケラケラと笑い飛ばして話を続ける。
「ソイツはな、港の警備をギルドから任されているってのに抜け道を使って街へ戻りやがるんだよ。で、酒場に入り浸ってギャンブルをして金をばらまいたあとに何食わぬ顔をして小屋へ戻るってわけだ」
「それで警備をしていることになるのか? 団長が聞いたら、小舟が三つくらい破壊されそうな話だ」
ウルガーの例えにレイヴンも苦笑してしまう。ディートリッヒならば、あり得る話かもしれないからだ。
レイヴンたちはザイラスの知り合いのおかげで正規の手続き抜きでギルディアへ入れるが、ギルド的にはありなのだろうか?
ギルドというのはおそらく、その人物が所属している場所のことを示しているはずだ。
レイヴンで言う、魔塔のようなものだろう。
普通に考えたら、追放ものじゃないだろうか? レイヴンの心に浮かんだ疑問に答えるように、ザイラスが視線を流して口を開く。
「クソ野郎には誰も期待してねぇんだろうよ。ヤツが所属しているっていうのは、ギルディアの中でも力がある大きなギルドだったはずだ。他にも警備がいるだろうし、目こぼしされてるのかもな」
ザイラスは他にもギルドについて何か知っていそうだが、今は街へ入ることが最優先だ。
レイヴンも情報を聞きたい気持ちを押さえ、ズンズンと進んでいくザイラスの後に続いていく。
ザイラスは扉の前に立つと、ガンガンと何度もたたいた。
痛んだ木がミシミシと音を立てようが、おかまいなしだ。
これが続くと小屋自体が倒れてしまいそうなほど粗末な小屋に見えるが、目的の人物が出てくるまで何度も叩き続ける。
「っるせえな……警備の時間はまだだろ……って、あ、あんたは……っ!」
ボロ小屋から姿を現したのは、これまた汚らしい戦士崩れのような男だった。
が、ザイラスの顔を見た瞬間に顔色がみるみるうちに青くなっていく。
「よう、クソ野郎。金は用意できてんだろうなぁ? オレがわざわざ来てやったということは……」
「ひっ……そ、その……すんませんっ! 命だけは、命だけは!」
男は必死に命乞いをはじめ、素早く土下座すると地面に頭をこすりつけた。
ザイラスはその頭を容赦なく踏みつけ、ぐりぐりと地面へ押しつける。
「聞こえねぇなぁー? お前が命をかけるっつーから仕方なくギャンブル用の金を貸してやったってのに。金がないなら次は命だろ? ああん?」
「か、金はすぐに、あと三日も経てばギルドからもらえるんでっ! ぐぐっ……うぅぅ……」
二人のやり取りは見ていられるようなものじゃなかったが、レイヴンもウルガーと静かに見守るしかない。
ザイラスは次につま先を使って、無理やり顔を上へ向かせた。
「オレは優しい寛大な男だからな。お前が役に立つ唯一のことをするってんなら、一旦待ってやろうじゃねぇか。いいか、このお客人を街の中まで案内しやがれ」
「お客人……? うぅ……またかよ……」
「なんだ、今この場で死にてぇか?」
ザイラスの言葉に控えていた海賊の下っ端がギラリと光る刃を男の喉元へ当てる。
男は涙目になりながら、すみませんすみませんとまた頭を地面へ擦りつけた。
「はいぃ……喜んで、ご案内を」
「最初っから素直に返事しろ、クソ野郎が。っつーわけで。オレらは一旦引き上げる。コイツが案内しないなんてことはねぇと思うが……もししないようなら、さっき渡した魔道具で連絡してくれりゃあいいさ」
「分かった」
レイヴンが頷くと、男は解放されてよろよろと立ち上がった。
そして、へこへこと頭を下げながらレイヴンたちの前へ歩み寄ってきた。
「ザイラスさんのお客人ならば、もちろんご案内しますよ。ちょっとばかし暗くてせまい場所ですが……」
「構わない。よろしく頼む」
ウルガーに目配せすると、同意の頷きが返ってくる。
何事もないはずだとレイヴンも思ってはいたが、用心しておく方がいいだろうと感じていた。
レイヴンは笑いながら手を振るザイラスに軽く手を上げて返してから別れると、ウルガーと共に戦士崩れの男の案内で崖の掘られている洞窟へ通された。
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