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287.出航、そして
【第二部 ここまでのあらすじ】
テオドールの目撃情報があったというギルディアへ向かうため、アレーシュ王国から旅立ったレイヴンとウルガー。
途中、ドワーフの隠れ里で精霊王たちの祝福とドワーフから新装備も受け取り、目的地の一つである港町リオスカールまで辿り着く。
ここからは中継地点である、娯楽と夜の街ナクティサへ向かうことに。
ナクティサではレイヴンの財布が盗まれてしまうが、盗人の正体は海賊の下っ端。
その下っ端にギルディアへの行き方を訪ねていたところへ親分と呼ばれる人物が現れる。
彼こそ、クロウ海賊団の船長ザイラスだった。
レイヴンたちは、その見た目とザイラスの好奇心を刺激したことでギルディアへ連れて行こうと誘われる。
疑いながらも一刻も早くギルディアへ行くため、レイヴンたちは海賊船へ乗ると決めた。
ザイラスに探し人の面影を感じるレイヴン。そして、念には念を入れてレイヴンをかばうウルガー。
それぞれの思惑を乗せて、船は出航する。
+++
出港準備が整ったらしい。部下の一人がザイラスに近づいてきた。
「船長、行けますぜ」
「よし、野郎ども! 出港だ!」
ザイラスの掛け声と共に、船内が慌ただしくなる。船は怪しく輝き、ゆっくりと動き始めた。
岩肌に囲まれた空洞を進んでいくと、出口のようなぽっかりと開けた場所が見えてくる。
「魔法も使っているから、風がなくても問題なく航行できるのか。普通の船には魔法付与はなかったはず」
「そんなに真面目すぎて疲れないのかねぇ? まあ、そんなところも可愛いところってことか。あんた、可愛がられてるだろ?」
ニッと笑いかけながらザイラスがレイヴンに顔を近づけてくる。
レイヴンはそれだけで不愉快な気持ちになり、顔をしかめてしまう。
ザイラスはレイヴンが嫌な顔をしても気にせずに、ガハハと笑って身体を離した。
「はーい。あんたも不用意に近づかない。俺の護衛対象になにかあったら、俺の身がもたないんでね」
ウルガーが即座にレイヴンをかばう。レイヴンにとっては助かることなのだが、ウルガーの態度は過保護すぎる気もする。
俺の身がもたないとはどういう意味だろうと、レイヴンは少し首を傾げた。
「ははーん? まあ、これだけ美人さんだと唾つけられていてもおかしくはないわな」
「あんたに言われても嬉しくも何ともない。言われなくたって分かってるし」
「出た! レイヴンの美人顔自慢!」
「ウルガー! 言っておくけど、そういうことにしているだけだから! って……はあ……」
レイヴンはついムキになってしまったが、レイヴンとウルガーのやり取りをザイラスがニヤニヤ顔で見てくるのもイラっとしていた。
レイヴンにとってザイラスは本当にあの人……テオドールに似ている雰囲気で嫌なんだと思わせる人物だ。
レイヴンは気持ちを切り替えるように長く息を吐き出して、この海の先にあるはずのギルディアを見据えた。
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レイヴンは海賊は見た目通りの粗雑で乱暴なヤツらなんだろうと思っていたが、彼らは仲間内には親切らしい。
ザイラスの人柄もあるのかもしれない。
レイヴンたちを客人として扱うようにと言い含められているのか、最初に戦ったとき以来一切手出しされなかった。
レイヴンが唯一うんざりしているのは、ザイラスの距離感がやや近いことくらいだろうか。
その度にウルガーが引き離してくれるからいいものの、ザイラスを見ているとレイヴンはいつもテオドールのことを思い出してしまう。
「見つけたらまずなんて言おう?」
「それ、俺も言って許される……?」
「ウルガーも文句くらい言ったっていいと思うけど、なんでそんなに怯えてるわけ?」
「いやあ……だって、テオドール様だろ? 団長とは別の意味で怖いんだよなぁ……」
レイヴンが甲板で海を眺めてぼんやりしているときも、ウルガーはそっと隣にいてくれる。
ウルガーでもテオドールは怖い存在と聞いて、レイヴンは少し笑ってしまった。
「俺と一緒にだったら一発入れても許されるとか言ってなかったっけ?」
「そんなこと言った気もするけどさ、実際に実行するのは違うわけだし……」
「ウルガーは騎士で副団長の実力があるくせに、変なところで小心者というか……それもいいところなのかもしれないけど」
「はいはい。どうせ俺は騎士向きの性格じゃありませんよっと」
たわいのない話をしているとレイヴンも気がまぎれる。これもウルガーなりの気遣いなのかもしれないなと感じてふと笑っていた。
レイヴンも潮風を心地よく受けながら、絶対にテオを見つけて魔法や思いを全てぶつけてやろうと決意した。
+++
レイヴンは海賊たちが航海の途中で貴族の船でも襲ったら面倒だなと思っていたが、彼らは大人しくしてくれていた。
レイヴンたちはほっとしながらお互いに訓練したり瞑想したりと時間を過ごすことができた。
ならず者には違いないんだろうけど……レイヴンはもっと悪意のある人間を知っているから、彼らの方がよほどマシに思える。
ナクティサを出発してから、一週間と数日くらいだろうか。
普通の船より早い時間でギルディアへ到着できると聞き、レイヴンとウルガーは船長室へ呼び出されていた。
「オレらが堂々と港に入港するわけにはいかねぇからな。適当なところで小舟を出して下ろしてやる。一旦オレらの顔なじみのところへ連れてってやるからよ」
「例の弱みを握っているっていう?」
「そうだ。ギルディアは複数のギルドが管理している都市ってヤツだからな。別に王様が国を治めてる訳じゃねえ。だからこそ、抜け穴もあるってな」
「なるほど。独自の文化と法律があるのか? ギルディア自体のことも気になるけど……」
レイヴンもザイラスの話を聞いて少し興味が湧いてきたのだが、目的はそこじゃない。
ウルガーに視線で促されて、少し脱線しかけた気持ちを戻す。
「ギルディアにも詳しいのか? だったら人が集まりそうな場所や情報を得られそうな場所を知っていたら教えてほしい」
「詳しいってほどじゃねぇが、やっぱ酒場だろ。酒も女も情報も。人が集まる場所って言えば酒場って決まってる」
「はあ……あんたに聞いた俺がバカだった。もういい」
レイヴンがため息を吐くと、ウルガーがまあまあとレイヴンをたしなめるように肩をたたいてくる。
「ザイラスの言っていることも間違いじゃない。俺もそうしようかと思っていたくらいだ」
「そうなのかもしれないけど……まあいい。行くあてもないし、情報収集のためなら仕方ない」
「レイヴンはお堅いよなぁ。そんなに酒が嫌いか?」
ザイラスはまたニヤニヤ顔でレイヴンのことを見てくる。
レイヴンはザイラスを見ながら、この何を考えているのかよく分からない雰囲気も既視感があって本当に嫌だと分かりやすく感情を表に出す。
「……ご親切にどうも」
「オレらが親切なだけだと不服みたいだな。そんなに疑うってなら、分かりやすく一つ条件でも付けてやろうか?」
「今度は急に何?」
手の内を見せないザイラスに警戒心を向けると、大したことじゃねえよと笑って返される。
「ギルディアで何の用事があるのかは知らねぇが、その用事が終わったらもう一回会うってことでどうだ?」
「会うって言われても、ギルディアにいるわけじゃないだろう? 海賊は海の上をフラフラしてるのにどうやって?」
レイヴンが疑問をぶつけると、ザイラスはポンと何かを投げてくる。
反射的にウルガーがそれを受け取って、レイヴンに何か見せてくれた。
「これは……?」
「海賊団の証。これさえあればオレらの位置が分かるってもんよ。海賊団に入った訳じゃねえが、親しいお客様ってことでやるよ」
「海賊団の現在地が分かる魔道具ってことか? だとしてもそこへレイヴンたちが行けるとも限らない。逆にお迎えにでも来てくれるってか?」
ウルガーが面白半分に尋ねると、ザイラスはニヤリと笑う。
「オレらのアジトに入れるってのもあるが、その魔道具の宝石部分に触れるとあんたらの場所も分かる。仲間の位置を把握するってのが一番の目的だ」
「こんなものを海賊団全員が持ってるって? まあまあ高そうな魔道具だってのに」
ウルガーがコンコンと海賊団の証と呼ばれた物を叩く。胸飾りくらいの大きさだけど、真ん中に黒い宝石が付いていて土台もしっかりとした金属だ。
金色の土台の真ん中に黒い宝石という目立つ作りなのも海賊らしいのかもしれない。
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