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286.海賊船

   【第二部 ここまでのあらすじ】  テオドールの目撃情報があったというギルディアへ向かうため、アレーシュ王国から旅立ったレイヴンとウルガー。  途中、ドワーフの隠れ里で精霊王たちの祝福とドワーフから新装備も受け取り、目的地の一つである港町リオスカールまで辿り着く。  ここからは中継地点である、娯楽と夜の街ナクティサへ向かうことに。  ナクティサではレイヴンの財布が盗まれてしまうが、盗人の正体は海賊の下っ端。  その下っ端にギルディアへの行き方を訪ねていたところへ親分と呼ばれる人物が現れる。  彼こそ、クロウ海賊団の船長ザイラスだった。  レイヴンたちは、その見た目とザイラスの好奇心を刺激したことでギルディアへ連れて行こうと誘われる。  疑いながらも一刻も早くギルディアへ行くため、レイヴンたちは海賊船へ乗ると決めたのだった。    +++  少し仮眠を取ってからシャワーで身体を流して気分転換をした。  レイヴンの酔いも醒めてきたのだが、身体に疲れが溜まっていると感じていた。  また船旅になるし今晩だけでも睡眠をとらないといけないだろうと、レイヴンも頭では理解していた。  レイヴンは髪も風魔法で乾かし、ごろんとベッドへ横になる。  首にかけたままのブレスレットに触れると、レイヴンの気持ちが少し落ち着いてくる。  レイヴンは意識をゆっくりと眠りへ移行していった。    +++  次の日の朝、レイヴンが部屋の外でウルガーと合流してから階下へ降りると海賊たちが集まっていた。  朝が弱いのかとレイヴンの中で勝手に思っていたが、実はそうでもないらしい。 「ちゃんとおねんねしたか? そっちの美人さんは船に弱そうだからな」 「おねんねって……睡眠はとったし問題ない」 「じゃあ、さっさと出ちまおうぜ。オレたちも仕事はさっさと終わらせたいんでな」  レイヴンも朝からザイラス自らが来るとは思っていなかったが、船の準備は部下たちにやらせているようだ。  ザイラスはレイヴンたちを相手する方がよっぽどいいのだと、機嫌良さそうに笑っている。  レイヴンは心の中で、何を考えているのか腹の底が見えない相手はやりづらいと感じていた。 「ああ。あんたらもギルディアに用がある訳でもないんだろうし、海賊がただの善意だけで送り届けてくれるとも思ってないけど……」 「疑り深いと嫌われるぜ? 理由は楽しそうだからってだけだ。オレらはそこまで金に困ってない。勿論、金になりそうな船が通りがかればいただくこともあるが……別に略奪行為を心底楽しんでるって訳じゃねえ」 「でも、やっていることは略奪でしかないだろうに」  レイヴンが言い捨てると、ザイラスは手厳しいなと楽し気に笑って受け流す。  ザイラスはレイヴンたちと話しながら昨日の女性に軽いキスを落とすと、二人へついてこいと目配せしてきた。  レイヴンたちも女性にはお礼を言って、そのまま酒場を後にする。 「それで、海賊船は普通の船着き場にはないよな?」 「まあな。オレらの行為はある程度黙認されているところもあるが、全員そうって訳じゃない。こっちだ」  ザイラスは裏路地を何度も曲がり、レイヴンたちにも道を把握させないようにしながら一つの壁の前へ立つ。  レイヴンが注意深く観察すると、壁は魔法障壁で形成されているもので実際の壁じゃないことが分かる。  だが、誰でも通れるものではなさそうだ。 「ここに入り口が隠してある。オレたち海賊団の証がないヤツはここを通り抜けることはできない。だから、迎えに来てやったって訳だ」 「ここに入り口がねえ……」  ウルガーは言いながらレイヴンに視線を流してくる。レイヴンは小さく頷いてみせた。  ザイラスが障壁に軽く手を触れると、障壁が揺らいで道が開かれる。 「こっちだ。早く入れ」  ザイラスに続いてレイヴンたちも通路へ入ると、後ろはまた障壁が張られて見えなくなる。  中はところどころ明かりはあるが、薄暗い通路だ。  この通路もいくつか分かれ道があり、一度来ただけでは覚えられないように入り組んだ道になっている。 「さて……そろそろつくぞ」  ザイラスが軽く振り返り、また目の前へ手をかざす。  すると、パッと目の前が広がり大きな空洞になっている空間が現れる。  海独特の香りと共に浮かんでいる船が目に飛び込んできた。 「あれがオレたちの船だ。普通の船より速さもあるし強度もある自慢の船だ」  ザイラスが自慢げに言うのもレイヴンには分かる気がした。この船には魔法が施されている。  恐らく強度や出力をあげるために、魔法が使用されているのだろう。   「しっかし……あんたたちの海賊旗もしっかりついてるいかにもな船だよな」  ウルガーの言う通り、立派だと自慢された船には黒い旗にドクロと黒いリボンに結ばれた曲刀が描かれている。  ザイラスの腰の曲刀と身に着けている黒いリボンを表したものなのだろう。 「なかなか気に入ってるんだが、そんなに顔をしかめるようなものか?」 「海賊はその旗で存在を知らせるものみたいなものなのだろう?」  レイヴンが本で読んだ知識で問うと、ザイラスはガハハと笑い飛ばす。  その後、ニイと笑ってレイヴンたちに船に乗るようにと促した。

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