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285.明日に備えて
ザイラスと名乗った海賊の船長の船でギルディアに連れて行ってもらうことになったのはいいが、この後も勝手に盛り上がられたせいで大量に酒を飲まされそうになってしまった。
ウルガーがきっちり断ってくれなければ、レイヴンは完全に酔いつぶれていたかもしれない。
「はい、もう終わり! あんたらに付き合ってられないし、俺たちはもう失礼するよ」
「なんだよ、まだ大して飲んでないってのによ。ところで今日泊まる宿は決めたのか?」
ザイラスの言葉にレイヴンたちは宿を決めてなかったことを思い出す。
だが……レイヴンは今、頭がぼーっとしているため宿探しをしながら歩きまわるのは無理そうだとぼんやりと考えていた。
少し休んでから探すか? とレイヴンが悩んでいると、レイヴンの様子を見たザイラスが階段を指さした。
「ここなら休む場所もある。まあ、安宿だがオレらの息がかかった場所だ。悪党は寄ってこないだろうぜ」
「でも、ここって……」
レイヴンは夜のお店ということは上がっていった女性の仕事場でもあるのではと思ったのだが、ザイラスは声をあげて笑う。
「確かに野郎の相手もする夜の店だが、今日は貸し切りって言っただろ? さっきのアイツも今日は大人しくおねんねしてる。空き部屋をどう使おうと構わないさ」
「……それは、どうも」
レイヴンが頭を押さえながら返事をすると、またザイラスに笑われた。
笑い声も頭に響くからなるべく静かにしてほしいとレイヴンは視線でザイラスへ訴える。
その様子を見ていたウルガーがレイヴンの不機嫌さに気付いて、じゃあまた明日と言って会話を断ち切った。
海賊たちも笑いながら酒の入った木のマグを持って行ってしまった。
レイヴンたちは海賊たちが出て行ったのを見送ってから、ゆっくりと二階へ続く階段をのぼる。
「スリを捕まえたらなぜか海賊に目的地へ連れて行ってもらう流れになるなんてな」
「よく分からないが、ギルディアにいち早く行けるのなら海賊だろうと利用できるものは利用した方がいい」
レイヴンが頭を押さえながら言うと、ウルガーがレイヴンの顔を覗き込んで額を突いてくる。
普通に頭が揺れると痛いからやめて欲しいのにとレイヴンはウルガーをじっとにらむ。
「レイヴン、言ってることがテオドール様と似てきたな」
「それ以上言うと、本気で魔法を……」
レイヴンが軽く手のひらを向けると、ウルガーは悪かったと言いながらレイヴンから一歩離れた。
そして、周りを見渡してから部屋に続く扉を開けて中を確認し始めた。
「軽く見た感じ、中は普通の宿と変わらない感じだな。まあ、夜の店の作りって言うならそうか」
「……師匠が好きな店と同じ作りなら、ベッドと風呂はあるだろうな。俺としてはシャワーもあるなら助かるが」
どうやら左と右の部屋は鍵もかかっておらず空き室になっているらしい。
使用中だと鍵もかけられる仕様のため、誰かが間違って入ってくることもなさそうだ。
「明日ザイラスと落ち合わないとだから、レイヴンも無理せず休めよ。風呂は体調が大丈夫そうだったらにしておいた方がいい」
「そうだな。もう少し落ち着いてからにするよ。その……ウルガー、いつも気を遣わせて悪いな。ありがとう」
「それが俺の役回りだから気にしてないって。じゃあ、おやすみ」
ウルガーはひらりと手を振ると空き室らしい右の部屋の中へさっさと入ってしまった。
レイヴンも左の部屋に入る。室内は簡易的な安宿といった雰囲気で、ベッドと椅子と机は置いてあった。
まずはローブを脱いで、椅子の上に置く。
「一応眠れそうではあるな。はぁ……もう少し酒に強ければいいんだが……」
頭痛が治まるまではとベッドの上へ寝転んだ。
レイヴンが身体をあずけると、硬いベッドがギシリと軋 む音がする。
「テオ……今、何をしてるんですか? 俺はテオを追いかけてこんな遠くまで来たのに。いつまで俺を放っておくつもりですか?」
額に手を当てて目を閉じると、ニヤリと笑うテオの顔が浮かぶ。
レイヴンはこうして感傷的になってしまうのは、酒とあのザイラスのせいだと心の中で毒づく。
何も考えたくないのに、レイヴンは一人になると寂しさが襲ってきてしまう。
今までウルガーが気を遣ってくれていたおかげで忘れていられたが、ウルガーと別々の部屋で寝るのが久しぶりのせいかレイヴンもつい余計なことを考えてしまう。
「今は感傷的になっている場合じゃない。明日に向けて休息を取らないと」
レイヴンは自分に言い聞かせ、ゆっくりと息を吐き出した。
深呼吸を続けていくうちに、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
しばらく静かに呼吸だけを続けていると、レイヴンの頭の痛みも治まってきた。
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