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284.好奇心と冒険心

   レイヴンたちが警戒していると、お頭はガハハと笑い飛ばす。  そしてニィッと笑ってレイヴンの顔を覗き込んだ。 「心配しなくてもあんたらの正体を探ったりしねぇよ。なあ、そこの兄ちゃん。ローブを取ってくれよ。そうしたら、お前さんたちの力になってやる」  レイヴンは自分の方をじっと見てくるのを不快に感じていたが、ウルガーに目配せされて仕方なくローブを取る。  すると、お頭は満足そうに頷いた。 「色気のある女もいいが、可愛い男もいいもんだ。あんたも黒髪じゃあ苦労してるだろ?」 「……前半部分はどうでもいいけど、まあ」  レイヴンが適当に答えるとウルガーが苦笑いしながらレイヴンとお頭の間に入って仲裁する。  やたらと容姿で絡まれるのは、レイヴンにとって正直言ってうっとうしいことだった。 「で、あんたは何者? ゴロツキの割にはいい服着てるみたいだけど」 「こっちの兄ちゃんも悪くねぇな、と。おっと、オレの服は作らせたモンだから気に入ってるぜ。オレはザイラス・クロウ。クロウ海賊団の船長だ」  海賊にはレイヴンたちも初めて会ったのだが、レイヴンは書物で読んだこともあり噂で聞いたことがあった。  盗賊と違って、海上で船を狙って略奪行為をするのが海賊らしい。  ウルガーも妙な目線で見られるのは嫌みたいで、珍しく表情に迷惑な気持ちを前面に出しているのがレイヴンから見てもよく分かる。 「いや、俺たちの見た目を値踏みしなくていいから。言っとくけど、あんたら海賊に払う金はないよ」 「ハハ! 意外としっかり交渉してくるじゃねぇか。ますます気に入った。いいぜ、オレがギルディアまで船を出してやるよ」 「は? お頭! なんでそんな金にならないことを……」  ゴロツキの一人が意見すると、ザイラスと名乗った男がちらりとゴロツキへ視線を流す。  そのひと睨みで男は黙ってしまった。 「お、面白そうですね。お頭!」 「面白そうなモンを見逃したらつまらねぇだろうが。それに美人さんに恩を売るのは悪くねぇ。それと何度も言うが、船長と呼べ! これだから頭が悪い部下を持つと嫌になるぜ」  レイヴンは見た目がやたらと気に入られてることは理解したが、海賊に好かれても全く嬉しくないと感じていた。  ため息しか返せないでいると、ウルガーが肩を叩いてレイヴンを慰めてくる。    でも、利用できるものはなんでも利用してさっさと目的地へ行くのはアリかもしれない。  ウルガーに目配せすると、ウルガーも同じ考えみたいで頷き返してくれる。 「分かった。じゃあ、あんたに頼むよ。ところでギルディアには入るのが難しいって聞いたけど?」  ウルガーの懸念とレイヴンの意見は一致している。先ほどゴロツキが言っていたことが本当ならば、普通の船でもギルディアに入るのには時間と手間がかかる可能性があるということになる。   「ああ、それなら問題ない。オレの知り合いの役人に口利きすりゃあいいだけのことだ。アイツの弱みは握ってるからな」 「悪人には悪人をってことか。俺たちはギルディアに行ければそれで構わない。あんたにはそれで見返りがあるっていうのか?」  更にレイヴンが訝し気に尋ねると、ザイラスはまた笑い飛ばしてきた。 「金銀財宝はオレの好物だが、何よりの好物は好奇心ってヤツだな。男は冒険心って言うだろ?」  レイヴンには理解はできないが、何だか満足そうだし放っておけばいいのかな? と思い隣に視線を流すと、ウルガーもいいんじゃないの? とぼそっと呟く。   「それなら……改めて、よろしく。あんたのことは船長と呼べばいいのか?」 「別にあんたらは好きに呼んでくれ。そうだ、アンタたちのことは何て呼べばいい? ああ、オレらはこう見えて口は堅いんで安心してくれ。さっきも言ったがいちいち細かいことを聞いたりしねぇよ」  お頭は癖のある人物のようだが、自分なりの考えを持っているみたいだ。  ここでは偽名を名乗ってもいいのだが、この海賊はいざという時に使えるかもしれないとレイヴンも思案する。  テオドールだったら、気にせず取り込んで自分の仲間にしてしまいそうだという結論に達した。 「レイヴン。魔法使いだ。事情があって旅をしている」  ウルガーはレイヴンが本名を名乗ったことに少し驚いたようだが、色々察してくれたらしい。  レイヴンをちらっと見てから、ザイラスに向かって笑いかけた。 「レイヴンはウルガー。コイツの護衛みたいなもんだ。よろしくな」  レイヴンたちが名乗ると、ザイラスは満足そうに笑みを深めた。  万が一、レイヴンたちがアレーシュ王国の騎士と魔法使いと分かったところで海賊の船長には関係ないし特に問題はないだろう。

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