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283.謎のお頭
上質な刺繍の入った黒いコートと動きやすそうな黒のパンツ。
ブーツも黒で黒ばかりだが……レイヴンから見て、腰の曲刀とじゃらじゃらとつけている派手な装飾品が少し気になっていた。
年齢は、テオドールより上か同じくらいだろうか? 黒の髪は背中の真ん中くらいまであって、髪も黒のリボンで一つにまとめられている。
無精ひげと灰色の瞳はレイヴンとウルガーを見定めているようで少々不愉快な視線だとレイヴンは警戒していた。
「そこのローブを被った少年、なかなかの上玉じゃねぇか。美人さんだ。いいねえ」
「……それ以上ふざけたことを言うのなら容赦はしないが」
「気も強い美人ときたら文句はねぇな。コイツらが世話をかけたな。ここじゃあ、なんだ。オレの馴染みの店がある。そこで少し話そう」
男はあくまでレイヴンたちと同等の立場のつもりなのだろうか?
態度が大きいのは気に食わないが、男は敵意はなさそうでレイヴンとしても情報収集はしたいところだった。
お頭と言っていたからには、このゴロツキたちの親分ということなのだろう。
「元々情報は集めるつもりだったしな。仕方ない。上手い酒でもごちそうしてくれるんだろうな?」
「そっちの兄ちゃんはちゃっかりしてるじゃねぇか。気に入った! オレは強いヤツと美人は歓迎するぜ? ついてきな。おい、きっちり詫びいれろ。お前らじゃ敵わねぇ相手だって分かっただろ?」
ウルガーはこのお頭におごらせるつもりみたいだが、レイヴンも面倒ごとに関わって身分を明かすのは避けたいと感じていた。
ここは広い心でゴロツキたちを許してやるのが正解だろう。
「へい! すみませんでしたっ!」
「……もうしません」
「盗みは相手の力量を弁 えないと、痛い目をみる。気を付けるんだな」
レイヴンは特に少年の方へ向かって言い放つ。お頭と言われた人は、ますます興味深そうにレイヴンの顔を覗き見てくる。
レイヴンが見上げて睨み返しても、ニィっと笑い返されるだけだ。
……この既視感。近しい人にこういう雰囲気の人がいるせいだろうか? と、レイヴンの片眉が跳ね上がる。
お頭はゴロツキたちを連れて路地裏を抜け出すと、レイヴンたちがついてきていることを時々確認しながら客引きで溢れている通りを抜けていく。
彼らは少し奥まった店へと入っていったので、レイヴンたちも後へ続く。
「あらぁ? 珍しいわね、ご新規さんをつれてきてくれるなんて」
「ちょいと訳アリでな。悪いが、場所借りるぜ」
「うふふ。いいわよ。じゃあ、ごゆっくりー」
随分若い女性だったが、この店の店主なのだろうか? 彼女はお頭の頬にキスをしてからひらりと手を振って二階へ続く階段をのぼって行ってしまった。
夜の遊びはおそらくこういったやり取りが普通のことなのだろう。
テオドールも夜の店で似たようなことをしていたのだと思うと、レイヴンは無性に腹が立ってきた。
イライラしながらレイヴンが辺りを見回していると、お頭はククッと笑いながら手下の二人にビールを注がせる。
「なんだ? オレの顔に何かついてるか?」
「いえ、別に。なんでもありません」
「レイヴン……言いたいことはすごく分かるが、今は耐えろ」
ウルガーが耳元で囁いてくるのが分かり、レイヴンは分かってるよと言って息を吐き出す。
今は情報収集に集中しなくてはと気を引き締め直した。
「そこらに適当に座ってくれ。ここは馴染みの店だ。今日は貸し切りにしたから安心してもらっていいぜ」
レイヴンたちはお頭の言う通り、適当な木の椅子へ座る。すると彼は対面にドンと腰かけて手下たちに注がせたビールをテーブルの上へ置かせた。
木のマグにはなみなみとビールが注がれている。
「あんたらギルディアへ行きたいって言ってたな。何の用事か知らねぇが、貴族ではなさそうだ。だが、こいつらをあっさり倒しちまう強さとその武器。それにそこの兄ちゃんの大荷物。ただの冒険者じゃなさそうだ」
お頭はヘラヘラとしているようで、こちらのことを随分観察しているようだ。
意外と頭の切れる人物なのかもしれない。レイヴンは気を抜かずに会話を続けたほうが良さそうだと感じていた。
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