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282.小競り合い程度の戦闘
ウルガーはさっと剣を抜いて臨戦態勢を取る。
髭面の男は曲刀を抜いてウルガーへ走り寄り、上から叩きつけるように剣を振り被ろうとする。
ウルガーは気にすることなく剣気を込め、ブンッと軽く剣を上から斜めへと空間を切り裂くように振り下ろした。
「おわっ! クソッ!」
髭面の男はかろうじてウルガーの風の刃を躱 し、そのままウルガーと剣を交える。
ギィンという音が響いたが、思い切り力を入れている男に対してウルガーは余裕の表情で剣先を流し更に追撃の一撃で剣を弾く。
「ブロさんの言う通り、風の刃か。ウルガーは使いこなすのが早いな」
「船に乗ってる時も暇だったから、早朝に甲板で素振りしてたんだよなー。破壊する物もないから、片づけずに訓練できるっていうのはいいよな」
「いや、それはウルガーとディートリッヒ様の訓練の話……でしょっ?」
レイヴンの方へ素早く走り寄ってきた少年はナイフでレイヴンの首元を狙おうとしていたが、レイヴンも同じくブロにもらった鈍く美しく輝く細工の施されたナイフを鞘から引き抜いて魔力 を込めていた。
魔法で作られた盾がナイフの一撃を止める。
「なっ! オレの速さに反応するなんて!」
「――風撃 」
隙を与えず、近距離になったところで少年の腹へ風の塊を叩き込む。
彼は対応しきれずにもろに影響を受け、身体ごと路地奥の壁へ吹き飛ばされる。
鈍い音と共に少年は気絶したらしく、ぐったりと動かなくなった。
「なんだよ! 魔法使いだって聞いてねぇぞ!」
「悪いけど、手を出してきたのはそちらさんだからな?」
ウルガーはチャリという音をたてて、金貨の入った布袋を男に見せつけた。
懐に入った時点で取り戻していたのだろう。
相変わらず立ち回りがうまいなと、レイヴンは内心感心していた。
「ちいっ! 分かった分かった俺らの負けだ! この通りだから、なっ?」
男は両腕をあげて降伏の姿勢を見せているが、じりっと後ろ脚を引いた時点で何か嫌な予感がした。
レイヴンたちを窺 っていた男の腕が下がりかけた瞬間、レイヴンが詠唱していた魔法を放つ。
「風の弾丸 」
レイヴンは指先から風の弾を発射し、男の手のひらにぶちあてる。
男の手から、手に取ろうとしていたらしい武器が下へ落ちたのが見えた。
「相変わらずお早いことで」
「そっちもね」
レイヴンが魔法を当てたのと同時に、ウルガーは男の喉元に剣を突き付けていた。
男は今度こそ敗北を理解したらしく、大人しく両腕をあげて両膝を地につけた。
「もう今度こそ何もねぇって! 勘弁してくれよー。俺らも飲み代が欲しかっただけだ」
「さて、どうしましょうか? 魔法使い殿」
「そうだな、このまま役人に引き渡してもいいけど……この街のことを良く知らないし。だったら、裏に通じてそうなこの人たちに案内させる? 色々と詳しそうだし」
「なるほどなぁ。一理あるな。あんたら、レイヴンたちはここからギルディアへ行きたいんだ。船を探してる。何か知らないか?」
ウルガーが剣を突き付けたまま尋ねると、ギルディアだって? と不満そうな声があがる。
「あそこは入国が面倒だから、ここらの船乗りはみんな行きたがらねぇよ! 第一あんな場所に何の用が……」
男が不満げに言ったところで、レイヴンの背後から誰かが近づいてくる気配を察知する。
レイヴンはパッと振り返り、ナイフを構えた。
「そんなに怖い顔しなさんな、若いの。お前らがなかなか帰ってこねぇから様子を見に来てやったってのに……情けねぇな」
「お、おかしらぁー! すんませんっ! 金貨ばっかり入ってたから大量だって喜んでたってのにこのザマで」
「馬鹿野郎。金貨ばっかりってことは、手練れかお偉いさんって決まってるんだよ。ったく、雰囲気だけでコロっと騙されやがって。どう考えても厄介者を引き当ててるじゃねぇか」
お頭と言われた人物は、豪快に笑い飛ばすとナイフを構えたレイヴンの前まで普通に歩いてくる。
レイヴンに攻撃をしてきそうな気配は今のところしていないとレイヴンも感じていたが、お頭と言われるような盗賊の割にはいい身なりで余裕そうな笑みを浮かべていた。
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