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勉強はできるほうだし、運動神経もいいほうで、わざわざエスカレーター式で上がれる高校を蹴って地元イチ偏差値の低い高校に進学を決めた時は教師たちにそれは嘆かれたものだったが、俺はこの高校に決めて正解だったと思っている。
頭のいい進学校なんて行っていたらきっと今ほど高校生活が楽しくなかっただろうなと確信してるからだ。
「なぁ、ミリ~、これなんて読むんだ?きき?」
「時雨、それはな、ジュモクって読むんだぞ」
「ジュモク~?あーなんか聞いたことあるわーサンキュー」
それもこれもこの隣の席のアホ…いや阿保 時雨(あぼ しぐれ)のおかげだ。
小学生でも読めるような熟語が、読めないし、書けない頭の弱い時雨、自分の名前すら高校入試直前まで漢字で書けなかったなんてエピソードもあるとかなんとか…。
中学はそこそこレベルの高いとこに通っていたため時雨のようなやつは周りにいなかった。
みんないつもカリカリしていて空気が張り詰めている教室だった。そんな中学に通っていた俺には今の生活の毎日が新鮮だ。
授業中に話し声、携帯の音、遅刻しても悪そびれ無い生徒。体育館の裏で喧嘩なんてものは都市伝説だと思っていたが、この高校では体育館裏といわずあちらこちらで喧嘩している輩がいたりする。
そんな学校の中でも見ているのが一番楽しいのがこの隣の席の時雨だ。
とにかく頭が悪く、学校には来るが授業中はほぼ寝ていて、起きているのは休み時間と昼飯と放課後だけ。
本人曰く黒板を見つめていると眠くなるらしい。
「ミリ~、今日はバイトか?」
「ん?今日は休みだけどどうした?」
珍しく授業中に起きていると思ったら、コソッと話かけてきた、何やらニヤニヤしてる。
「アッキーにAV借りたからお前ん家で見よーぜ」
「…そういうのって1人で見るもんだろ」
俺は初めての誘いに目を白黒させた。AVを友達と見る?何が楽しいんだ…?
「そーなん??俺AV自体初めてみっからなぁ…」
「え?」
「俺ん部屋、テレビもパソコンもねえしさぁ…スマホはよくわかんねーんだもん。だ~か~ら~、ミリんちで見して?」
無垢な(?)瞳でこちらを見つめてくる時雨に負けた俺は渋々頷いた。
「よっしゃ、じゃあ放課後なー」
満足げに笑顔をつくった時雨はそのまま机に突っ伏して寝始めた。
今日起きてたのはこれを伝えるためだったようだ。
今までAV見たことないってコイツ何でヌいてたんだ?
まさか精通がまだとか言わねえよな…。
って、何で俺がダチの性事情について考えなきゃいけねえんだと俺は思わず頭を左右に振った。
「時雨の頭の悪さ移ったかも」
知らぬ顔でぐーすか幸せそうな寝顔を浮かべる隣を見て乾いた笑いが零れた。
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