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「あ~!やっと授業終わった~」
チャイムがなると同時に起きた時雨は大きく伸びをした。チャイムのことをアラーム代わりか何かにしか思ってない。
「ミリ、帰ろーぜー」
何も入ってなさそうなペラペラな鞄を持って立ち上がると眩しいくらいの笑顔を向けてきた。よほどAVを見るのが楽しみらしい。
ホームルームが終わるまでは駄目とどうにか言い聞かせ、本日最後の号令が終わると同時に勢いよく再度立ち上がり、時雨は俺の手をひいた。
「ミリんち近いから最高だなー」
「時雨、もう少しゆっくり歩けよ、AVは逃げないだろ、ってか手!」
「んー、でも、早く見てえしさぁ。手繋いでドキドキしちゃったか?」
ケタケタと笑う時雨はわざとギュッと手を握って楽しそうにしていた、本当コイツいつも人生幸せそうだ。
「じゃあ、手は離してやるからキビキビ歩けよ?」
「キビキビ歩くのがAVのためだと思うとなんか虚しいな」
「そこ、文句言うなー。歩けー」
踵を履き潰したローファーをパタパタ言わせながら、時雨は俺の前を歩いては少し距離が開くと後ろを振り返って早く早くと急かしてきた。
そんなことを繰り返しつつ、歩いて10分早歩きで7分くらいの自宅へとたどり着いた。
「えーぶい!えーぶい!…えーぶいって何の略だ?まぁいいや」
上機嫌で勝手知ったる部屋へと先に向かった時雨は俺が部屋に入る前にAVをプレイヤーにセットしていた。
「はえーよ…」
「今日イチの楽しみだからな!」
鞄を隅へと置き、ベッドへと腰掛けた。時雨はベッドの下へと寄りかかり画面を見ていた。そりゃもう真剣な眼差しで。
「んー、いきなり始まるんじゃねえんだなー、へえ…」
友人から渡されたAVはエステ体験に来たハズの女の子が媚薬を使われてヤられてしまう的な内容なものらしく、最初はカウンセリングから始まっているらしかった。
「なんかつまんねーなー…早送りすっか」
冒頭に早速飽きたらしい時雨はさっさと飛ばして女の子が裸になったシーンから再生させた。一応俺と見るって名分だった気がするけど、そんなことはお構いなしだ。
「うわ」とか「すげぇ」とか言いながら画面にのめり込んでいる。
って、俺AVじゃなくてコイツのこと見すぎじゃね?なんて思ったが、元々AVを見たかったわけじゃないし、初AVを百面相している時雨をみているほうが楽しい気がした。
「…ミリぃ」
「何?」
「オナニーしてもいい?」
「ぶっ」
振り向きもせず突拍子もないことを言い出した時雨に思わず吹いてしまった。
「うわっ、ツバ飛ばすなよ!なあ、しちゃダメ?」
「いや…えー…えー」
「なぁってばー」
「はぁ、わかったわかった…俺部屋出てるからご自由に…部屋汚すんじゃねえぞ…ティシュはそこ!」
人がいる目の前でズボンを下ろしかねない勢いの時雨を宥めるように、頭を一撫でし、俺はそさくさとベッドを立ち上がり、部屋を出た。
「え、なんで俺、ダチが一人でするのに部屋貸してんだ…」
そして、やけに大きく響いたバタンという音を背に独りごちるのだった。
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