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第3話

 縁は、初めて見た時から衝撃的だった。 こんなに綺麗な顔を持って生まれる人がいるんだと感心したのを覚えている。 薄茶に混ざる澄んだブルーの瞳。 それが天然の色だと知った時は本当に驚いた。 透き通る白い肌、薄くて形の良い唇。 白に近いプラチナブロンド。 全体的に色素が薄くて、男女の性別を超えて 神秘的にも映る。 モデルみたいに長い手足、それをダイナミックに使って力強く踊る。 幼少期にクラシックバレエを習っていたこともあってか、縁のダンスのラインはとても綺麗だ。 無駄がなく、かつ繊細。 頭から爪先まで、一本の線で繋がっているようにブレがない。 そんな彼と、練習を共にしながら ……いつしか、憧れを抱くようになるのにそう時間は掛からなかった。 それが恋愛感情かと問われれば……迷う。 あの頃は、気の合う友達でチームメイト。 ……時にはライバル。 一時期はセンターポジションを争ったこともある。 妖精のように、美しく舞う縁と ストリートダンスでスキルを磨いた僕とでは何もかもが正反対で。 だからこそ互いに学ぶべきことがたくさんあった。 遅くまで残って2人でダンス練習をした。 ボーカルレッスンの時は、お互いの声質を揃えるように何度も繰り返し隣で歌った。 そんな毎日の中で、縁は僕の中で隣にいて当然の存在になった。 目配せするだけで、彼の動きや、感情の揺れまで察することが出来る。 デビューしたら、良いコンビになりそうだと事務所のスタッフにもお墨付きを貰っていたのに。 ごめんね、縁。……お前1人置いて。 僕はステージから降りた。 本当は、戻ることだって出来たのに。 リハーサル中の怪我で、靭帯を損傷した。 辛いリハビリをして歩けるようになったのに、ダンスのステップを1つ踏むだけで、電流のように走る激痛。 踊れない、たった一歩も踏み出せない。 無理だ、頑張れない。 ある日張り詰めた糸がプツンと切れて ……僕は逃げたんだ。 眩しすぎる光の世界。 同時にいつ足元を掬われるかわからない闇。 僕に向けられる周りの期待やプレッシャーから……逃げたんだよ。 お前だけを置いて。 ……だから。 「あっ、あぁ……より……」 優しくしないで。もっと、酷く僕を罰して。 「甘いね……李斗は……」 湿った肌に伝う汗を、赤い舌が辿る。 真夜中、月明かりだけが僕らを照らす。 真っ白なシーツは 至る所をギュッと掴む 僕の両手のせいで皺になっている。 あの頃は まさか……縁と こんな関係になるとは思わなかった。 「いや……もう、無理……」 はぁ、はぁと肩で息をする僕を うつ伏せにして 「……あと、一回だけ。」 「あぅ……やぁ……!」 沈み込む度に ぎしっと強く軋むベッド。 掠れた声で喘ぐ僕の唇を 吐息まで飲み込むように塞ぐ。 ステージ上の儚く…美しい彼とは 正反対の 荒々しく……情熱的な獣。 汗の伝う額を拭きもせず 濡れた金髪をかき上げて……微笑む。 「愛してるよ……李斗。」 絶対に、逃さないとばかりに 僕を濡れたシーツに抑え込む。 縁の恍惚とした……表情を ぼんやりと、見つめながら。 「ごめんね……より……」 僕を、許して。 僕は……今日も、意識を手放した。

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