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第1話
登場人物一覧
サンティア🐬
本が大好きな青年
優しく、人の世話をするのが得意
ディースと仲良くなりたい
ディース🍎
無愛想な青年
剣をいつも持ち歩いてる
サンティアに少し距離置いてる
━━━━━━━━━━━━━━━
「ねぇディース」
突如、後ろからいつもの優しげな声で名前を呼ばれる。
俺はソファで剣を磨いていたが、その手を止める。
「...正直、僕のことどう思ってる?」
身構えていたが、かなりアバウトな疑問に一瞬思考が停止する。
...どう?言葉があまりにも足りない気がするが。
理解ができず、俺はスルーを決める。
サンティアが何を考えているかはいつも分からないが、下手に返事をしない方が話は広がらない。
そう、話を広げるとサンティアは何かと長話をしてくるので正直めんどくさいのだ。
「.....」
サンティアは俺の背後にいるので、姿は見えないが強い視線は感じる。
俺がサンティアの話をスルーすることは珍しくない。出会った頃からそのやりとり(スルーすること)をやっているので、サンティアはスルーしても何も思わないだろう。思うことがあるとすれば、またか、まぁいっかぐらい。
いつも通りであればスルーすると、彼は「お出かけしてくるね」とか一言呟いてどこかへ行く。
そのはずだったが
「今回は無視無しでお願い」
まさかのお願いがきた。
あぁ、そういうパターンもあるのか。
それほど真剣な話ってことだろう。
「...理解ができない」
「どう思ってるっていう質問の?」
「そうだ。貴様の言葉が足らなすぎる。」
仕方なくこいつの話に向き合うことにした。めんどくさい方向になっても、聞き流せばいい。そうしよう。
「えっとね....んー...」
やたらと説明し始めるのに間が空いている。そんなに言いづらいことなのか。それとも説明できないことなのか。
「ディースって僕のこと...好き?」
顔は見てないが恐らく彼は、ニコニコしながら聞いてるだろう。
予想外の質問だが、これはもう聞かなくても彼自身が分かってるはずだ。
「好きな訳ないだろ」
何も躊躇いなく俺は答える。
なんでこんなことを言ったのか。
言葉の通り俺は、サンティアのことが好きじゃない。
彼は宿屋の主で、行き場のない俺をほぼ毎日泊めてくれている心の優しい奴だ。
だが俺にとっては、その優しさがずっと怪しく感じてしまう。
┈┈┈┈┈
初めてここの宿屋を訪れた時、彼は
「...いらっしゃい」
明らかな作り笑顔で、俺を出迎えた。
剣を持ってたから警戒したのだろうか。
俺も警戒した。
いや、彼を見た瞬間身体が震え、とっさに剣を抜いていた。
変な汗も出てきていた。
なんだ?こいつとは初対面のはずだ。
震える手を抑え、剣を彼の方に向けた。
「おっと....僕を殺しにきたの?」
彼は何歩か後ろに下がると、少し引っかかる疑問を投げてくる。
俺に殺されるようなことをしたのかこいつ?
だが、そんなことされてるなら忘れる訳ない。
「....身体震えてるけど、大丈夫?」
自分では抑えてたつもりだったが、身体は分かりやすく震えていたようだ。
少しだけ血の気も引いている気がしている。
なんとも言えない恐怖に、言葉を発せないでいると彼は近づいてきた。
「君、疲れているだろうから泊まってきなよ」
「....あ?」
「あぁ、君は赤族で知らないと思うから教えるけどここ宿屋だよ。だから泊まってきな。」
俺は思わず眉間にしわを寄せてしまう。
絶対、隙を見て殺すだろこいつ。
いや殺す動機があるはずないのだが、そんな雰囲気が漂っている。
身体がそう感じているから、そんな気がする。
「大丈夫だよ、君のこと信じてるから。」
「殺したりなんかしない。」
全て見透かしたかのような返事に、また警戒心を強めてしまう。
こいつ怪しすぎる。
結局行き場もないので、泊まることになった。
そしてその日から現在、約2年経過してるが、一向に俺の警戒心は無くならない。
震えたり変な汗が流れるといった恐怖は無くなったが、相変わらず距離を置くようにしている。
初対面なはずなのに知ってるような口ぶりをしていた奴を心から許すはずがない。
「ねぇ」
突然、頭にボンッと軽く固い何かで叩かれる。
考え事をしていたためか、彼が近くまで来ていることに気が付かなかった。
「おい、貴様は何を....」
「僕は好きだよ」
.....は?
想定外の言葉に思わず、後ろを振り向く。
しかし、彼の姿は無かった。
....逃げ足速すぎるだろ。
急いで逃げていったのか、さっき頭を叩いた物であろう本が床に落ちていた。
「何なんだ..」
あの伝え方はまるで告白だった。
実際に告白なんてされたことはないが、本の物語にあったようなセリフだった。
まさか苦手なやつに、しかも男に言われるとは。
尊敬の意味で言っていたとしても、俺のことを好きになる要素がない。
むしろ、こんなに冷たくされて好きになる方が気持ち悪い。
気づくと少し手が震えていたが、俺は気づかぬふりをした。
🐬10年前
ゴホッゴホッと咳が出たことによって、夜中なのに目が覚めてしまった。
また風邪か....。
もはや体調崩すことに、僕は慣れ始めていた。
「うぅ...喉ガサガサ...」
今は真冬で、すごく乾燥する季節だ。
風邪引いたことでより水分が無くなっている。
あまりにも身体が水分を欲しがっているので、身体を起こすと
「うわっ」
「え?」
驚く声がする方へ向くと、暗くてよく見えないが小さな人影があった。
微かに赤髪なのが分かり、人影の正体を理解した。
「....ディース?」
「.....具合悪いのか?」
疑問に疑問が返ってくる。なぜ彼がいるのだろうか。もしかして、僕が咳をしたことでこっちに来たのだろうか。
「また風邪引いたみたい」
「....へぇ」
少しの呆れと慣れのせいか、冷たさがある返事をされる。
まぁ、いつも無愛想なんだけどさ。
でもこうやってきてくれてるってことは、彼なりに心配してくれてるのだろう。...多分。
「これ飲んで」
ディースから、中身の入ったコップを渡される。
透明な液体に見えるので、おそらく水だ。
....そこまで分かってたのか。
エスパーか何かなのか彼は。
ありがとう。と彼に伝えると僕は水を口に流す。
うぅ、久しぶりに飲んだのかってくらい水が上手い。
「水、持ってきて良かった」
彼は微笑みながら優しい声色でそういった。
こんな優しいディース知らないぞ…。
あまり見られない優しさに、少し顔が火照ってくる。
....なんで顔熱くなってんだ僕は。
「ねぇ、熱は?」
「へ?ちょっ.....」
ピタッとほっぺたをディースの両手で包まれる。
慣れないことをされてるせいで、変に鼓動が早くなる。
ただ彼は心配してるだけだ。何を動揺してるんだ。
「ちょっ、ちょっと...」
「おい、お前熱あるよ。横になれ。」
そういうと、ディースにコップを取られ近くの机に置かれると、僕の身体は無視やり押し倒される。
力強く寝かされたため、少し痛い。
心配してくれてるのは嬉しいけど、ちょっと雑すぎる。
こういうところは不器用なんだなぁって思うと思わず、クスッと笑ってしまう。
ディースが笑ったことに気づくと、ムッと顔をする。馬鹿にされたと解釈したのだろう。
「....なに?」
「何か今日の君優しいね。」
「....いつものお返し。」
「いつもの?」
「いつもお前優しくしてくれるだろ。それ。」
あぁ、そういうことか。別に優しくしてるつもりはないんだけどなぁ。
彼はそう捉えてくれているのか。
でも、こうやってお返しをしっかりとしてくれるディースの方こそ優しいんじゃないか。
「僕、ディースのそういうとこ好きだなぁ」
ポロッと口にすると、僕はパッと手で口を覆った。なんて事言ってんだ僕は。
風邪で頭おかしくなってるのかもしれない。きっとそうだ。
チラッとディースの顔を伺うと、彼は目を見開いていた。
そりゃあ驚くだろうな。これは謝ろう。
「ごめ...」
「お前....責任とれよ」
僕の言葉を遮るように、彼はそう呟いた。
それと同時に、僕が寝ているベッドにディースも入ろうとしていた。
えっ?と腑抜けた声が出てしまう。
彼はぐいぐいと無理やり僕の隣に入りこむと、毛布で顔を踞せた。
「か、風邪移っちゃうよ」
「僕も熱でたから一緒に寝てやる」
顔の上半分を出し、睨みながら僕を見る。
これは照れてるってことでいいのか。
それとも、本当に熱出たのか。いやこんな急に熱が出るはずがない。
彼なりの照れ隠しなんだろう。
なんだか、こっちも恥ずかしいな。
あまりにもむず痒い状況に、ついディースに背を向けてしまう。
「じゃぁもう寝ないとね」
「....そうだな」
「おやすみ。」
「...おやすみなさい。」
ディースの返事を聞くと、僕は目を瞑った。
いつもより、暖かくて....安心する。
「ありがとね」
僕は小さな声でそう呟くと、
そのまま眠りに落ちていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
という夢を最近見てしまう。
これで何度目なんだろうか。
夢といっても、お互い幼い頃にあったことを夢として見せられる。
この夢は空想ではない。紛れもなく過去に実際に経験しているのだ。
「なんで今更こんなのばかり見るんだ...」
思わず大きなため息が出てしまう。
あまりにもおかしい。
こんな夢見ると、変にディースのことを意識してしまうし。
もしかしたらディースも意識してくれているのかと思い、ディースに僕をどう思ってるかと聞いてみたが...。
いつも通り、無視されそうになった。
思い切って気持ちを伝え逃げてしまったが、そっから何も彼からの動きはない。
なんだか、懸け引きしている女みたいだ。
何か彼の態度が変わるのではないかと期待している自分がいる。
僕自身もよく分からないが、多分ディースに対して好意があるのだろう。
でもなぜ好きになったのかが分からない。
彼は明らかに僕を嫌っている。
話はあまり聞かないし、距離は置かれるし、ほとんど宿屋に寝る以外こない。
...いや、それが当たり前なんだけどね。
いつも通り、朝起きると彼は外に出かけていて寝る時間帯まで帰ってこないルーティンだった。
ほんとにいつも通りだった。何も変わらない。
気づいたら1週間は経っていた。
相変わらず僕は幼い頃のディースが夢に出てくる。
そして彼に対しての好意があることも変わらなかった。
....いや、もしかしたらただ意識しすぎてるだけかもしれないと思い始めていた。
だって彼は男だ。そして僕も男。
同性愛は別に悪いことじゃないが、僕は別に男が好きという訳じゃない。
といっても、女の子も好きになったことないが。
ただ、夢のディースと現在のディーズとのギャップがすごいがために少し寂しさを感じていた。
夢の影響で、1人のベッドが居心地悪く感じ始めたし。
こんな夢見るから、僕はおかしくなるんだ。
なんで僕だけこんな目に合わないといけないの。
....そりゃあそうだ。
考えれば考えるほど僕には思い当たる節がありすぎる。
2年も経って思いだすのが遅くなったが、僕がディースに対してやったことは相当罪が重いものだった。
__僕のせいで彼は幼い頃の記憶がない。
それをいい事に無理に思い出さず、胸の奥にずっとしまっていた。
きっと今起きていることは、逃げてきた僕に対しての罰なのだろう。
この罰はいつまで続くのだろうか。
...ふと頭の中で悪夢の連鎖を断ち切る方法を思いついた。
あぁ、これをやればきっと少しは変わるだろう。
こうやって、罰からできる限り逃げたい気持ちになってしまうのは、やはり僕は人間なんだと思い知らされる。
優しいなんかない。けっして。
少なくとも前の僕のようにはなれないんだと、僕は大人になった自分の汚さに痛感してしまっていた。
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