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第2話
新たに登場する人物
ルド🌻
ヤンキーじみた性格をしていて、少し乱暴なところがある青年。
だらしない生活大好き。
だが頭は弱くいじられることが多い。
ルキナ🍊
ルドの家に住みついた女性
責任感が強く、誰かのためなら即行動。
ルドのだらしなさが気に入らず、気付いたらお世話係になってる。
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蛇口を捻りシャワーを止めると、重い瞼で髪の毛から滴るしずくを見つめる。
気付くとボーッとしてしまう日々が続いていた。
我ながら情けないと思う。
いつもならこのまま風呂場からさっさと出ていくが、あまりにも頭がスッキリしないので仕方なく風呂に入る。
少し熱いが、お湯に浸かるのは気持ちがいい。
たまにはゆっくりするのも悪くないな。
何故、こういう状況になっているのかというと俺は最近被害に合い続けている。
被害というのは、サンティアの頭のおかしい行動に振り回されていることだ。
好きだと言われて、約1週間。
何も起きなかったことで完全に油断をしていた。
とある日。
いつも食事をとる時間はサンティアと違うのだが、なんと彼が一緒に食べたいとお願いをしてきた時があった。
不審に思ったが、まぁ家の主はそもそもこいつだ。
別に一緒に食べたところで、料理は不味くならない。と考えていた。
彼のお願いに返答することなく、食べ続けていると彼は正面の席に座る。了承したと解釈したのだろう。
いただきます。と彼は言うともぐもぐと目の前のハンバーグに箸をつける。
相変わらず2人の間に沈黙が流れていく。
...と思ってたのだが。
「ディースって左利きなんだ」
とふいに声をかけてきた。
しょうもない話に少し反応が遅れたが、あぁ。と返事はしておく。
チラッと彼の表情を伺うと相変わらずニコニコしていた。いや、いつもより笑顔にも見えた。
「....なんだその顔は」
「え?」
「いやぁ、君の食べてる姿、可愛いなって」
一瞬手に力が無くなり箸を落としかける。
....またか。
俺は動揺と同時に話しかけたことを猛烈に後悔した。何がしたいんだこいつは。
だいたい可愛いってなんだ。舐めているのか。
俺はこの後、彼の言葉をガン無視して飯を食べ終わし、そのまま寝室に逃げ込んだ。
そして別の日。
警戒心が深まる中、俺はいつも通り剣を磨いていると突然目の前が暗くなった。
「だーれだ?」
暗い視界の中、楽しそうな声が聞こえてくる。
その声は、紛れもなくサンティアだった。
「おい、サンティア...」
「正解!ねー、ビックリしたでしょ!」
パッと手が離れると、彼はニヒヒッと小悪魔のような笑い方をする。
しまった。怒るつもりが、つい名前呼んでしまった。
これじゃあ彼のお遊びに付き合ったみたいになったじゃないか。
彼は満足したのか嬉しそうにそそくさと違う部屋に行ってしまった。
一方的に振り回された気分になり、それに対してイライラしながら俺はルド(イエロー)のところに行く。
その日はルドの家の窓をぶち壊してやって清々した。
...こんな日が続いていた。
俺が宿屋にいると、彼はかならず俺に構ってくる。
ぶん投げたいところだが、いつも彼が好きなように構い、俺が怒るタイミングでどこかへ行ってしまう。
....無駄に器用なやつだな本当に。
いきなりおかしな行動をし始めた彼だが、衝撃的な事件がついに起きた。
それは昨日のことだ。
ソファで仰向けになって目を瞑っていると、微かに誰か近づいてくる気配がした。
あぁ、また彼が何かするんだなと考えていると、
突然おでこに柔らかい感触が伝わってきた。
.....あ??
おい今のって。
血の気が引くのを感じるとガバッと起き上がり、サンティアの青い目があう。彼は微笑んでいた。だが少し引きつったような表情にも見えた。
なんでそんな顔するんだ。
そっちからしてきたんだろ。
なんで......こんなことまでしてくるんだ。
去ろうとしている彼を捕まえ、胸ぐらを掴む。
彼は目を見開き、驚く表情を見せた。
「貴様、何がしたい」
今にもぶん投げたい衝動を抑えながらそういうと、彼は目を逸らした。
しばらく返事を待ったが答える気がないのか、全く口を開かなかった。
ただ目線を下に向けているだけだった。
俺はそんな彼に怒りが爆発し、胸ぐらを掴んでいない手でみぞおちを殴った。
彼はみぞおちを抑えながら、ボタボタっと唾液を垂らす。胸ぐらを掴んでいた手を離すと、彼は蹲った。
それでも彼は、いつものように喋り出すことが無かった。ただただ唸り声を上げながら蹲る。
そんな姿を見ていてもしょうが無いと思い、彼を後にした。
という事件が起こり、今に至る。
なにがしたいんだ全く。
やられてるこっちの身にもなって欲しい。
....こんなことしても俺が嫌いになるだけだぞ。
そう考えながら、のぼせた身体で風呂場から出ると、目の前には黄色い髪をしたルドが現れる。
彼はうわっと声をあげるが、俺を見ると一瞬して目を丸くした。
「珍しく遅いなって見にきたんだけどよ....お前って立派な身体してんのな」
しみじみと身体を見てくるこの変態野郎にゲンコツをお見舞いする。
遠回しにタオルを身に付けるのを忘れてることを伝えたかったのだろう。
俺は風呂場から出る時かならずタオルを身体に巻き付けている。
別に見られても恥ずかしいとかはないが、全裸で風呂場から出るのは、何かだらしない感じがして気持ちが悪いのだ。
「俺が出ていく前にくるな」
「えぇ、ただ心配してただけだってー」
ヘラヘラとほとんど棒読みで言う。
俺はそんな彼を睨みつけると、すんませんと縮み込む。
いつの間にか誰かに微かにいじられるだけで、イラついてしまう自分になっていることに気づく。
完全にあいつのせいだ。
ついでに、あいつのことを思い出すと手が震えるようになった。
しかも彼の行動がエスカレートしてくる度に、どんどん震えが酷くなっていた。
....何故震えているのかは分からない。だが、震える元凶となっている感情はなんとなく気付いている。
だが、そんなはずはないと認めないように自分に言い聞かせた。
絶対にありえない。
俺があいつ相手に
またもや恐怖心を抱くなんて。
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「で?どったのお前」
食卓で正面に座っているルドは、前のめりになって俺にそう聞いてきた。
風呂から上がった後、部屋着に着替えさっさと寝室に行こうとするとルドに声をかけられ、そのままリビングに連れてかれた。
ルドはいつも宿屋にいる訳ではないが、サンティアとの付き合いが長いせいか時々訪れてくる。
俺とも2年前に知り合い、会えば何となく話す仲となっていた。
ルドにはサンティアみたいに怪しい感じはない。
色々だらしないところは気になるが、根はいい奴に思える。
今も俺がいつもと違うことを察したのか、風呂場にわざわざ見に来たり、こうやってさりげなく話を聞くぞと声をかけてくれている。
「失恋でもしたんか」
ルドはニヤニヤとしながらからかいを挟んでくる。こいつ....。
「...それは俺じゃない」
「ん?何その意味深な発言。詳しく教えろよ」
相変わらずニヤニヤしながら、俺の発言にくらついてきた。
俺は今までサンティアにされてきたことを、少しも隠すことなく全て話した。
序盤の告白のところからずっとルドは驚きと呆れが混ざったような表情をしていた。
まぁ、そりゃあそうだ。
話終わると、自然とため息が出てしまった。
ルドは背もたれに寄りかかり「うーん」と、俺にかける言葉を探していた。
少し間が空くと、ルドは
「まぁ...サンティアもあれだけどお前もお前だからな」と苦笑いで呟く。
恐らくサンティアを殴ったことを言っているのだろう。あれは、自分で言うのもあれだが悪いとはあまり思っていない。
そう伝えると、ルドは再び呆れた表情になる。
「気持ちは分かるけどよ...あいつは身体が強くないんだから手加減してやれよ」
言われてみれば、そうだった。
サンティアは何かと体調崩すことが多い。
確かにやり過ぎたかもしれないと、心の中で反省はするが謝る気にもなれない。
そう考えていると、ルドはハッと思い出したかのような顔をして口を開いた。
「関係あるかわかんないけどよ」
「サンティアってよく過去の話をするんだよ」
「過去?」
「小さい頃、宿屋で兄と同い年くらいの男の子と住んでた話なんだけど」
なんでそんな話をしているんだと、疑問に思ったが気にせずに話を聞くことにした。
「それが何に関係するんだ」
「いや、さっき言った男の子がさ。何と青族じゃなくて赤族だった訳よ」
「...そんな事があるんだな」
「いやもっと驚けよ。赤族だぞ。その当時じゃ赤族に人を殺す“小さい悪魔“がいるって騒がれてたんだ。しかも赤族はそもそも戦闘民族だしな」
悪魔....。その言葉の響きがあまりにも胸糞悪く思えた。別に俺のことでは無いのだが。
「俺はそういうのは知らないな」
「オレはよく親に言われてたぜ。悪魔の子に絶対見つからないようにってな。他の青族も黄族もそう伝えられて育ってると思うぞ」
まぁ結局正体分かってないからでたらめだったんだろうけど、と付け加えるとルドは脱線したことに気がつく。
「悪ぃ。でさ、オレ思ったのよ」
「なんだ」
「赤い男の子ってお前のことじゃねぇの」
「あ?」
ルドの発言に耳を疑う。
こいつもおかしくなったのか。
でたらめを言うなと言いかけた瞬間、微かに手が震えはじめていた。
....なんでまた...
震えるタイミングが分からなすぎる。
もしかしてと俺は考えた。
...絶対そうだとは言いきれないが、ルドの言葉を聞いた瞬間になったのだからきっとそうだ。
ルドの予想通り、男の子は俺なのかもしれない。
もしサンティアに過去に何かされていたとすれば、彼と宿屋で出会った時に恐怖を抱いた理由や俺の幼い頃の記憶がないことに繋がる。
サンティアが俺に対して何かやらかし、それを消したいがために記憶を失うようにしかけた。
あいつはよく本を読むから、記憶を消す方法くらい知ってそうだしな。
....でもまだ幼いんだよな。
「ディース?大丈夫か?」
俺が頭の中で憶測をたてていると
ふとルドに様子を伺われる。
「あぁ。何でもない」
とりあえず今のところは黙っておくことにした。
この憶測は間違っていなくもないと思うが、確信はできない。
もう少し情報が欲しい。
そう思うと、ルドにサンティアの過去の話を詳しく聞こうとしたが、先に話題を出されてしまった。
「てかさ、お前キスされんの初めてか?」
「....初めてだが」
「俺より早いなボケ」
ルドは悔しそうな顔でぶっきらぼうに呟いた。
良いなぁとでも言いたいのか。
ルドは俺の様子を気にせずに話す。
「お前のどこがいいんだよ、サンティアは。無視されるのが割と嬉しいんかね」
「それは俺が聞きたい」
「まぁ....これも運命なのかもな」
「綺麗に終わらそうとするな」
そう言うと、彼はアハハっと大きく笑った。
ふと手を見ると震えは止まっていた。
もしかして、俺の気持ちを落ち着かせるためにわざと変な話題にしたのか?
...やっぱり根はいい奴なんだな。
「お前....ありg」
「まっ、俺が先に童貞捨てっかんな。てかさー最近ルキナがちゃんと構ってくれねぇのよ」
いきなりルドの恋愛相談が始まる。
さっきのは、この話をするための前置きだったのか。
お礼をしそうになった自分を殴りたい。
一瞬だけ、こいつのことを信じた俺が馬鹿だった。
「お前、このまえ窓割ったんだから俺も話してもいいよな」
そう言うとルドはつらつらと終わりが見えない惚気話を語りだした。
めんどくさい方向になったな...。
俺は適当に返事をしつつサンティアとのこれからの接し方を考えていた。
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