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第3話

重い足どりで自分の寝室に入ると、電気も付けずにベッドに倒れ込む。 ディースに殴られたみぞおちがじわりと痛い。 さっきの出来事をふと思い返すと、目頭が熱くなる。 あぁ、嫌われた。 いや元から嫌われてたんだっけ。 なんでこんなことしてんだろ。 あんなことしなきゃ良かった。 なんでキスなんかしたのかな。 と後悔の言葉しか考えられなくなっていた。 どんなに後悔してももう手遅れなのに。 「...いっそのこと、ずっと夢を見れれば幸せなんだろうな」 枕に蹲りながら、そう考えると目を瞑る。 相変わらず僕は、幼い頃の僕とディースが楽しそうにしている夢を見る。 ずっと夢を見るには、眠り続けないといけない。 気付くと手には大量の錠剤が握られていた。 いつ取ってきたんだっけ、と思いつつもある分だけの量を口に入れ水で流し込む。 なんだか身体に違和感があったが、それを忘れさせるような眠気で意識をなくしかける。 これで、僕もディースも幸せだ。 僕は微笑むと、いつの間にか眠りに落ちていた。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 「「ガシャアァン」」 何かが割れる音が食卓から響き渡る。 何があったのかと、キッチンから食卓の方へ向かうと小さい頃のディースが床でうずくまっていた。 食卓の周りは割れた皿とぐちゃぐちゃになった食物。付近には彼が吐いたであろう血が流れていた。 ディースの傍に駆け寄ろうとすると、何者かに腕を引っ張られ前に進めなかった。 どうしよう。ディースが血を吐いてる。 助けなきゃ。死んで欲しくない。 そう思っても腕は徐々に強く握られ、一向に離してくれる気配がない。 「離してよ!ディースが...!!」 「サンティア」 低い声で僕の名前を呼ばれる。 その声の主は、ディースだった。 彼の方を見ると、うずくまっていたはずだったのにいつの間にか立ち上がっていた。 顔を下に向けているため表情が分からない。 だけど、すごく怖い。 僕はガタガタと足が震えはじめた。 血は相変わらず彼の口からボタボタっと垂れている。 「よくも...」 「毒を盛ったな貴様」 ディースの口調の変わりようから殺気がヒシヒシと伝わってくる。 逃げなきゃ。 逃げないと殺される。 そう本能で察知したが、気づいたら押し倒され上に跨がれていた。 ディースの手には、お気に入りの剣が握られている。 予想外の展開に頭が追いつかない。 なんで。なんでこうなったの。 僕はただ __ただ君を助けたかったのに。 毒を盛ってなんかない。 そう叫びたかった。 が、目の前の彼において声を出せなくなっていた。 幼いはずなのにバカ強い力で抑えられ、身動きもとれない。 もう泣くことしかできなかった。 ボロボロと涙が溢れ、上手く息ができなくて過呼吸気味になっていく。 いやだ、死にたくない。どうして。 何がいけなかったの。 そう自分に問いかける。 もう優しいディースはどこにもいない。 僕はあの大好きなディースのことを裏切ってしまった。 ごめんなさい。ごめんなさい。 何度も何度も頭の中で謝った。 こんなことしても、許されない。 もう一度なんて無いのに。 「...........った俺が悪かった」 彼の口から小さく呟かれた言葉を聞いた瞬間 彼は僕に向かって剣を振り下ろしていた。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 意識が戻ると 頭が割れるように痛い。頭だけじゃない。 全身痛い。 身体が思うように動かない。 朦朧とする意識に視界に映りこんだのは、赤い液体だった。 僕床で倒れてる?なんで? さっきのは夢じゃなかったの 疑問が思い浮かぶ中、身体がどんどん冷たくなっていくのを感じた。 「サンティア!おいしっかりしろ!」 「血が...止血しないと...!!」 上の方から、僕を呼びかける声が聞こえる。 この声はルド君とルキナちゃん....? ズキズキと痛む頭で、ふと直前にあったことを思い出す。 あぁ、僕は階段から... 心配されないように僕は大丈夫だよと言おうとするが、口が痺れて動かない。 痛みで神経がやられたのだろう。 「.....サンティア」 微かにルドとは違う低い声が聞こえたが、正体が分からないまま僕は意識を失った。 🌻 「サンティア!おいしっかりしろ!」 目の前で頭から血を流して倒れているサンティアに向かって、そう叫ぶ。 一緒に駆けつけたルキナも止血をするために、タオルを急いで取りに行く。 サンティアは恐らく不注意とかで階段から落ちたのだろう。 理由はわからないが、それよりも処置が必要だ。 このままでは出血のし過ぎでこいつが死んでしまう。 「....サンティア」 俺の後ろで、ディースがぼそりとサンティアの名前を呼ぶ。 きっと自分が殴ったからと罪悪感を抱いて動けないでいるのだろう。 案外繊細なところあるからなこいつ。 「ディース、お前運ぶの手伝ってくれ」 と言おうとした。 だが、明らかに言える状況じゃなかった。 目の前のサンティアの肌が黒く染まり始め、立ち上がったのだ。 この出血量じゃ容易く立てるはずがない。 しかも、この黒く染まってるのはなんだ...!? 『やっぱり心地がいいな、憎悪というのは』 サンティアの口から、高笑いながらそう発した。 声が明らかにサンティアじゃない。 もしかして.....乗っ取られてるのか。 「ルド、離れて!」 タオルを持ってきたルキナの声を聞き、サンティアであった者と距離をとると、俺は念の為に後ろポケットに備え付けていた銃を手に取る。 なんでこうなってしまったのか。 時は1時間前に遡る。 「お邪魔しまーす」 俺がディースにルキナの話をしていると、本人らしき高い声が聞こえる。 帰ってこない俺を見に来たのだろう。 案の定、連絡もなしに遅くまで宿屋にいることを不機嫌そうに言われる。 それも心配してくれてる証拠だって思うと、嬉しいもんだ。 「そんなに心配してくれてんのか」 と茶化すと 「違う!!」 と大声で言われる。相変わらず素直にならないんだなと微笑ましくその様子を見ていた。 「ディースもルドの話に付き合わなくていいからね」 「...別に流してたから平気だ」 「えっマジかこいつ」 とんでもない真実を思い知らされる。 こいつは冗談を言わない奴だ。 まぁ、真面目に話を聞くやつでもないか…。 次はサンティアに聞いてもらお。 と考えていると、ふとサンティアに会ってないことを思い出す。 「そういや、サンティア今日部屋から出てこないな」 俺がそう言うと、ルキナはえっと驚きの声をあげる。 「そうなの?ついでにサンティアに本借りようかなって思ってたんだけど」 ルキナは残念そうな表情をする。 「俺も今日会っていないな。もしかしたら...」 ディースも会っていないことを伝えられると 「「ダンッダダダダ」」 突然、部屋の外の廊下から勢いよく走ったような足音が聞こえてくる。 もしかして、サンティアか? いや食卓に来たとしても何故逃げるんだ。 明らかに様子が違うなと思い、席から立ち上がると 「「ダダダンッッッ」」 物が落ちたような、鈍い音が聞こえてくる。 嫌な予感がすると俺は音のした方へ走っていった。俺に続いてルキナとディースも後ろについて行く。 音がした方へ走っていくと、階段付近で血を流したサンティアが倒れていたのを発見する。 しかし、そのサンティアは何者かに取り憑かれているのか白い肌が黒くなりゆらりと立ち上がる。 そして今に至る。 銃を構え、目の前のサンティアに銃口を向ける。 いつもなら怪しい奴はすぐさま撃つのだが、サンティアの身体を傷つける訳にはいかない。 それを分かってるかのように、俺の様子を見ながら奴は笑っていた。 銃弾を一刻も早くぶち抜いてやりてぇ。 俺がイライラし始めると、奴の口がにやりと怪しげに笑った。 その瞬間、奴は俺の横を通り過ぎディースの目の前までに移動していた。 「ッ...!!」 ディースも予想外だったのか、完全に逃げ遅れていた。しまった、こいつディースを狙ってたのか。 「ディース、早く動け!」 俺はそう叫ぶが、遅かった。 ディースは奴に胸ぐらを掴まれ、とんでもない腕力で投げ飛ばされていた。 屋根を突き破り、一瞬にしてディースの姿が見えなくなると、敵はそれを追いかけるように大きくジャンプして出ていった。 「ルド、追いかけよう」 ルキナが俺のところに駆け寄ってそう言う。 「でも...!!」 追いかけたところで、下手に攻撃できない。 敵でもサンティアの身体なのだ。 俺はふとそう考え、戸惑ってると 「身体を傷つけられないなら、身体を押さえつけよう。ターゲットがディースなら、見向きもされてないうちらがどうにかしてあげないと」 ルキナはそう言うと、ショルダーバッグから白いステッキを取り出す。 そうだ。できる限りのことをしなければ、後悔するだけだ。戸惑ってんじゃねぇよ俺。 それに今のディースは本調子じゃない。助けてかやらなくてどうする。 自分のポンコツさに嫌になるが今はそんな場合じゃない。 「そうだな、あんな気味悪い奴殺ってやろうぜ」 俺とルキナはディースが飛ばされたであろう方向へ走り出した。

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