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124日目
初めてその姿を見た時、似合わないなと思った。真新しい洋館にも、聞き慣れないワルツにも、石畳の道にも。何もかもが似合わない。せめてこれで勘弁してくれと言って、ハットを被らないという簡素な格好だけど、見る人が見たら全てが高価なものだとすぐにわかるだろう。
最近流行りの散切りは、肩のところで綺麗に切り揃えられている。いきなり短くしすぎると落ち着かないので、前髪と顔周りの髪は少し長めにしてもらった。
それでも、洗練された雰囲気は欠けらも無い。まるで洋服に着られているようだ。
本当に、訳が分からない。
でも、一番分からないのは。
「なんで俺が、ダンスパーティーに出ないといけないんだ!?」
「私のパートナーだからね」
「舞わずの太夫だったってこと、忘れたのか……」
ただでさえ舞うことの出来なかった俺が、大勢の前で周とワルツを踊るだなんて。恥を晒すだけじゃないか、こんなの!
「心配しないで。私に任せておけば大丈夫だから」
「はぁ……貴方が言うと本当に大丈夫だと思えるから、不思議だな」
「そうだろう? それじゃあ、はい」
「はい?」
急に差し出された右手に、どうすればいいか分からず右往左往してしまう。
「珠希、お手をどうぞ」
「あ、そういう……うん、ありがとう」
「はぐれないよう、ちゃんと握っているんだよ」
ぎゅ、と右手を握りしめる。俺の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。周の隣は心地よい。これからも周が隣に居て、光の射す方へ一緒に歩いていく。
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