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序章①
僕なんて、が昔からの口癖だった。
特に生きている意味もないし、何をやってもうまくいった試しはない。
毎日毎日、なんとなく過ぎる日々をぼーっと眺めるような、そんな存在だ。
いきなりネガティブワールドを披露して申し訳ないが、僕なんてそういう存在なのだから仕方がない。
だから、新学期早々よくある“自己紹介シート”に本当のことを書けば確実にぼっちルートになるな、と鬱々としてしまう。手に持ったシャーペンをくるくる回しながら、ため息をついた。
周りの奴らは、僕の心情と打って変わって楽しそうにシートに記入している。
面白いこと書けよ、やだよ、好きな人書いてみるとか!?、やだ恥ずかしいよ。
わいわいがやがや、という言葉がふさわしいような賑やかさで、思い思いにシートにポジティブワールドを繰り広げている。
羨ましいかって?いや、まぁ…。羨ましいよね、そりゃ。
またため息を一つついては、“趣味は映画鑑賞”と無難なことだけをつらつら書くことにした。
無難が一番。狙おうだなんてそんなトチ狂った思考を持たなければ、皆からは面白がられずむしろ空気のように接してくれる。
適当に空欄を埋めて、シャーペンを机に置いたところでニヤニヤした男が僕の前に来た。
「おっ、書けたのか?」
「まぁね。」
どれどれ、と眺めようとしてきたのを手で振り払うと、相変わらず冷てぇと笑うバカに、ガン無視を決める。
この馬鹿そうなにやけ面野郎は、僕の古くからの友人だ。名前は…あ、そう言えばこの馬鹿よりも僕の自己紹介がまだだった。こいつが先は腹立たしいので、名乗るとしよう。
僕の名前は、佐藤翔。高校二年生。ちなみに、読み方は“しょう”ではなく、“かける”だ。
そして、馬鹿の名前は勝だ。読み方は“かつ”でも“まさる”でもなんでもいい。好きに覚えていいよ。興味ないでしょ。
「俺も書けたぜ、ほらっ!ま・さ・る!の記入シート!見るか!?」
大きな声で、書いたのであろう記入シートを僕の前に突き出してきた。こいつ、僕の心読んでいるのか?と不振に思いつつも、見ないと冷たくあしらった。
「どんなの書いたの?えー!見せてよ見せてよ!」
口をとがらせむくれる勝を横目に、ふと女子達の甲高い声が聞こえたのでゆっくりと目を向ける。にぎやかなクラスの中で一際声を教室内に響かせる、女子からも男子からも注目の的になっている人物。女子からの声に困り顔をしながらも爽やかに笑う彼を、さすがデスネェと内心毒づきながら見つめた。
顔良し、性格良し。身長も高く、陰キャ陽キャどちらとも仲良くできる、笑顔のまぶしい好青年。おまけにスポーツ万能で、どのクラブからも引っ張りだこ。ボールをキャッチするだけで、女子にキャーキャー言われるまさに学校の王子様。どこの漫画から出てきたんだよ、とツッコミを入れたくなるほど完璧な人物だ。
一年では別のクラスだったのにも関わらず、その噂は隣のクラス、いや全クラスで飛び交っていた。ほーほー。イケメン君はどこへいってもスーパースターなことで。なんて皮肉の一つでも言いたいほど、彼のことは一年の時から耳にしていた。
「また僻みかい、翔チャン」
「うるせっ」
僕のじとっとした目つきに気づいたのか、ニヤニヤ笑みを浮かべて小突いて来た勝に軽く頭を叩いてから、本日三度目のため息をついた。
世は不公平だよな。だって僕なんかとは比べものにならない、あんなイケメン君が平気で存在しているんだもの。おかしいよなぁ。
また卑屈めいた思考に陥ったところで、チャイムが鳴り響く。教室に入ってきた先生により、僕らは先ほど書いた自己紹介シートを手に持ち一人一人発表していくこととなった。
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