4 / 4

第1話 イケメン君の本性

――あの後のことは、あんまり覚えていない。…と言いたいほど、情けなかった。 とにかく驚いて、驚きすぎで後ろに尻餅をつき。「大丈夫?」と駆け寄ろうとした イケメン君の声をかき消すようにまた情けない声を出しつつ、立ち上がった僕は半泣き状態で。 「ご、ごべんなざい!!!!」 そう頭を一度下げると、後ろを向き猛スピードでその場を去った。 後ろで待ってとかそんな声が聞こえた気がするが、従うことなんてできなかった。 だって、突然すぎる。突然すぎるし、陰キャの僕にとっては生まれて初めてすぎることだらけで、頭のキャパシティーが限界になったからだ。 鼻を真っ赤にして泣くのを我慢しながら走る僕とは裏腹に、野球ボールを返しに行ったはずの勝が何故か野球グループと楽しそうに遊んでいるのを目にしたので、思わず拳を握ってそのままの勢いで肩にぶつけた。 「あっだっ!…あ、翔。」 「あ、翔。じゃない!!」 激怒する僕に勝は不思議そうに首を傾げていたが、お構いなしに腕を掴んで教室へと連れていく。どかっと乱暴に勝を椅子に押し飛ばすと、困惑した表情で僕の顔をじっと見つめてきた。 「??…何だ?何そんな怒ってんの?」 「お前勝手にどっか行くなよ!!」 「はぁ~??」 理不尽だとも言いたげに眉をひそめる勝。…確かに、そうなんだけど。 怒りのままに行動してしまったが、冷静に考えれば勝はさっき起こったとんでもないことなど知るわけがない。突然キレだした友人に理不尽に暴力を振られ、楽しく遊んでいたというのに教室に無理やり連れ込まれ。挙句の果てには、勝手にどこかへ行くなと怒鳴られる。 困惑するのも当たり前すぎる。すぐに後悔に苛まれ、僕は咄嗟に頭を下げた。 「…ごめん。」 「え、えぇ??今度はなんだ、情緒どうしたお前。」 「…ごめん。ちょっと、パニックになるような出来事があってさ。」 素直に謝ると、勝はやれやれといった感じで息を吐く。再び謝ろうと下げようとした僕の頭を軽く叩いてから、「で?」と今度は心配そうに問いかけられた。 「パニックって、どうしたんだよ。」 許してくれたことに安堵しつつ、勝の問いに正直に口を開こうとしたが…止まった。 だって、なんて言えばいい?優しくてみんなの人気者が僕のことを好きでした!なんて、言ったところで信じてもらえるわけがないし。そもそも、それは…いいのだろうか。 仮に、僕が勝にそのことを言って。万が一、それが誰かに聞かれて、噂にでもなったりしたら。あのイケメン君は、きっと心無いことを言われてしまう。 噂は思っているよりもしつこく付きまとうし、根も葉もないことを付け加えてしまったりしたら。 …あのイケメン君は、どう思うんだろうか? 『君が好きなんだ。』 いまだに脳裏に焼き付く。いつもの爽やか笑顔で言われたのは確かだ。でも、その告白はかなり勇気がいったのではないだろうか。しかも女性にではなく男性になんて、さらにハードルが高いはず。 …なんて、考えすぎかもしれない。お人好しすぎるかも、とも正直思う。実際、彼の言動について怖いと思ったのは事実だ。だったら面白おかしく告白のことを話して、噂になってしまえばいい。男が男を好きだなんて、ありえないよな!と笑ってやればいい…のかもしれない。 でも、あいつ。良いやつなんだよな。 良いやつが悲しそうにするのは…うん。なんだか、嫌だな。

ともだちにシェアしよう!