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序章③
「ゴホッ、ゲホホッ!!」
「わぁ、大丈夫!?」
「ず、ずみまぜ、んッ!ゲホッ!」
咳き込み何故か謝る僕に、イケメン君は慌てながらハンカチを渡してくれる。さっとハンカチが出てくるなんて、紳士すぎない?と思いつつ、申し訳ないのでやんわり断って息を整えた。
「いやー、噂をすればで驚いちまっただけだよ。悪ぃな。」
「そ、そうそう!ハハッ…はは…」
ガッハハハと豪快に笑い、僕の肩を強く叩きながらフォローを入れる勝に若干イラっとしつつ、僕も便乗してごまかすように笑い声を上げる。
「そ、そう?なんかごめんね。」
「いやいやいや!!こっちが悪いから!!」
一つも悪くないのに軽く頭を下げて謝る姿に、全力で首を振った。いやいや、こっちが悪いから謝られる筋はない。頭を上げてくれ、という意味を込めて腕を大きく振っていると、イケメン君はそんな僕を見てふふっと笑った。
「ありがとうね。…そういや、俺の話してたの?」
「えっ、あー…う、うん。そう。」
上手い誤魔化しが出来なくて素直に頷くと、イケメン君は目をキラキラとさせて僕を見つめてきた。真正面からのイケメンはキツイ。思わず視線を勝に向けると、やれやれと頭をかいた勝がイケメン君に説明してくれた。
「さっきさ、こいつの自己紹介の時に話しかけてたじゃん。何でかなぁっていう話をしてたんだよ。」
「あー、なるほどね。うーん、そうだなぁ…。」
どう言おうかと悩む姿まで様になるなんて、さすがイケメン。僕なんかでは絶対無理だ。なんて、話の腰を折るであろうことを思いつつ返答を待つ。だって、どう考えても答えが分からないからだ。イケメン君の気まぐれ?それとも、さっき言ったように僕の姿を見かねて?
気になりすぎて無意識にじーっとイケメン君を見つめていると、その熱い視線に気づいたのか目が合った。
すると、目を細めて…口元を緩めて。…何か。何か、いつもと違うような、今まで会った人達の中では、見たことがない。…不思議な、表情になった。
思わず目が離せなくなっていると、隣にいた勝が後ろを振り返る。「すみませーん。」と遠くの方から聞こえてきた声に、勝は足元に転がっていた野球ボールを手に取った。
「おー、ボールこっちにあるぞー!」
そのまま声のする方へボールを渡しに行く姿を目で追っていると、先ほどまで距離があったイケメン君が一歩、また一歩と僕に近づく。距離は一瞬で近づき、気づけば僕の目の前に来ていたイケメン君と、再び目が合った。
ひゅっと息を飲む僕に、イケメン君は微笑む。…その笑顔も、やっぱりいつもと違うような気がして。何というか、こう…。良い人?というよりかは、こう…。
「佐藤君。」
耳元で呼ばれた名前に、肩をびくつかせる。いつの間にそんな至近距離に、と慌てる僕に小さく笑って。「何でだと思う?」と、囁くように問いかけてきた。
「な、何で、って…。」
「考えて。何でだと思う?」
…何だ、何が起こっているんだ。本日二度目のいきなりすぎる展開に、視線を泳がすことしか出来ない。…ああ、ようやくふさわしい言葉を見つけた。このイケメン君は、いつもの良い人とかではなくて。
…僕をからかっているような。…意地悪な、笑顔。
……何だろう、何か…。とても、いや。めちゃくちゃ。
…嫌だ。
そう思った瞬間、反射的に僕はイケメン君に向けて両手を出す。軽く胸元に当たったイケメン君は、少しよろめきながら後ろに下がった。それでも視線を逸らさない姿に若干ビビりつつも、大きく息を吸い込んでそのまま勢いで言葉を放った。
「か、かっ…!!きゃらかうのはッ!!や“め”て“く”た“さ”い“っっ!!!!」
半ば悲鳴のような声色で放った僕の奇声は、非常に…情けなくて。若干甘嚙みしてしまったことも、普段大きな声を出さないから後半ガラガラ声になってしまったことも。全てが本当に、ださかった。
一気に体中の熱が上がっていくのを感じ、汗がダラダラと流れる。それでも、ちゃんと嫌だということを伝えれたことだけは良かったと、そこだけは自分で褒めながら、イケメン君の反応を待つ。さっきの意地悪な笑みはどこへやら、目を真ん丸とさせて僕を見つめるイケメン君は、数回瞬きをしてから小さく肩を震わせ始めた。
「……ふふ…。ぶふっ。」
「……へ?」
「あっはははは!!あー、はっは…、はー。やっぱり、いいなぁ!」
また今まで見たことのない、豪快な笑い声に今度は僕がぱちくりと瞬きをする。いつものイケメン君は、ふふっ。とか、ははっ。とか爽やか全開で。大口を開けて笑う姿なんて想像出来なかったので、まじまじと視線を注いでいると出てきた涙を拭いながら、再び僕の方を見つめてきた。
「佐藤君、俺さ。」
…その後の彼の言葉によって、これからの僕の学園生活を大きく変える出来事になるなんて、その時の僕は全く知らなくて。
「君が好きなんだ。」
歯を見せて笑いながら告げたイケメン君。
…木田悠人によって。いや、こいつのせいで。
「…は、…。……はぁぁぁぁぁあっ!?!?」
大きく狂わせられることとなるのだった。
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