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第一話「100円の男」

 北条都築(ほうじょう つづき)先生。彼は、近年人気のある小説家だ。その作品の多くは悲恋を描いており、サブキャラクターたちはもちろん、主人公でさえ報われないことも多い。ミステリーやホラーを題材にすることも多いが、その多くはやはりほとんど後味が悪い。しかし、彼の描くリアルな“理不尽”は、人を惹き付けてやまない生々しい魅力がある。 「…………なあ、おい、(さかい)。聞いてる?」 「聞いてない」 「聞けよ」  友人は顔を上げ、迷惑そうな表情をした。 「……それで、その……なんだっけ? 時定先生のサイン会に行くんだって?」 「北条都築先生だ」 「はいはい」  堺は、画面の割れた携帯を弄りながら、てきとうに頷いてみせた。 「北条先生はすごい人なんだぞ。あの人の織りなす文字と、見せる世界は、最低で最高だ! 北条ワールドは、ご都合主義が存在しない、鏡に映った現実なんだ。北条先生の世界は残酷だからさ、彼の描くヒロインは、『愛してる』も言えないんだ。何て告白すると思う? 『ずっとここにいて』って言うんだ、健気だろ!?」 「そりゃよかったね」  完全に話を聞いていない様子の堺は、カラカラと自分のストローを回した。氷とリンゴジュースが混ざってチリチリと溶け合う。彼は、コーヒーを始めとした所謂大人の飲み物はおろか、炭酸飲料さえ飲めないと出会った頃に聞いた。 「……そうだ(かし)、先輩が、今度の合コンに来いってさ」 「なんで俺が」 「鏡を見てみろよ」  あいにく鏡は持ち合わせていないので、柏はそっと窓ガラスを見る。ガラスには、見慣れた自分の姿があった。 「…………お、見ろよ、いい男がガラスに映ってるぜ」 「へえ、俺にはゴリラが見えるんだけどな」 「おま、堺!」 「……それで、なんで俺をここに呼んだんだ? まさか、その小説家の話をするためだけに呼んだんじゃないよな?」  堺は、柏をじとっとした目で見つめた。柏が、ガシガシと頭を掻き、堺から目を逸らす。 「…………あのさ、堺ってこの辺に住んでたよな?」 「ああ」  堺は、大学の近辺に住んでいる。時短や効率化という言葉に弱い男であるからだ。柏は目線をゆらゆらさせながら、小さく口を開く。 「……あのさ、俺のこと、三ヶ月くらい泊めてくれないか?」 「……ごめん、なんだって?」  堺は聞き返した。耳を傾けずにはいられなかったのだ。柏は両手を上げて降参のポーズを取った。 「…………あっ、三ヶ月ちょっとかもしれねぇけど……」 「違う、期間はきいてない。何? 泊めろって言った?」 「俺のこと、ちょっとだけ泊めてくれないかなぁって」 「無理だ」  堺は間髪を入れずそう返した。柏が、パシンと両手を合わせてごねる。 「……そこをなんとか……。頼むよ堺様……!」 「やだったら。無理だって。一日でも無理! 人と一緒に暮らすとか無理!」 「……まあ、お前はそう言うと思って、最後まで頼まなかったんだよ」  柏は姿勢を正した。テーブルの上で、指を遊ばせている。 「……正確には三ヶ月じゃないかもしれなくてさ」 「はあ? お前、条件隠して頼みごとして、俺から言質取ろうとしたのか? 信じられん、友達をやめる」 「いや、聞けよまずは」  ため息をついて、堺は静かになる。柏はゆっくりと話し始めた。 「……俺ん家さ、あの……、隣の部屋の人が、マッチを一箱分一気にすって、持ち手側を口に突っ込む遊びをしてたらしいんだけど、なんかその上の階の人も、全裸で灯油を床に撒いて灯油プールして遊んでたらしいんだよ。それで、何かがあってたまたま引火しちゃったみたいで、あの、建物まるごと燃えちゃってさ」 「……なんだって?」 「隣の部屋の人がマッチを一箱すって……」 「違う、そっちじゃなく……、いや、なんでそんなに気になる情報しかないんだ」  困惑する堺をよそに、柏は真面目な顔で話を続けた。 「俺その時、ちょうどマンションにいなくてさ。30分くらいいなかっただけなんだけど、置いてた金も持ち物も全部燃えて……」 「…………お前、今いくら持ってるんだ?」 「…………340円」 「お前それ500円玉持って出かけて自販機で160円のお茶でも買ったんだろ」 「コーラだよ!」 「そんなことはどうでもいい。それより、柏お前、なんだって? 家が燃えた?」  柏は頷く。堺は呆気にとられてしまった。心底悲しそうな顔をして、柏が続ける。 「……北条先生の本も燃えた。本が……」 「いや、そんな、うん、……いや、そ…………うん」  そんなものどうでもいいだろうと何度か言いかけてやめる。柏にとっては重要なものであることは間違いないし、まして、この傷心状態であろう彼にそんなことを言えそうにもなかったのだ。 「…………保険には入ってないのか?」 「入ってると思うか?」 「いや、野生の生き物には難しいと思うけど、でも、親が入らせてくれてたりとか……」  柏は少し苦笑いを浮かべて、首を振った。堺は首に手をやり、眉をひそめる。 「…………いや悪い。とにかく、お前今家がないんだな? そして金もない」  柏は頷く。水っぽいブラックコーヒーを啜る。堺は頭を抱えてため息をついた。 「……いやでも、やっぱ俺は無理だ。シェアハウスとか禁止なんだよ」 「堺が駄目なのはもうわかったよ。堺の友達とか、探してくれないか?」 「……探せっつっても、俺の友達は大抵お前の友達だろ」  柏は、どちらかといえば交友関係が広い方で、一方の堺は狭い方だ。根暗だと言われがちな堺と違って、柏は明るく活発で、誰からも好かれているような人間。堺は、自分に紹介できそうな人間がいるとは思えなかった。 「…………今は大学に寝泊まりしてんだ。でも風呂にも入れねぇし、飯も食えねぇし」 「……そうだろうな。金なら貸してやりたいところだけど、俺も今月はホントにカツカツなんだ」 「アレだろ、あの……サツキちゃんのファン……マーケティングみたいな、アレに行ったんだろ?」 「ミツキちゃんのファンミーティングだけどな」  堺とて、現在は節約のために毎日もやし生活を送っている。まだまだ食べ盛りの彼にとっては、地獄でしかない。そこに柏も加わるなど、二人で死ににいくようなものだ。 「……とにかく俺は無理だ。他当たってくれ」 「わかった。ありがとう、堺」 「ありがとうって、お前な……」  なんの解決策も与えられず、ほとんど冷たくあしらったようなものなのに、彼はヘラヘラ笑って、ありがとうなどと口にする。堺は眉をひそめると、ガシガシと頭を掻いて続けた。 「……大学前とかで人探ししたらどうだ。お前ならすぐ拾える」 「ヒッチハイク的な?」 「そうそう」 「迷惑じゃないか? それ……」 「…………金貸してやってでもイケメンと暮らしたい奴もいるだろ」  柏が、そんなやついるかよと苦笑を溢した。 「どうだろうな? 案外いるもんかも」  堺はほんの少しだけ笑みを浮かべる。柏はケラケラ笑いながら手を振った。  二人は立ち上がると、会計を通った。 「……コーヒー1点で、240円です」  店から出てきた柏は、どんよりと俯いて今にも倒れてしまいそうだった。堺が、驚きすぎて逆に引いたような、ひきつった笑みを浮かべる。 「……お前、阿呆だよな」 「……」 「頑張れよ、全財産100円男。俺は講義行くから」  堺は、柏の肩を二度ポンポンと叩いた。 「どうしても無理そうならまた声かけろ」  堺はそう言い残して、スタスタと歩き去っていった。  柏は手のひらに乗った100円をぼんやりと見つめる。ぎゅっと握り込むと、それを上着のポケットにねじ込んだ。する、と紙を滑る音と共に、100円はポケットの奥底に落ちていった。フラフラと歩き出す。少し行ったところで、柏は、はぁ、と大きなため息をついた。  しかし、俯いていても仕方がない。ここは、大学前で知り合いに拾ってもらう他ないのだ。  柏は気合いを入れ、勢い良く顔を上げた。その時、視界の隅に、道端でうずくまっている男性が見えた。 「ちょ、大丈夫ですか!?」  思わず柏が駆け寄ると、男性はほんの少しだけ顔を上げた。俯いていないと辛いのか、辛うじて眉の表情が伺えるが、顔はよく見えない。まだ若く、年は自分と変わらないように感じる。 「……ああ、はい……」 「きゅ、救急車とか……!」 「……だ、いじょうぶです、ただの貧血なので……」  柏は男性の背に手をおいて、隣にしゃがみこんだ。男性は、真っ青な顔をしている。 「大丈夫ですか? 貧血って何買ったら治りますか?」 「……少し休めば大丈夫です」 「やす、休むのに必要なものって……」 「ないです」  男性は食い気味に返すと、頭を抑えてため息をついた。 「少し静かにしてもらえますか」  柏はバッと口に手を持っていった。男性は変な顔をしてから、再び俯いた。 「…………」  柏はゆっくりと手を下ろす。その手を男性の背に下ろすと、そろそろと眼球を動かして、心配そうに男性を見つめた。 「……」  少しも落ち着いていられないのか、柏はキョロキョロ辺りを見回す。カップルの座っているベンチを近くに見つけて、指差した。 「あの、貧血のときは横になったほうが楽だって本で読みました。あのベンチをあけてもらいましょう」 「いえ、大丈夫です。もう、そろそろ……マシになりそうなので……」  その言葉通り、少しずつ、男性の頬に色が戻り始めていた。柏はほっとして、しばらく男性の横でおとなしくしていた。  やがて、男性はゆっくりと立ち上がる。頭を上げた男性の顔を見て、柏に衝撃が走った。 「ほ、北条都築先生……!?」 「え……」  黒縁の眼鏡をかけた、この賢そうな黒髪の男は、間違いない、北条都築だった。 「……貴方は」 「ほ、北条先生だ!」  柏は、突然北条の手を取り、ぱっと飛びついた。北条は、驚いて一歩身を引く。 「俺、北条先生の大ファンで……!」 「え、はぁ」 「本当です! そうは見えないかもしれねぇけど、先生の小説は全部読んでるし、エッセイもブログも読んでます! 大好きです!」 「……どうも、ありがとうございます」  北条が、ひきつった笑みを浮かべた。柏は嬉しそうににこにこと笑う。 「敬語とか使わないでくださいよ! 俺先生より年下なんで」 「いや、ああ、……うん」  勢いに押されて、北条は思わず頷いた。敬語で喋りたかった、と思ったときには手遅れで、柏は次から次へとベラベラ喋りだした。 「びっくりしたなあ、まさか北条先生にお会い出来るなんて……! 貧血は大丈夫ですか?」 「……あ、ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」  柏は、よかったです、と溌剌とした笑顔で言った。北条は、何も言わず、柏を見つめたまま固まった。柏は顔をまじまじ見つめられ、首を傾げた。 「どうしました?」 「……あ、いや、すまない。……その、すまなかった。お礼に何か……」 「あ、いいですよそんなのは!」  柏はぶんぶん手を振る。それからにこりと、人の良い笑みを浮かべた。 「たまたま通りかかっただけですから」  北条は、少し変な間を開けて喋りだす。 「…………いや、でも、申し訳ないから……なにか……」 「俺の一番好きな作家さんと喋れただけで充分です!」  北条は少し残念そうにしたが、分かったと呟いて、柏に頭を下げた。服の裾を一通り叩いてから、じゃあ、と言って去っていく。  北条の後ろ姿を、柏はぼんやりと見つめた。初めて出会った北条は、彼の作品ほど、捻くれた人ではなかった。どちらかといえば、穏やかで、知的で大人しい印象だ。北条のことを捻くれた頑固者だと思っていた柏は、彼があの名作を生み出している男だと思うと、なんと言い表せばよいのか、不思議な高揚感を感じた。柏はその胸の高鳴りに酔いしれながら、ゆっくりと踵を返した。しかし、突然ふと立ち止まる。  本当にいいのか? こんな機会、きっともう二度とない。北条は基本人前には顔を出さないことで有名で、写真だってネットのどこを探しても、デビューのときに撮られた二種類しか見つけられない。今度初めて行われるサイン会も、滅多に開かれるものではないだろう。  このとき、柏は気がついた。そういえば、百円しか持たない自分は、新刊を買うことができず、今度のサイン会には参加できないのではないか? 「あの、北条先生!」  柏は振り返って大声を出した。北条が、その声に気付いて振り返る。清潔感のある柔らかい黒髪が、ふわっと揺れた。  上着のポケットを無意識のうちに握り込む。分厚い紙束と、100円玉を布越しに感じながら、柏は北条に向かい合った。 「やっぱり……!」  このとき、デビュー作から北条都築の熱狂的な大ファンである柏は、実は、見た目よりもいっぱいいっぱいだった。  自分が今言いたいこと、自分が今すべきこと、今自分が握っているもの。  彼は勢いのある大声で、北条に呼びかけた。 「この100円で、俺のこと住まわせてください!!!」  北条はきょとんとした顔で、柏を見た。 「………………100円で?」  柏は、頭から火を吹かんばかりの勢いで、顔を真っ赤に染め上げた。  広い部屋に通され、柏は不躾にもそわそわと辺りを見渡した。 「……それで、柏さん、だったっけ」 「は、はい。柏です。柏冬樹(とうき)」  柏はおどおどと答えた。彼は、机の上にティーカップを並べながら、柏をちらっと見る。 「……俺、織真都(おり まなと)」 「お、おり……?」 「織真都。北条じゃなくてそっちで呼んでくれないか」 「あ、はあ、はい!」  柏はピシッと座り直す。織は、柏の反対側に座ると、ティーカップ持ち上げた。どうやら、紅茶のようだ。 「まあ、話は聞くから。くつろいで」 「ありがとうございます」  柏は再びそわそわと足を並べ直すと、ひとつずつ、自分の身に起こった出来事を話していった。 「…………それで、俺は今、全財産が100円なんです」 「それは…………災難だったな」  嘘のような本当の話に、織は何と声をかけるべきか悩んで、結果無難に落ち着いた。 「だが、家も金もなくなるなんてな……」 「まあ……びっくりですよね……」 「それで、俺に住まわせてくれと?」 「あっ、いやいや、とんでもない! 織先生のお世話になる気はないんで」 「え?」  柏はヘラっと笑って頭を掻いた。 「あん時、俺めちゃめちゃテンパってて。『やっぱりサインください』って言おうとして間違っちゃっただけなんで」 「……そうだったのか。通りで脈絡もないなと」 「いやもう、マジでごめんなさい。俺、北条先生大好きだから……」  織の目がぴくっと動いて柏を見た。その瞬間、リビングの奥から、キャンキャンと犬の鳴き声が飛んできた。 「静かにしろ、パロ。パロ!」 「あ! その子があのパロくんですか?」  柏がぱっと嬉しそうに身を乗り出した。謝ろうとしていた織が、驚いて固まる。 「『落ちこぼれ警察』に出てくる、パグのパルタールのモデルですよね!」 「……本当に俺の作品を読んでんだな」 「はい、そりゃもちろん! リアルパルタールだぁ。パルタール〜〜」  柏がフラフラと手を振ったが、パロにはふいとそっぽを向かれてしまった。普段はおとなしくて愛嬌の良い犬なのだが、と織は不思議がった。 「……それで、どこか泊めてもらうアテはあるのか?」 「あーっと、今から大学で探します」 「……ないんだな。よかった」  よかった? 何がよかったのだろう。今の話に良かった要素あったか? 柏がそんなことをうんうん気にしていると、織は突然左手を突き出してきた。柏は首を傾げる。 「あの100円、どうした?」 「あ、ポッケに入ってます」  柏は上着のポケットを漁った。何が入っているのか、少々出しづらそうな様子だ。やっとのことで、柏はポケットから100円を取り出した。すぐさま、織が、柏の右手ごとその100円を奪い取ると、腕を胸にぐいっと引き寄せた。 「交渉成立だ」  柏は首を傾げて織を見上げる。 「……え? 何?」 「交渉成立。家を探しているんだろう?」 「…………家? はい」 「話分かってるか? ここに住んでいいと言っているんだ」 「……え?」  柏は何も分からない、という顔をした。織はバツの悪そうな顔をして、目をそらす。 「……嫌なら、別に構わない。だが、丁度新しいエッセイの内容を考えていたところだから。ちょっとした刺激にはなる、だろ」 「で、でも、先生の迷惑になるじゃないです……」 「敬語禁止だ。『先生』も」 「え、俺年下だけどいいんですか?」  敬語、と織が口にする。  そんなことを突然言われても、北条都築は柏の憧れの作家だ。そんな彼に向かって、タメ口をきくなど恐れ多い。 「一緒に住むんだから、もう俺たちは平等だろう。上下関係があるとややこしい」 「けど……」 「俺と、北条都築は別の人間だ。同一視されるとやりにくい」  織はそう言った。柏はおずおずと頷く。 「柏さん、年いくつ?」 「……に、22」 「22なら同い年じゃないか」 「違う、一つ下だ。せん……織さん早生まれだろ?」 「よく知ってるな……」  織は苦笑を溢した。 「でも、織さん、マジで俺を泊めてくれんのか? 100円で? 三ヶ月でも日給1.09円以下だぞ?」 「計算早いな。……いいって言ってるんだからありがたく住んどけ」 「そりゃ、ありがてぇけどさ……」  確かにありがたい。彼がいなければ、おそらく柏は今日も明日も明後日も、野宿を繰り返すことになっていただろう。正直、本当にありがたい。しかし、柏は人に何かをしてもらうことが、少々苦手な性格でもあった。  戸惑っている柏を見て、織はため息をついた。 「……まあ別に、外に放り投げてもいいんだぞ。今日の晩飯も買えないだろうがな」 「駄菓子がたくさん買えますよ!」 「駄菓子でいいんだな?」 「……えぁ、いや……」  天然なのか何なのか、柏は時折ズレたことを言う。柏にも自覚があったが、勝手に口から出ているのだから仕方がない。 「俺は一度決めたことを曲げない、頑固で面倒な性格だ。俺のファンならよく知ってるだろ?」  織は自らを嘲るように笑った。ああ、北条先生だ、と、その顔を見て、柏は何故かそう思った。 「一匹も二匹も変わらない。気にするな、本当に」  織はガチャガチャと、パロのケージを弄りながらそう言った。柏が、大人しく頷く。 「……ありがとうございます。…………匹?」 「パロ、ほら、お前の弟だ。仲良くしてやれ」  ケージから放たれたパロは、まっすぐ柏に向かっていき、柏の指に思い切り噛み付いた。 「いッッたい!!」 「こら、パロ、優しくしろ。お兄さんだろう」 「お、織、お前……っ、俺のことを匹で数えたのかよ!」  織は柏を振り返り、ふっと嘲るように笑った。

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