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第十話「幸せが創造する」

 とある日の夜。ベッドの上に寝転がり、ダラダラと過ごしていた柏が、いきなり、バタンと起き上がった。どうやら、そろそろ、寝る時間らしい。織がパソコンを閉じると、待ってましたと言わんばかりに柏が飛びついてきた。彼は織の寝間着を抱えている。  彼の持ってきた寝間着に着替え、寝支度を整えると、織は彼が正座で待っているベッドに向かった。なんというか、犬より犬らしいヤツだ。 「な、織って、俺のどこが好きなんだ?」  織がベッドに乗り上げたとき、柏が尋ねた。 「……唐突だな。……柏は?」 「生活能力が無いところ!」  柏は、にかっと曇りなく笑う。枕元に保湿クリームを並べ、織の朝のアラームを勝手にセットし、布団を温めてワクワクと待っている彼に、どう反応するべきか、未だに分からない。 「…………あ、世話焼かせてくれるとこってことで、馬鹿にしてるんじゃないからな」 「……はー、料理でも勉強しようかな」 「ほ、本気か……?」  柏は、おやつを目の前で取り上げられた犬のような顔で織を見つめる。織はくすっと笑った。 「……冗談だ、めんどくさい」 「よかった」  大げさに胸を撫で下ろす彼を見て、織はどうにもくすぐったい気分になった。彼の世話好きは、変態の域にあると思う。 「……それで、俺の好きなとこは?」  柏が、腕を広げながら尋ねる。織はその中に彼と同じ向きですっと収まると、右腕を持ち上げた。柏が楽しそうに織の手を取り、保湿クリームを塗りつけていく。 「……顔」 「顔?」  柏は手を止めた。そういえば、彼がなぜ自分を気に入って、家に連れてきたのか分かっていなかった。 「そうか、顔……、顔かあ……」 「不満か?」 「うーん、俺の顔は皆好きだろ?」 「…………はあ、その口がなければ完璧な色男なのにな……」 「あはは、国宝級イケメンだからな!」  柏は織の手をやわやわと揉みこみながら言った。若干照れているらしい。  頭の回転の早い織は、少しして、どこかぎこちなく口を開いた。 「……そうだな、できることなら、ずっとその顔を見せてほしいくらいだ」 「なら、好きなだけ見せてやるよ!」  柏はぱっと明るい笑顔でそう言った。してやりたがりの彼は、こちらがしてほしいと言えば一発だ。織が、ほんの一瞬、にやりと笑った。  「な、なあ織」 「喋るな」  顔をまじまじと見られて、柏は織から目をそらす。いくら母からも友達からも可愛がられ持て囃された顔面とはいえ、こんなに長い時間、誰かに見られたことはない。 「…………お、織、これ、そんなに楽しかったか?」 「……なんでお前の睫毛こんなに長いんだろうな……」 「織さんって、時々脳と口が直結していらっしゃいますよね」  ぼんやりとしているらしい織は、そうだなとだけ返した。何もこちらの話を聞いていないようだ。柏は困ったように眉を下げた。 「触っていいか?」 「どう、どうぞ?」  織の指が、そっと柏の睫毛に触れる。柏は思わず両目を一度キュッと瞑った。 「……ふ」  織の瞳が、柔らかく細められ、その奥でちらちらと艶っぽく濡れた瞳が揺れた。心臓が跳ねる。その瞬間、柏は、この男は、自分をからかっているのだと分かった。それが分かった途端、柏の心の底から、言葉にできない劣情が、わっと湧き上がった。 「……お、織!」  柏は、堪らなくなり織の肩を掴んだ。 「どうした?」  彼の言葉と表情こそ冷静だが、彼の瞳はいたずらっぽく輝いている。彼の期待が見える。柏は、溢れそうな感情で震える唇を、ゆっくりと動かした。 「も、もういいだろ、あんまり見ると見飽きるぞ」  柏の声はか細く、不自然で可笑しかった。  織が、今度はしっかりとくすくす笑った。からかわれている。間違いない。彼が何を期待しているか、わかるような気がして、柏の心臓はドクドクと脈打った。  織は柏の前に膝立ちになり、柏を見下ろした。 「……目の色……」  織の手が、柏の頬を覆う。睫毛が少し伏せられ、甘ったるい色を孕んだ瞳が、柏を見下ろす。さり、と、人差し指が柏の耳を滑る。 「……赤っぽいな。いい色だ」  織の顔が、ずいと寄ってくる。顔と顔がくっついてしまいそうな距離に、柏はひとつ瞬きした。心臓がバクバク鳴っている。 「……お、織、あのさ」  柏の声が裏返っている。頬は少し汗ばんで赤く染まっており、彼が緊張していることは一目瞭然だった。 「あ、あんまり近くに寄られると……あの……」 「寄られるとなんなんだよ、言ってみろ」  織は、柏の頭から手を離すと、柏の足の間に自分の膝を押し入れた。その瞬間、柏の心臓がどきりと跳ねる。ぐいと織の膝が、柏の股間に押し当てられ、柏は顔を赤くした。 「……近くに寄られると、どうなるって? 柏冬樹くん」  緩く押し付けられる織の細い足。すり、と耳を撫でられ、柏は自分の心臓の音と、織の声しか聞こえなくなった。織の人差し指が顎へ滑り、くいと顔を上向きにされたとき、柏は織の腰に手を伸ばした。 「……からかうなよ」 「からかう? ……少し違うな、分かるだろ?」 「……それってからかってるだろ」  柏が不満げに織を睨む。織はくつくつ笑って、柏の首に腕をかけ、抱き寄せてベッドに寝転んだ。  「……はあ……っ、は……っ、ぁ」  柏はそろそろと織の性器を扱く。織が柏の肩をきゅっと掴んだ。 「……柏」  織は少しだけ呼吸を乱していた。 「もう少し、強くしろ……」 「けど」 「いいから……、これ以上焦らすつもりか」  織が柏の腕を掴んで引っ張る。柏がおっかなびっくりで与える刺激は、なんともぬるいもので、織はいい加減我慢の限界だった。 「で、でも、無理させたら、織が倒れるんじゃないかと思って」  柏の腹を足で蹴る。 「いっ!」 「……随分余裕があるらしいな、この童貞は」  我慢強くない織は、とうとう柏の性器を緩く撫で始めた。 「っ、ぅ、織……っ?」  柏は眉をひそめ、初めて感じた、人から与えられる快感に驚いた。思わず息が漏れ、柏はベッドに両手をついて織に覆い被さった。 「……織……っ、それ、待って……」 「……は、いい顔だな。俺はお前のこういう顔が見たかったんだ」  織は艶っぽい声で笑う。柏の心臓は破裂しそうなほどバクバクと脈打っていた。織が、自分の身体に手を滑らせる。 「柏、ほら、お前の好きにしてくれ」  織は柏の目をまっすぐに見て、そう言った。 「……ぁ……と……」 「何をしてもいい。何がしたい? 俺を、お前の好きにしてほしい」  織は淡々とした声で畳み掛ける。柏の目が揺らぎ、赤く染まった頬が震える。 「……キ、キスがしたい…………」  織は二度瞬きして、困ったように笑った。 「は、……全くお前は……」  織が、柏の首に腕を回す。柏がゆっくりと織に口付けた。短く、浅いキスが繰り返される。 「……柏、もっと……」  織が呟く。柏は再び唇を合わせ、おずおずと舌を出した。 「は、……ん……、ん……」 「織……」  舌が絡まり、ゾクゾクと腰が痺れる。たどたどしい動きで、柏の舌が、自分の口内を堪能している。こんなに美しい顔に、一生懸命な表情を浮かべて。 「……は、……っ、柏、もっ、と……」  織の目の奥で揺れる熱い火に、溶かされてしまいそうになる。柏はゆっくりと口を離し、ぼんやりとその瞳を見つめた。 「…………織、今すげえエロい顔してる……」 「……っ、……!?」  爽やかで清純な、柏の整った顔についた口から、思いもよらぬ言葉が出る。織は驚きと興奮で思わず喉鼓を鳴らした。 「……織、ホントに俺の好きにしていいのか?」 「あ、あ」  織はなんとか答える。整った顔に、色がつく。 「…………舐めていいか?」 「え」 「上手くねぇと、思うけど……、好きにしていいんだろ?」  柏の大きな手のひらが、するりと織の性器をなぞった。織は、少し戸惑った末に、こくりと頷いた。  先程柏に弱い刺激を与えられた織の性器は、すでに緩く頭をもたげていた。柏はそれをじっと見つめる。柏の口が開き、赤い舌が織の性器に這う。ぬるりと、弱い刺激が走った。 「は、っ……」  ちらりと柏が織を見上げて、分厚い舌で裏筋を舐めあげる。そのまま、尖端を舌で押すように舐め、それからまた根本へ滑る。 「……お前、そんなのが本当にやりたかったのか……っ?」 「好きなもんは……仕方ないだろ」 「……は、本当に犬みたいな奴だよな……ぁ……っ」  織の身体がぴくりと跳ねる。柏は再び織の性器の先端を、押すように舐めた。 「柏、ソコ、ぁ……っ、あ」  織は柏の肩を握る。だんだんと、織の声がふやけて、甘くなっていく。 「ぁ、きもち、い……。ぅ、……っ」  柏が織の性器を咥えこんだとき、織が、自分の口を手で押さえてしまった。 「……は、う、……ン、ッ!」 「織、手どけて?」  織は首を振る。柏が苦笑をこぼして、織の腕を掴んで引き離した。 「柏、っ! ぁ、あ……っ、あ、っ……!」  柏は口を離すと、手で根本を擦った。織が思わず柏の肩を押す。 「ばか……! かし……っ、ぁ、あ……!」 「これ?」  柏は織の性器の先を舌で舐めながら、手で彼の性器を扱く。織がぴくぴくと跳ねた。 「ぁ、あ……ッ! 柏、くち、はなせ、イく、出るから……!」 「うん」 「ッ、柏、出る、でる、汚れ……っ」 「汚していいから」  織は足をびくびく震わせた。柏の指が、織の内腿を滑っていく。 「は、イく、イ……ッ、イく、あぁ、ぁ、あ、ン、ンン……ッ!」 「……っ」 「あ、ぁ……っ! か、し……ッ、かし……ッ」  織の性器は、びくんと跳ねて白濁液を吐き出した。荒く息を吐く織を見ていると、柏は、自分の身体がゾクゾクと興奮していくのがわかった。 「の、飲むなよ、腹壊すから!」  織が慌ててそう言った。柏はきょとんとする。それから、自分の口の中の状況を思い出した。織は飲まされていたのだろうかと、嫌な思考が頭をよぎる。柏は近くに置いていたティッシュペーパーを二枚取ると、そこに精液を吐き出した。   「……織が、『かし、かし』って舌っ足らずで呼ぶの、すごいエロくてかわいいな……」 「……っ! そういうこと言うな……っ」  その爽やかさの代名詞のような顔で、少しでも卑猥なことを言われると、そのギャップに頭がくらくらする。まるで、何かいけないことでもしているかのような気分になる。 「……そういうって?」 「っ、ぁ…………」  織は中途半端に口を開いた状態で固まる。柏は彼が言葉を発するのを待った。 「……エ、ロいことを、言うな。……ゾワゾワするんだ……」 「……今の織の顔すごいやらしかったな」 「そ、ういうことを言うなって言ってるんだ……!」  柏が揶揄うように笑った。織は目を逸らす。彼の顔は、とても直視できたものではない。  顔を逸らされた柏は少しだけ寂しそうにして、織の白い腹にキスをした。驚いて、織は再び柏を見る。 「俺だってさ、あのお堅い織先生が、俺の下手なフェラでイッてるって思うと堪んないんだよ」 「……っ!」  織は口を押さえて目を逸らす。柏は今度こそ苦笑をこぼした。 「……織ってそこまで俺の顔が好きなのかよ?」  柏はクスクス笑う。織は、バツが悪そうな顔をした。 「…………なら、もっとしっかり見てろよ。俺のこんな顔が見られんの、お前だけだぜ」 「俺、だけ……」  織の目が少し輝く。 「……俺の、柏」  織は柏の頭を引き寄せて、無理矢理キスをした。フェラをしたあとだろうが関係ない。そんなことはどうでもいい。 「柏」  織は足を大きく開き、尻臀をぐいと横に引っ張った。 「…………挿れてくれ」 「は、えと……」  戸惑う柏を見て、織はさらに後孔に指を滑らせる。少しだけ指を中に挿れ、くいと拡げる。後孔は簡単に広がり、中からローションが溢れ出た。 「……は、……」  柏はあまりの光景に固まった。言葉がなにも出ない。織が心配そうにおずおずと顔を上げた。 「……柏?」 「ま、待ってくれ……!」  柏は織に手のひらを見せる。織は一度目を見開いて、それからにやりと笑った。 「……へえ」 「ま、待てってば!」  織は柏の手をやわやわと握り込み、起き上がって彼に身体を寄せた。 「……もう随分触ってないけど、まだちゃんと勃ってるじゃないか」 「あ、あたりまえだろ……!」 「よかった……」  織は笑う。その言葉に、柏がはっとして尋ねた。 「『よかった』?」  柏は織の手を掴んだ。驚いて、織は柏を見る。 「お、織。俺がお前に手出すのが遅かったのは、俺がただ、意気地のない男なだけで……」 「いや、別に何も言ってな……」  織は固まる。彼には心当たりがあったのだ。 「……さ、堺に、『織さんが、柏は性欲がないのかってうるさいんだけど』って言われたんだ」 「……やっぱり堺くんか……。彼は口が固いのか何なのかわからないな……」  めんどくさそうにそう伝える彼の顔が目に浮かぶ。織は頭を抱えた。 「俺は織が大好きなんだよ。だから、怖がられるのも、怪我させるのも、嫌で……」  柏はそう言ってうつむいた。しかし、すぐに、はっとして顔を上げる。 「も、もしかして、それで機会作ろうとして、さっきの……!」 「だ、だまれ、そうじゃない。単純にお前の顔が好きなだけだ」  織は更に何か言い出しそうな柏の口を手で無理やり押さえつけた。そろそろと目を逸らし、織はきまり悪そうに口を開く。 「忘れたのか、俺はお前に抱かれたくてお前を家に入れたんだよ。けど、実際入れてみりゃ見た目に反して遊んでもないし誠実だし世話好きでお人好しだし……」  そもそも、女癖の悪そうな顔をしているのが悪い、と心の中で勝手に柏を責める。織の当初の計画通り、泊める代わりに、などと言えそうな雰囲気さえなかった。 「分かってる。お前は……、お前は別に、男が好きなんじゃなくて……、男とセックスするなんて、人生で考えたこともないはずで……、そんなことは、分かってんだよ……」  織は柏から目を逸らす。恥ずかしかった。まだ、純粋に自分を大切な友人として扱ってくれていた彼を邪な目で見て、彼に劣情を抱いたことが。あんなことがあって尚、欲を抱いてしまうことが。 「…………俺が邪な気持ちでいるのが、恥ずかしくなったさ。……けど、俺は、気持ちいいことが、どうしても、好き、だから……」 「……俺と、したかった? 最初からずっと?」  織は顔を真っ赤にして俯いた。 「……ああクソ、恥ずかしいことをしたのは謝るから、頼むからもう俺に幻滅しないでくれ」  柏の指が、パチンと跳ね、織の額にぶつかった。 「…………被害妄想」  柏はくすっと笑った。 「……俺の話ちゃんと聞けよ。俺はお前が好きなんだ。幻滅とか訳わからんこと言いやがって。北条先生は確かに俺の憧れだけど、俺はお前に憧れてるわけじゃないからな。北条都築と織を同一視するなって言ったのはお前だろ」 「……そう、だっけ」 「そうだよ、忘れたのか?」  柏はケラケラ笑う。それから、織の頬に指を滑らせて、ふっと微笑んだ。 「……あと、お前が性的なことが好きなのは、正直『俺の織すげぇエロくてかわいいなぁ』としか思ってねぇ」  織は目を瞬かせ、それから顔を赤く染めた。 「……織が誘ってくれたら、俺は普通に嬉しいし、燃えるし、お前をどうこうしてやりたいと思うよ。……ぐちゃぐちゃに、何にもできないくらい甘やかしてやりたい」  甘やかされてるのはいつもだと思いつつも、混乱していた織は何も言えなかった。 「織、お前やっぱり俺を聖人君子だと思ってるとこあるよな。……知らなかったか? 俺は意外と普通の男なんだよ」  柏は笑う。織は、肩の荷がすっと下りた気がした。心が軽くなって、抑えていた感情や欲が溢れだして爆発した。 「……なら、こういうのも好きだろ、童貞野郎」 「わっ」  織は吹っ切れたように、柏を仰向けに転がすと、その腹の上に乗った。人の腹の上で、織は恍惚とした微笑みを浮かべる。その妖艶さに、柏は思わず見惚れた。 「俺が好きなようにやる。もう恥もプライドも知らねぇ。……お前みたいなの、馬鹿みたいに腰振る俺見て、萎えればいいんだ」 「その時々出る意味分からんツンデレみたいなのはなん……っ」  柏の口を塞ぐようにキスをする。 「……うるさい」  大人しくなった柏を見て、織はふっと笑った。まるで、年の離れた大人を見ているような気分になり、柏はどきりとした。  織が後孔を柏の性器に押し当てて、ゆっくりと腰をおろしていく。 「……は、ぁ、……っ、は……く……」  あまりにもエロティックな絵面に、柏はつばを飲み下す。  織はゆっくりと、自分の内壁が開かれていくような感覚と、彼の体温を味わった。 「は、あ……っ」  あと少しのところで、織が腰を止める。  まるで捕食者のような目で、柏を見下ろし恍惚とした表情で笑った。 「……こんなとこまで挿れんの、初めてかも」  自重を思い切り乗せきり、織は腰を沈めた。ぐっと突然内壁が狭まり、柏は、性器の先が吸われるように圧を感じた。その瞬間、びくびくと織が身体を跳ねさせる。 「……は……っ、あ゙……ッ!! あ゙、あ゙ぁ……!」 「な、おり、織……?」 「ハ……ぁ……っ、……待っ、てろ……、……ッ」 「織? 大丈夫か、織」  柏が織の腕をそっと握る。織は肩で息をしながら笑った。 「……は、ぁ……、お前、ホントに、もったいねぇやつだな……」  織は緩く腰を動かしはじめた。  柏は心臓が今にも爆発しそうだった。ナカは気持ちがいいし、織は突然この上ないほど妖艶で淫乱になって自分を攻め立てる。彼は本当に気持ちいいことが好きなのだと確信した。それはそうか。顔だけで、見ず知らずの全財産100円の男をひょいと拾ってしまうような男だ。 「……は、う、……あ、あ、きもちいとこ、当た、……っ、ぁ、……あ、ぁ……っ」 「……織、きもちいい?」 「は、ぁ……っ、きもち、い……っ」  織が、へにゃっと笑った。  普段のクールな表情を崩し、欲のままに乱れる織を見ていたら、やっと、彼が自分を本当の意味で頼ってくれた気がした。織の全てを曝け出して、彼の抱えるコンプレックスも、トラウマも、今も、一緒に背負わせてくれた気がした。 「ぁ、あ、きもちい……っ。柏の……っ、いい、ぁ、イきそ……っ、イキそう……っ」  生々しい水音が響き、ゾクゾクと腰が疼く。柏は織の足に手をやると、するりとその白い足を撫でた。 「は、ァ……ッ、イく、すぐ、イっちゃ、イく、イく、イくイく、イ……ッ!」  ナカがぎゅっと締まり、柏の上でガツガツ腰を振っていた織が、突然動きを緩める。顎を反らせて、ゆるゆると、その余韻を味わうように、織は腰を前後に揺らす。 「はぁ、は、あ……ッ、あぁ、あ……、あ……」  しばらくして、織はくたっと柏の上にへたり込んだ。柏が、ゆっくりと織の頭を撫でる。 「ホントに、イけんだな……」 「はぁ、は……、うるさい……。きもちいいとこに当て続けたら、イけるに決まってるだろ……」  それに驚いているのだが。柏は織の頭を優しく撫で続けながら、腰を緩く動かした。 「……ッ!? お、い……! 柏?」  柏の性器が、織の前立腺を掠める。射精したばかりの織の身体が、簡単に快感を拾う。 「……織、この辺だろ? ほら、さっき当たってたとこ……」 「待ッ……かし、イ……ッ、今イッた、少し、……少し待て……っ」 「織、体位変えてもいい?」  織が頷くと、柏は性器を引き抜いて、織をベッドに転がした。再び彼の後孔に性器を押し当て、ぎこちなく、しかししっかりと腰を進める。 「は、……待っ……か、し」 「……この辺り……上のほう」 「ン゙ンッ! あ゙……ッ!? あ゙、ぁ……っ、だめ、だめ、柏……ッ!」  織が柏の腕をぎゅっと掴む。 「さっきみたいに、押し込むみたいにするの、好きなんだよな?」 「待、や、……ッ、嫌だ、嫌……ッ、イく、イく、ぐりぐり、駄目、かし、かし……!」  柏は、織の前立腺を的確にせめる。彼の性器は半分くらいも入っていないであろう場所を、しつこいくらいに押しつぶされる。してやりたがりの彼らしいが、織に押し寄せる快感はあまりにも暴力的だ。 「あ゙、は……ッ、あ゙、あ゙ぁあ……ッ!?」  織が、足をピンと伸ばして、びくびくと跳ねた。織の性器から、白い液体が吹き出した。 「……は、織、イッてる……」  柏が満足そうに笑った。織の身体は、久しぶりに与えられた理不尽なほどの快感を、余すことなく拾う。 「あ゙、ン゙ン、イ、ぐ……っ、止め……っ、かし……!」 「うん?」 「イっ、だ、イ゙ッたぁ……! 止まって、柏、柏、きもちい、いく、から……ッ!」  織の足は、何度もガクガク痙攣する。休み無く連続的に訪れる快感は、だんだん彼の脳を溶かしていく。射精などしていないのに、射精と変わらないような快感がずっと頭に押し寄せる。懐かしいような、それでいて今までとはまるで違うような快感。 「……織、気持ちいい?」  柏が、織の視界の中で、ふっと微笑んだ。熱っぽい瞳と、目が合う。その瞬間、ゾクゾクと、いつもの射精とは比べ物にならない快感が織に飛び込んできた。 「ア゙、あ゙アぁあ……っ!?」 「っ、ぅ……」  柏は、性器を締め付けられる快感を、なんとか耐える。柏は前髪をかきあげながら、にやりと笑った。 「俺の顔見ただけでイッちゃうのは、びっくりだな……」 「だけじゃ、ねぇ……ッ、お前、きもちい、とこ、ずっと、押して……ッ!?」  不満そうな声でなんとか抗議していた織の上半身が、突然ビクンと跳ねた。柏の性器が、自分の奥深くを刺している。 「ゔ、ン゙ンッ!? あ゙、ぁあッ、柏、そこ、そこ……っ!」 「……ここ?」 「や、駄目、やだ、や、もう、もう……ッ!」  織のナカは再び弱く収縮する。柏は織の最奥を、こじ開けるように性器を打ち込んだ。 「ン゙ぁあ!?」  織が背を仰け反らせ、快感を逃がすように叫んだ。 「あ゙ぁッ!! だ、め……ッ、お、ぐ、おぐ……っ! イ゙けない゙、もう、イ、イ゙げない、あ゙、あ゙ッ、イく、イ、ぁ゙……ッ!」 「……は、えっろい。……かぁわいい、織……」 「あ゙ッ、あ゙ァああ!!? だめ、か、し……ッ! きもち、きもち……い゙……ッ! か、ら、やめ、やめえ゙……ッ!」  柏は最奥を強く突く。織の腰をがっちり掴んで、突き刺すように性器を押し込んだ。 「あ゙……ッ、あ゙ぁあ……ッ!!」 「好き勝手してごめんな。でも、奥のとこ、気持ち、よくて……」 「あ゙、あ゙ぁあ! いぐ、イぐ……! おぐ、イ、あ゙……、おく、あたっ、……やら、ら、め、イ、イく……ッ! イぐ、ってぇ……ッ!!」 「織……っ」 「は……、あ゙……っ、あ゙、あ゙ぁあッ!!」  織のナカがぎゅっと収縮する。柏は織の最奥に、その欲を吐き出した。 「あ゙ッ、あ゙ぁ……、あ……」  二人は、しばらく肩で息をしていた。お互いに、一言も発せない。時折漏れる織の喘ぎ声と、呼吸以外に、音はなかった。 「あ……ぁ……っ……、か、し……っ、かし……」  織が、ゆっくりと柏の身体に手を伸ばす。柏は、はっとして織を見た。 「だ、大丈夫か、織」 「……だいじょうぶ……?」  織はぼんやりと呟いた。柏はゆっくりと性器を引き抜くと、織の額にぺったりくっついた前髪を払った。 「きもちいい……。お前との、セックス……」  柔らかく、織が微笑んだ。 「なんでだろうな……」  柏は織を抱きしめる。 「……好き、織」 「知ってるよ、知ってる……」  織はくすくす笑った。 「好きだ……」 「分かったって。……俺も好きだ」  更に強く抱きしめられて、織はくつくつ笑った。 「……俺、100円で、たった100円でこんなに幸せになっちゃって、いいのかな……」  織は思わず苦笑を溢した。あのとき支払われた100円なんて、きっかけに過ぎないだろうに。  自分は彼の幸せの一部になったのだと、織は嬉しくなった。 「……そうだ、柏。……次の小説、こんなのはどうだよ」 「えっ、なに? どんなの?」  織は、キラキラした目で自分を見る柏に、柔らかく微笑んだ。 「『100円で俺のこと住まわせてください!』とか」 「……あっはは、いいなそれ。主人公はあれだろ、とびっきりのいい男なんだろ」 「犬だよ、主人公は犬」  織が、楽しそうに空想の世界を話しだす。夢中になって喋る織の隣、柏の笑顔はあまりにも優しかった。

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